弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

<   2013年 04月 ( 55 )   > この月の画像一覧

産科脳性麻痺事案の医療機関への賠償請求が減少傾向

CBニュース 「脳性まひ賠償請求が減少傾向に-医療機能評価機構調べ」(2012年4月2日)は,次のとおり報じました.

「脳性まひにより産科の医療機関に損害賠償が請求される事例が、減少傾向にある―。日本医療機能評価機構が2日、こんな調査結果を明らかにした。同機構の担当者は、「データを単純に比較できない面もあるが、2009年の産科医療補償制度導入によって賠償請求が増えるという懸念されていた事態は起きていなかった」と話している。

 同機構では、損害保険会社5社に対し、05年から11年までの医師賠償責任保険の事例のうち、脳性まひが損害賠償請求の原因と判断できる事例について集計を依頼。その結果を取りまとめた。

 集計結果によると、05-11年に損害賠償請求があった脳性まひ事例は296例。これを請求年別に見ると、05年が59例、06年が51例、07年が44例、08年が38例、09年が43例、10年が34例、11年が27例だった。同機構では、「産科医療補償制度が創設された09年前後から減少傾向を示している」と分析している。
 このうち、児が05年以降に生まれた223例を出生年別に見ると、05年が51例、06、07年が共に41例、08年が21例、09、10年が共に27例、11年が15例だった。

 既に賠償責任の有無が確定しており、児の状態を詳細に分析できる114例については、在胎週数や出生体重、重症度などが産科医療補償制度の補償基準に当てはまり、「補償対象」と考えられる事例と、基準に当てはまらず、「補償対象外」と考えられる事例に分けて集計した。
 それによると、「補償対象」は81例、「補償対象外」は33例。これを出生年別に見ると、「補償対象」は05年が31例、06年が17例、07年が20例、08年が7例、09、10年が共に3例、11年がゼロ。一方、「補償対象外」は、05年が11例、06年が12例、07年が6例、08年が1例、09年が2例、10年が1例、11年がゼロだった。同機構では、「補償対象外と考えられる事例に比べて、補償対象と考えられる事例の方に減少傾向が見られる」としている。

 ただ、児がまだ幼いケースでは、これから損害賠償が請求されることも考えられるため、出生年別の集計について同機構では「現時点では評価できない」としている。また、近年は医療関連の訴訟が全体的に減少傾向にあり、データには単純に比較できない面があると説明している。【高崎慎也】」
.

産科医療保障制度が医療過誤訴訟を増やしている,という話が事実無根であることがはっきりしました.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-03 17:46 | 医療事故・医療裁判

イレッサ訴訟,最高裁で遺族側が全面敗訴の見通し

朝日新聞「肺がん薬イレッサ訴訟、遺族側が全面敗訴へ 最高裁決定」(2013年4月2日)は,次のとおり報じました.
 
「肺がん治療薬「イレッサ」の副作用をめぐり、死亡した患者2人の遺族が、販売元のアストラゼネカ(大阪市)と国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(寺田逸郎裁判長)は2日、国への請求について原告の上告を受理しない決定をした。国の賠償責任を否定した2011年11月の二審・東京高裁判決が確定した。

 一方、アストラゼネカへの請求については同日、原告の上告を受理し、判決期日を今月12日に指定した。ただ、二審の結論を見直す際に必要な弁論を開かないため、アストラゼネカの賠償責任も否定した同判決が維持され、遺族側の全面敗訴が確定する見通しだ。」


NHK「イレッサ訴訟 遺族側敗訴確定の見通し」(2013年4月2日)は,次のとおり報じました.

