弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

<   2013年 04月 ( 55 )   > この月の画像一覧

茅ケ崎中央病院,がん検診の結果が約半年伝わらず

msn産経「「要精密検査」を5カ月半告げず 神奈川・茅ケ崎中央病院 76歳男性肺がん診断」(2013年4月12日)は,次のとおり報じました.

「神奈川県茅ケ崎市が市内の病院に委託した市民向けがん検診をめぐり、受診した男性(76)の検診結果が「要精密検査」だったにも関わらず、病院側が5カ月半も結果を告げていなかったことが、分かった。男性はその後、別の病院で最も進行度合いの高い「ステージ4」の肺がんと診断された。病院側は男性に対し「結果はまだかと声をかけてくれれば対応できた」と説明している。

 検診結果を放置していたのは茅ケ崎中央病院(同市茅ケ崎)。男性は平成23年8月31日に受診し、9月5日に「要精密検査」の結果が出た。同病院は6日から再検査を促すため、男性の自宅に複数回にわたって電話連絡したが、不在で連絡が取れなかったという。

 男性は10月~24年1月、持病のため同病院で診察を計4回受けたが、病院から結果報告はなかった。その後、同年2月に診察を受けた際に初めて結果を聞かされ、医師から精密検査を受けるよう勧められた。男性は3月、都内の大学病院でステージ4の肺がんと診断され、5カ月間入院後、現在も通院している。

 茅ケ崎中央病院は男性に対し「(電話の代わりに)結果を郵送することは行っていない」と説明。電子カルテ上には検診結果が表示されず、この間診察に当たった医師も結果が男性に通達されているかどうかは確認できなかったという。

 同病院を運営する医療法人社団「康心会」は「弁護士と相談しており、取材に対応できない」としている。」


患者から声をかけてくれれば対応できた,というのは,たしかにそのとおりですが,患者からすれば,10月に通院したときに言ってくれたらよかったのに・・・,と思うでしょう.
そもそも,がん検診の結果を確実に伝えるシステムが必要と思います.昼間自宅に電話しても留守の人が少なくありませんので,確実に連絡できる方法(携帯電話,郵送など)をあらかじめ記入してもらうことを検討したほうがよいと思います.

【追記】

msn産経「神奈川・茅ケ崎病院のがん放置 医師会が事実把握も市に報告せず」(2013年4月19日)は,次のとおり報じました.
 
茅ケ崎中央病院(神奈川県茅ケ崎市)が実施した市民向けがん検診の結果が5カ月半にわたり放置され、男性(76)がその後肺がんと診断された問題で、茅ケ崎医師会が2月に事実を把握しながら茅ケ崎市に報告していなかったことが19日、分かった。同医師会の丸山徳二会長は「正式な(病院の)報告書を受け取ってから市に報告しようと思っていた」と話すが、現在も報告書を受け取っていない。

 今回の検診結果放置に絡み、同病院院長は2月25日に医師会を訪ね、丸山会長に報告。その際、丸山会長は再発防止策の実施と経緯を記載した報告書の提出を求めたという。丸山会長は「市に報告すべきだったのだろうが、思いが至らなかった。決して(同病院を)かばって市に報告しなかったのではない」と述べた。

 市民向けがん検診は市が医師会に委託し、市内の医療機関が実施している。」


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-14 07:25 | 医療事故・医療裁判

広島大学病院,こんどは筋弛緩剤紛失

中國新聞「広島大病院で筋弛緩剤紛失」(2013年4月13日)は,次のとおり報じました.

「広島大病院(広島市南区)は12日、保管庫で管理していた筋弛緩(しかん)剤「エスラックス」の5ミリリットル入りの瓶5本を紛失したと発表した。成人15人分の致死量に相当する。薬事法で毒薬に指定され、保管庫の施錠が義務付けられているが、同病院は施錠を怠っていた。

 同病院によると、筋弛緩剤は入院棟1階にある薬剤部の保管庫で管理していた。11日午前9時ごろ、薬剤師が1本を持ち出す際、帳簿と瓶の在庫を照らし合わせ、本来あるはずの105本から5本足りないのに気付いたという。院内を捜したが見つからなかった。

 9日夕には帳簿通りに139本あるのを確認している。10日午前10時ごろと正午ごろの2回、別の薬剤師が手術用などで計33本を持ち出したが、在庫は数えなかったという。9日夕から11日朝まで、保管庫は施錠していなかった。