「肺がんの治療薬「イレッサ」の投与を受けたあとに死亡した患者の遺族らが国と製薬会社を訴えた裁判で、最高裁判所は今月、判決を言い渡すことを決めました。
判断を変える際に必要な弁論が開かれないため、患者側が逆転敗訴した2審の判決が確定する見通しです。

この裁判は、肺がんの治療薬「イレッサ」の投与を受けたあとに重い肺炎で死亡した首都圏などの患者の遺族が薬を承認した国と輸入販売元の製薬会社に賠償を求めたものです。

1審は国と製薬会社に賠償を命じましたが、2審の東京高等裁判所は「警告が不十分だったとはいえない」と判断して患者側逆転敗訴としたため、遺族が最高裁判所に上告していました。

この裁判で、最高裁判所第3小法廷は国に対する上告を退けるとともに、製薬会社への上告については今月12日に判決を言い渡すことを決めました。

この結果、国の責任を認めなかった判決が確定したほか、製薬会社についても判断を変更する際に必要な弁論が開かれていないため、患者側敗訴の2審の判決が確定する見通しです。
イレッサを巡っては、大阪でも裁判が起こされ、2審で訴えを退けられた患者側が最高裁に上告しています。

次女を亡くした原告の近澤昭雄さんは「イレッサの販売方法は間違いだったと今も強く思っていて、10年間訴え続けただけに残念です。医療の現場が薬の副作用の説明などで気をつけるようになってきただけに、最高裁の判断がよくない影響を与えるのではないかと懸念しています」と話しました。」


残念です.

【追記】

薬害イレッサ訴訟東日本訴訟弁護団のコメントは,以下のとおりです.

「本日、最高裁より、国に対する上告を受理しない旨の決定があった旨連絡を受けました。
これにより、薬害イレッサの被害について国の法的責任を否定する判断が確定したことになります。
しかし、販売から半年で180人、2年半で557人もの死亡者を出した本事件は、国と企業が防ぎ得た薬害であった事実には変わりがないと考えています。
最高裁の判断は極めて遺憾です。
私たちは、国に対し、二度とこのような被害が生じないよう、薬害イレッサ事件の教訓を、十分に薬事行政に生かすことを強く求めるものです。

なお、アストラゼネカ社との関係について、4月12日に判決期日が予定されています。
同日、記者会見を予定しております。
原告団・弁護団の声明は、国に対する関係も含め、その際に発表する予定です。」


厚生労働省の「イレッサ東京訴訟(最高裁決定)に対するコメント」は以下のとおりです.

「昨日、最高裁判所で、イレッサ東京訴訟に関し、国に対する関係で、原告らの上告を棄却するとともに上告審として事件を受理しない旨の決定がありました。
 これまでの裁判の中で、国として法的な責任はない旨を主張してきたことが認められたものと考えています。
 なお、厚生労働省としては、本件の結果にかかわらず、引き続き医薬品の安全性の確保に万全を尽くしていきます。

(参考)東京訴訟の経過
   平成23年 3月23日 東京地裁判決 (国・会社一部敗訴)
           4月 5日 国控訴 
          11月15日 東京高裁判決 (国・会社への請求を棄却)
   平成25年 4月 2日 最高裁決定  (国に対する関係で、原告らの上告を
                            棄却・不受理)
                  ※ 会社への請求は、上告が受理される予定」

                                          

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-02 19:48

EEA,Late lessons II Chapter 5 - Minamata disease a challenge for democracy and justice

欧州環境庁(The European Environment Agency ,EEA)は,Late lessons2013年版で,水俣病問題を取り上げました.
執筆者は,Takashi Yorifuji,頼藤貴志氏 Toshihide Tsuda津田敏秀氏 and Masazumi Harada原田正純氏(故人)です.
ご一読をお奨めいたします.

Late lessons II Chapter 5 - Minamata disease a challenge for democracy and justice

Minamata disease, which can induce lethal or severely debilitating mental and physical effects, was caused by methylmercury-contaminated effluent released into Minamata Bay by Chisso, Japan's largest chemical manufacturer.
It resulted in widespread suffering among those who unknowingly ate the contaminated fish.

This chapter documents the story in three phases.The disease first came to prominence in the 1950s.

It was officially identified in 1956 and attributed to factory effluent but the government took no action to stop contamination or prohibit fish consumption.
Chisso knew it was discharging methylmercury and could have known that it was the likely active factor but it chose not to collaborate and actively hindered research.
The government concurred, prioritising industrial growth over public health.