 同病院は12日午後、広島南署に紛失を届け出た。茶山一彰病院長は「5本で1セットになっているので、10日に余分に持ち出し、使用済みの瓶と一緒に誤って捨てた可能性がある」と話した。

 ずさんな管理について、木平健治薬剤部長は「保管庫から薬剤を出し入れする頻度が高く、施錠しない状態が慢性化していた」と説明。茶山病院長は「薬剤部に関係者以外が入るという意識が薄く、施錠のルールが徹底されていなかった。今後は再発防止に努める」と陳謝。帳簿と現物を複数人で確認するなどチェック体制を強化する。」


個人情報を含むUSBメモリなどを紛失している広島大学病院で,今度は,筋弛緩剤エスラックス5本の紛失が報じられています.
鍵をかけいなかった北野病院の管理責任者であった麻酔部長の医師と法人自体が書類送検されています.法令を遵守し,鍵をかけて保管しないと薬事法違反で書類送検されるおそれがあります.

◆ 過去の報道事例

佐賀大学医学部付属病院で平成22年12月(但し公表は平成23年6月)に1本
独立行政法人国立病院機構名古屋医療センターで平成23年1月に10本
独立行政法人国立病院機構千葉医療センターで平成23年9月に1本
愛知厚生連海南病院で平成23年9月に1本
有田市立病院で平成23年9月に10本
浜松医療センターで平成23年9月に1本
NTT東日本札幌病院で平成23年12月に2本
社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院で平成23年12月に3本
市立室蘭総合病院で平成24年3月に1本
地方独立行政法人福岡市立病院機構福岡市立こども病院・感染症センターで平成24年7月に1本
公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院で平成24年7月に5本
熊本大学医学部附属病院で平成24年7月に1本
公立南丹病院で平成24年10月に1本
尾道市公立みつぎ総合病院で平成24年10月に4本
社会医療法人将道会総合南東北病院で平成24年11月に2本
伊賀市立上野総合市民病院で平成25年3月に10本
広島大学病院で平成25年4月に5本

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-13 19:44 | コンプライアンス

名古屋高裁平成25年4月12日判決,スキルス胃がんを強く疑いながら経過観察した事案で一宮市に賠償命令

中日新聞「医療過誤訴訟、二審も一宮市に賠償命令 名高裁」(2013年4月12日)は,次のとおり報じました.

「胃がんで死亡した愛知県一宮市の女性=当時(70)=の遺族が、病院が適切な処置をしていれば延命の可能性があったとして、旧尾西市民病院を運営していた一宮市を相手に360万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が12日、名古屋高裁であった。長門栄吉裁判長は、一審に続き担当医の注意義務違反による過失を認め、市に180万円の支払いを命じた。

 市側は、一般的な処置であり過失はないと主張していた。

 判決によると、女性は2006年12月に同病院を受診。内視鏡検査の結果、進行の早いスキルス胃がんの疑いが強いと診断された。しかし、2度の組織検査ではがん細胞が認められず、担当医は07年3月に一宮市民病院で精密検査を受けるよう紹介。女性はスキルス胃がんと確定診断され、翌4月に胃の全摘手術を受けたが、08年5月に死亡した。

 長門裁判長は、担当医がスキルス胃がんを強く疑いながら経過観察措置を取ったため、2度目の組織検査を行うべき時期が1カ月以上遅れたと指摘。経過措置を取ることが仮に一般的だったとしても「本件では適切な処置とは言い難い。医療水準にかなったものとはいえず、注意義務違反を免れない」とした。」


毎日新聞「医療過誤:がん発見遅れ、病院側に支払い命令 名古屋高裁」(2013年4月12日)は,次のとおり報じました.

「がんで08年に死亡した愛知県一宮市の女性(当時70歳)の遺族が、旧尾西市民病院(閉院)の医師の判断ミスでがん発見が遅れたとして、病院を運営していた一宮市に360万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が12日、名古屋高裁であった。長門栄吉裁判長は1審・名古屋地裁に続いて病院側の過失を認め、180万円の支払いを市に命じた。

 判決によると、女性は06年12月に同病院を受診。内視鏡検査の結果、「スキルス胃がんの疑い」と診断されたが、がん細胞は確認されなかった。女性は07年3月、同病院から紹介された一宮市民病院へ転院し、精度の高い検査を受けたところ、スキルス胃がんと診断された。翌月に胃の摘出手術を受けたが、08年5月に死亡した。

 1審は11年1月、市に220万円の支払いを命じた。市側は控訴審で病状の経過観察などの期間が必要だったと主張したが、長門裁判長は「内視鏡検査の結果が出た後、速やかに再検査すべきだった」などと判断した。

 市は「判決を確認していないので、コメントできない」としている。【稲垣衆史】」



スキルス胃がんが強く疑われる場合(しかも本件は担当医がスキルス胃がんが強く疑った場合です.)にまで,経過観察措置をとったのでは,手遅れになってしまう可能性があります.市側が主張するようにスキルス胃がんが強く疑われれる場合も経過観察を行うという医療慣行があるかは疑問です.
仮に,そのような医療慣行があるとすれば,患者の合理的な期待(患者は進行が早いスキルス胃がんが強く疑われる場合にはすみやかに検査・治療を行ってもらえると期待しています。)に反しますから,改めるべきでしょう.

最高裁平成8年1月23日判決(民集50巻1号1頁。判時1571号57頁)は,「人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが(最高裁昭和三一年(オ)第一〇六五号同三六年二月一六日第一小法廷判決・民集一五巻二号二四四頁参照),具体的な個々の案件において,債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは,一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最高裁昭和五四年(オ)第一三八六号同五七年三月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一三五号五六三頁,最高裁昭和五七年(オ)第一一二七号同六三年一月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一五三号一七頁参照)。そして,この臨床医学の実践における医療水準は,全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく,診療に当たった当該医師の専門分野,所属する診療機関の性格,その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが(最高裁平成四年(オ)第二〇〇号同七年六月九日第二小法廷判決・民集四九巻六号一四九九頁参照),医療水準は,医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから,平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく,医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって,医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」と判示しました.

市側の主張のように,スキルス胃がんが強く疑われる場合も経過観察,という医療慣行があると仮定しても,上記最高裁判決の立場からすると,医療慣行は法的評価としての医療水準とは異なり,本件において医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない,ということになります.

また,医師が再検査を怠ったために,スキルス胃癌の診断・治療が遅れ死亡した事案で,請求棄却とした大阪高裁の判決を破棄差し戻しとした最高裁判決があります.本名古屋高裁判決は,この最高裁判決を踏襲するものです.

最高裁平成16年1月15日判決の事案は,以下のとおりです. 

「被上告人は,同年7月17日に甲を診察した後,同月24日に胃内視鏡検査(以下「本件検査」という。)を実施した。
 本件検査においては,甲の胃の内部に大量の食物残渣があったため,その内部十分に観察することはできなかった。もっとも,本件検査の結果によれば,幽門部及び十二指腸には通過障害がないことが示されており,胃潰瘍,十二指腸潰瘍又は幽門部胃癌による幽門狭窄は否定されるものであったから,胃の内部に大量の食物残渣が存在すること自体が異常をうかがわせる所見であり,当時の医療水準によれば,この場合,再度胃内視鏡検査を実施すべきであった。
しかしながら,被上告人は,本件検査が上記のとおり不十分なものであり,また,異常をうかがわせる所見もあったにもかかわらず,再検査を実施しようとはせず,甲の症状を慢性胃炎と診断し,甲に対し,胃が赤くただれているだけで特に異常はない,心配はいらないと説明し,内服薬を与えて経過観察を指示するにとどまった。
 (4) 甲は,同年10月7日,Dセンター(以下「Dセンター」という。)で診察を受け,同月15日に胃透視検査,同月19日に胃CT検査,同月21日に胃内視鏡検査等の各種検査を受け,その結果,スキルス胃癌と診断された。当時の甲は,胃壁全体の硬化が認められ,また,腹水もあり,癌の腹膜への転移が疑われた。」
 (5) 甲は,同月22日にDセンターに入院し,化学療法を中心とする治療を受けたが,同年11月には骨への転移が確認され,平成12年2月4日に死亡した。
 (6) 被上告人による本件検査当時,甲は既にスキルス胃癌に罹患しており,被上告人が,その直後に厳重な禁食処置をした上での再検査を行っていれば,その発見は,十分可能であった。しかしながら,甲がDセンターを受診した際には,既に腹水があり,腹膜への転移が疑われ,平成11年11月には骨への転移が確認されたことなどから,本件検査時点においても,既に顕微鏡レベルでは転移が存在したことが推認され,仮に,本件検査時にスキルス胃癌の診断がされ,適切な治療が行われていたとしても,甲の死亡を回避することはできなかった。
 (7) もっとも,本件検査が行われた同年7月の時点で甲のスキルス胃癌が発見されていれば,上記時点における病状及び当時の医療水準に応じた化学療法が直ちに実施され,これが奏功することにより,甲の延命の可能性があった。」


この事実認定を前提にして,最高裁平成16年1月15日判決は,次のとおり判示しました.
 
「医師に医療水準にかなった医療を行わなかった過失がある場合において,その過失と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないが,上記医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときには,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと解すべきである(最高裁平成9年(オ)第42号同12年9月22日第二小法廷判決・民集54巻7号2574頁参照)。

 このことは,診療契約上の債務不履行責任についても同様に解される。すなわち,医師に適時に適切な検査を行うべき診療契約上の義務を怠った過失があり,その結果患者が早期に適切な医療行為を受けることができなかった場合において,上記検査義務を怠った医師の過失と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されなくとも,適時に適切な検査を行うことによって病変が発見され,当該病変に対して早期に適切な治療等の医療行為が行われていたならば,患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときには,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき診療契約上の債務不履行責任を負うものと解するのが相当である。

 (2) 本件についてこれをみると,前記事実関係によれば,平成11年7月の時点において被上告人が適切な再検査を行っていれば,甲のスキルス胃癌を発見することが十分に可能であり,これが発見されていれば,上記時点における病状及び当時の医療水準に応じた化学療法が直ちに実施され,これが奏功することにより,甲の延命の可能性があったことが明らかである。そして,本件においては,被上告人が実施すべき上記再検査を行わなかったため,上記時点における甲の病状は不明であるが,病状が進行した後に治療を開始するよりも,疾病に対する治療の開始が早期であればあるほど良好な治療効果を得ることができるのが通常であり,甲のスキルス胃癌に対する治療が実際に開始される約3か月前である上記時点で,その時点における病状及び当時の医療水準に応じた化学療法を始めとする適切な治療が開始されていれば,特段の事情がない限り,甲が実際に受けた治療よりも良好な治療効果が得られたものと認めるのが合理的である。【要旨】これらの諸点にかんがみると,甲の病状等に照らして化学療法等が奏功する可能性がなかったというのであればともかく,そのような事情の存在がうかがわれない本件では,上記時点で甲のスキルス胃癌が発見され,適時に適切な治療が開始されていれば,甲が死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性があったものというべきである。
 そうすると,本件においては,甲がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が認められるから,これを否定した原審の判断には,法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

 5 以上によれば,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。そして,損害の点について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。」


名古屋高裁平成25年4月12日判決に市側が上告,上告受理申立を行っても,判決が覆る可能性は低いものと考えられます.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-13 07:17 | 医療事故・医療裁判

最高裁判決に対する薬害イレッサ訴訟統一原告団・弁護団声明

「最高裁判決に対する薬害イレッサ訴訟統一原告団・弁護団声明」(2013年04月12日)は,以下のとおりです.

本日、最高裁判所は、薬害イレッサ東日本訴訟についてアストラゼネカ社の法的責任を否定する判決を言い渡した。これにより、先の最高裁判所の国に対する上告の棄却決定とあわせ、薬害イレッサ訴訟事件については、国と企業の責任を否定する判決が確定したことになる。西日本訴訟についても、本日、同様の判断がなされた。2004年の提訴から8年余にわたる薬害イレッサ事件に関する訴訟は終結した。

しかし、販売から半年で180人、2年半で557人もの間質性肺炎による死亡者を出した本事件は、国と企業が防ぎ得た未曾有の薬害事件であったという歴史的事実には変わりはない。

イレッサは、2002年7月、世界で初めて日本で承認された肺がん用の抗がん剤である。企業や国には、承認前から致死的な間質性肺炎の報告がなされていたが、企業は副作用が少ない夢の新薬であるという宣伝を行い、添付文書の警告も不十分であった。その結果、市販直後から間質性肺炎による死亡報告が相次ぎ、承認から3ヶ月で緊急安全性情報の発出と添付文書改訂が行われた。

最高裁はイレッサの添付文書に欠陥はないとしたが、この判断は、添付文書改訂によって、副作用死亡者が如実に減少した事実を説明できない。東京地裁の「医師の1~2人が読み誤ったというのであればともかく、多くの医師が読み誤ったと考えられるときには、医師に対する情報提供の方法が不十分であったとみるべきである。」という指摘こそ正しい。

集団的薬害訴訟において初めて製造物責任が問われた本件では、多くの学者が東京高裁、大阪高裁の判断に問題があるとする意見書を最高裁に提出したが、最高裁は耳を傾けることをしなかった。この最高裁の判断は、将来に禍根を残す過ちである。

本事件については、2011年1月に東京・大阪両地裁による和解勧告による早期解決の機運があったが、厚労省が学会等に下書きまで提供して和解に反対する声明を公表させるなどした結果、和解の機会を失った。その後は、企業に勝訴した大阪地裁判決に続き、東日本大震災直後の東京地裁では国と企業に勝訴する判決を得たが、全面解決の機会が得られないまま控訴となり、真実を直視しない高裁と最高裁の判断を仰ぐこととなった。この経過は残念と言うほかはない。

しかし、訴訟を遂行したことによって、実は既に多くの成果を得ている。何より、訴訟の提起によって被害の悲惨さを伝えたことによって、医療現場でのイレッサの慎重な使用とインフォームド・コンセントが行き渡り、慎重使用を促すための添付文書の改訂が行われた。また、迅速承認でこそ安全対策が重要であることを再認識させ、その結果、抗がん剤の承認においては、使用患者全例登録調査を原則とする運用が定着した。被害者が本件訴訟を通じて行った承認のあり方と安全対策のあり方に関する問題の提起は、薬害肝炎検証委員会提言に反映されるとともに、多くの制度改善を促した。また、被害者が求めていた適応の限定も実現した。

但し、厚労省における検討会の設置を実現させながら、継続して検討となっている抗がん剤の救済制度の創設を始め、実現していない課題も残されている。

被害者は、文字通り骨身を削りながら、がん患者の命の重さを問い、正義を求め、薬害根絶のため、あるべき救済制度のために8年の歳月を闘い抜いたのである。国と製薬企業には、この被害者達の願いを受け止め、未曾有の副作用死を出した薬害イレッサ事件を改めて検証し、その教訓を余すところなく今後に生かす責務がある。
私たちは、引き続き、薬害根絶と救済制度の確立のために力を尽くす所存である。
最後に、これまで本事件について多大なご支援をいただいた方々に心からお礼を申し上げます。」


このような結果になりましたが,イレッサ訴訟には大きな意義があったと思います.
薬害イレッサ訴訟統一原告団・弁護団のみなさま,お疲れ様でした.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-12 19:59 | 医療事故・医療裁判

スモークフリーキャラバンの会,鳥取地・家裁の喫煙所に健康増進法違反の可能性を指摘し改善求める

日本海新聞「受動喫煙対策が不十分 鳥取地裁の喫煙所」(2013年4月12日)は,次のとおり報じました.

「鳥取地方・家庭裁判所(鳥取市東町2丁目)内の喫煙所は健康増進法で定める受動喫煙防止策が十分に講じられていないとして、受動喫煙防止を求め全国行脚している団体「スモークフリーキャラバンの会」(平間敬文会長)は11日、同裁判所に改善を求めた。交通事件待合室の一角に設けられた喫煙所には扉がなく、流れてくる煙を来庁者が吸う可能性がある。同会は「法の番人である裁判所で増進法に抵触する可能性があるのでは」としている。」

 同会は受動喫煙防止条例の制定を求め各都道府県を巡回。10日に鳥取県入りし関係者と意見交換した際、同裁判所の喫煙所が話題になった。11日に現地を確認し「問題がある」と裁判所に指摘した。

 喫煙所は、交通に関する事件の処理や手続きに訪れた来庁者が利用する「交通事件待合室」の入り口付近に設置。数平方メートルの空間には灰皿だけがあり、来庁者が誰でも利用できる。同室の他のスペースとはパーテーションで仕切られているが扉はない。近くには待合用のベンチが並んでおり、同会は「密閉空間になっておらず外に煙が漏れる恐れがある。受動喫煙は妊婦への影響も大きく対策を講じてほしい」と求める。

 2003年に制定された健康増進法は、官公庁など多数の人が利用する施設の管理者に対し、受動喫煙防止策を講ずるよう求めている。罰則はなく努力義務規定にとどまるが、厚労省は10年に通知を出し、公共施設は「原則全面禁煙であるべき」としたほか、全面禁煙が困難な場合は分煙を行い、喫煙所の煙が外に流れないよう求めている。厚生労働省生活習慣病対策室は「法や通知に強制力はないが、あくまで公共施設は全面禁煙が望ましい」との立場だ。

 鳥取県の場合、「努力義務でも官公庁は率先して受動喫煙防止策を講じるべき」と、12年1月に県有施設の建物内をすべて禁煙化。県庁では屋外に喫煙所が設けられた。県にも同裁判所の喫煙所に関する情報が寄せられていた。

 同地裁は取材に対し「ご指摘の喫煙所は扉がないものの、天井までパーテーションで仕切り排煙設備も設けている」としながらも、受動喫煙対策について「市民団体からの指摘も踏まえ今後検討していきたい」とコメントした。」


鳥取県には「とっとり喫煙問題研究会」があります.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-12 19:27 | タバコ

スモークフリーキャラバンの会,福井県知事らへ受動喫煙防止条例の制定を求める要望書を提出

MSN産経「受動喫煙防止条例 県に制定求め要望書 スモークフリー会 福井」(2013年4月11日)は,次のとおり報じました.
 
「医師や地方議員、弁護士、市民有志らによる「スモークフリーキャラバンの会」(東京)のキャラバン隊が10日、県庁を訪れ、受動喫煙防止条例の制定を求める要望書を西川一誠知事と吉田伊三郎県議会議長あてに提出した。防止条例が制定されているのは神奈川と兵庫の2県のみ。

 同会は、平成23年に東海や関西などの9府県、24年に東日本13都県にキャラバン隊を派遣し、受動喫煙の危険性などを訴えている。今回のキャラバン隊は、8日に山梨県を出発して長野から北陸入りしており、福井県は24番目。今後、中国、四国などを巡る。」


福井県には,「NPO法人 越前禁煙友愛会」があります.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村は24番目。今後、中国、四国などを巡る。」
by medical-law | 2013-04-12 19:24 | タバコ

スモークフリーキャラバンの会,長野県知事・山梨県知事らへ受動喫煙防止条例の制定を求める要望書を提出

MSN産経「受動喫煙防止条例キャラバン隊 条例制定を要望 長野」(2013年4月9日)は,次のとおり報じました.

医師や地方議員、弁護士らでつくる「スモークフリーキャラバンの会」(東京)の第3次キャラバン隊が8日午後、長野県庁を訪問し、受動喫煙防止条例の制定を求める要望書を阿部守一知事と本郷一彦県議会議長あてに提出した。

 同会は、平成23年に東海や関西などの9府県、24年に東日本13都県にキャラバン隊を派遣し、受動喫煙の危険性などを訴えている。今回のキャラバンは、8日に山梨県を出発して長野から北陸、中国、四国を回り17日の三重まで14県を訪問し、条例制定を求める。

 渡辺文学キャラバン隊長ら一行は「たばこを吸わない環境づくりを進めて、長野県には神奈川、兵庫両県に次ぐ3番目の受動喫煙防止条例制定県になってほしい」などと訴えた。」


毎日新聞「受動喫煙防止条例:市民グループ、知事に制定要望書 /山梨」(2013年04月09日)は,次のとおり報じました.

「受動喫煙による健康被害防止を訴える市民グループのメンバーが8日、県庁を訪れ、公共の場などでの「受動喫煙防止条例」制定を求める横内正明知事宛ての要望書を提出した。既に条例があるのは全国で2県にとどまり、メンバーは「日本ではまだ喫煙被害対策が進んでいない」と訴えた。

 「やまなしタバコ問題研究会」(笛吹市、代表・松尾邦功医師)や「スモークフリーキャラバンの会」(東京)などの医師や弁護士、市民ら約15人が、県健康増進課の担当者に要望書を手渡した。

 受動喫煙防止のために学校や病院などで禁煙や分煙を義務づける条例は、神奈川県が10年に全国で初めて施行、兵庫県でも今年施行された。県内では、甲府市が丸の内1のオリオン通り約200メートルを「喫煙禁止区域」とする条例を定めているが、罰則はない。

 同課は「県内の公立小中高校での喫煙スペース撤廃はほぼ実施された。今後、大学や企業に一層の理解を呼びかけたい」と話している。

 キャラバンの会は今後、全国をキャラバンカーで巡回するといい、同会の渡辺文学さんは「非喫煙者も受動喫煙の害についてもっと知ってほしい」と話していた。【屋代尚則】」


山梨県には「やまなしタバコ問題研究会」があります.

今回は四国まで行くそうです.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-12 03:51 | タバコ

警告:喫煙はあなたの雇用を害する恐れがあります

WSJ「警告:喫煙はあなたの雇用を害する恐れがあります」(2013年4月8日)は,次のとおり報じました.

「米国企業の中で、喫煙との関連で社員に報酬を与えたり罰則を科したりする企業は約4割に上る。しかし、喫煙者の採用を拒否する動きは勢いを増しつつあり、健康に関する企業団体のナショナル・ビジネス・グループ・オン・ヘルス(NBGH)とコンサルティング会社タワーズワトソンの最近の研究によると、企業の約4%がこの方針を導入済みで、2%が来年の導入を予定している。喫煙者の採用を拒否することは21の州で合法とされている。多くの企業は就職希望者に喫煙するかどうかを質問するだけだが、薬物検査の一環としてニコチン反応を調べるための尿検査を義務付ける企業も少ないながらある。」

喫煙者が貧困・低教育層に多いことはよく知られた事実なので,喫煙者の採用拒否ルールは貧困・低教育層に対する差別である,という意見もあります.
しかし,喫煙を止めれば採用されるのですから差別にはあたらない,と思います.喫煙者の採用拒否ルールは,禁煙の強い動機になり,喫煙者に禁煙という大きな利益をもたらすでしょう.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-12 03:42

乳がん患者の生存率と飲酒

いままでの常識とは異なり,米フレッド・ハチンソンがん研究所のポリー・ニューコム氏らが,乳がん患者約2万5000人を平均11年にわたって追跡調査した報告によると,乳がんと診断される前に週当たり3~6杯のアルコールを摂取していた患者は、乳がんで死亡する確率が15%低く,心疾患を発症する確率が25%低い,とのことです.

CNN「乳がん患者の生存率、適度な飲酒で向上も 米研究」(2013年4月11日)は,「アルコールは乳がんのリスクを高める要因として知られているが、・・・乳がんと診断された後にアルコールを飲んでも、適度な量なら生存率には影響しないようだと同氏は話している。」とのことです.

飲酒は血中のエストロゲンの量を増やし,乳がんの再発につながりやすいと思っていましたが,簡単な話ではないようです.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-11 14:21 | 医療

静岡赤十字病院,救急搬送の翌年に腹部の悪性肉腫で死亡した事案で和解(報道)

毎日新聞「損賠訴訟:静岡赤十字病院、和解金支払いで遺族側と和解」(2013年4月6日)は,次のとおり報じました. 
 
「悪性肉腫の発見が遅れて夫が死亡したなどとして、妻ら遺族が静岡赤十字病院(静岡市葵区)を運営する日本赤十字社(東京都)などに1億3300万円を求めていた訴訟の和解が5日、静岡地裁(足立哲裁判長)で成立した。遺族側代理人によると、日赤側が500万円の和解金を支払う内容という。

 訴状などによると、夫は07年2月、体調悪化を訴え同病院に救急搬送され、翌年3月に腹部の悪性肉腫で死亡。診察が不適切だったためとして遺族らが09年に提訴していた。

 同病院は「医療安全の強化と説明責任を果たしていきたい」と話している。【荒木涼子】」


原告(患者側)に,注意義務違反と因果関係と損害の立証責任がある医事訴訟は,おおよそ3分の2くらいが「裁判上の和解」で終わります.
本件では,悪性肉腫の発見が遅れたことに医師の注意義務違反があること,その注意義務違反がなければ08年3月の死亡がなかったことを,遺族側で立証する責任があります.判決と異なり,和解ですと,中間的な解決が可能です.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-11 13:55 | 医療事故・医療裁判