In 1968 Chisso stopped using the process that caused methylmercury pollution and the Japanese government then conceded that methylmercury was the etiologic agent of Minamata disease.The second part of the story addresses the discovery that methylmercury is transferred across the placenta to affect the development of unborn children, resulting in serious mental and physical problems in later life. Experts missed this at first because of a medical consensus that such transfer across the placenta was impossible.The third phase focuses on the battle for compensation. Initially, Chisso gave token 'sympathy money' under very limited criteria.

In 1971 the Japanese government adopted a more generous approach but after claims and costs soared a more restrictive definition was introduced in 1977, justified by controversial 'expert opinions'. Legal victories for the victims subsequently made the government's position untenable and a political solution was reached in 1995–1996.

In 2003, the 'expert opinions' were shown to be flawed and the Supreme Court declared the definition invalid in 2004. In September 2011 there were 2 273 officially recognised patients.

Still, the continuing failure to investigate which areas and communities were affected means that the financial settlement's geographic and temporal scope is still not properly determined.

Alongside deep-seated issues with respect to transparency in decision-making and information sharing, this indicates that Japan still faces a fundamental democratic deficit in its handling of manmade disasters.

This chapter is followed by three short updates on the effects of mercury poisoning since Minamata; on attempts to contain it, including the 2009 global agreement to phase mercury out of economic activity; and on the need for better information about contaminant exposures to enable policymakers to make informed choices that balance the benefits of fish consumption against the assumed adverse effects of low-level methylmercury exposures.



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-02 01:29 | 人権

BPO放送人権委員会,フジテレビ「イレッサの真実」について判断が分かれる

放送倫理・番組向上機構[BPO]放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)は,2013年3月28日,フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月に2回にわたって放送した企画「イレッサの真実」について第48号決定を下しました.

申立人の娘さんは,承認直後の危険性情報が伝えられていない状況でイレッサを服用して亡くなりました.
承認前に判明していた危険性情報の伝達に問題がある,と主張したのが申立人であり,それを認めたのが東京地裁判決です.
ところが,本件番組は,迅速な承認と安全性を対立させ,イレッサ薬害と東京地裁判決に疑問を投げかけた内容でした.「危険性情報の伝達の問題」から,「迅速な承認と安全性の問題」に,論点がおきかわっていました.そして,危険情報の伝達等が行われた2007年頃にイレッサを服用したがん患者のAさんの発言と承認直後の危険性情報が伝えられていない状況でイレッサを服用して娘さんを亡くした申立人の発言が対立するかのように受け取られる構成になっていました.

◆ 多数意見

多数意見は,「放送番組中において法的な意味での名誉毀損・人格権侵害はなかったと結論する。また、番組内容そのものに放送倫理上問題があったとまではいえない、と判断する。しかしながら、申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて、視聴者の誤解を招きかねない点があるなど、放送の一部に配慮不足があったと認められる。申立人である取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことは、報道機関として重く受け止める必要がある。取材者・放送人にとって取材先との信頼関係を喪失するという重大な事態を招いたことにつき十分に反省し、事前の取材・企画意図の説明や番組の構成・表現等の問題について再度検討を加え、今後の番組作りに生かすことを強く要望する。」というものです.

例えば,副作用情報が十分に説明されたうえで患者が治療の選択をすることが必要であるとする点で,本来は同じ立場にある申立人とがん患者のAさんとを本放送が対立的に提示したという主張について,多数意見は,.「ただし」→「しかし」→「ただし」という流れで,以下のとおり判断しています

「本件放送において、Aさんの発言意図は、効果と副作用の適切な説明を受けて医師の判断を聞いていれば「薬害ではない」とするものであるのに対し、申立人は、そのような説明のない治療を受けた状況下についての評価として「薬害である」と述べていると理解できる。

ただし、その番組構成は、視聴者にとって混同や混乱を招いたと思われる。しかも本件放送は、その冒頭において、「薬害」という受け取り方に幅がある言葉を使用した二人のコメントが続けて紹介されたために、対立的な立場として捉えられても致し方がない側面がある。視聴者は、当該場面で対立的な立場だという印象を受け、間違ったイメージを抱いたまま放送を見続ける可能性がある。その場合、結果として申立人の冒頭のコメントをもって、申立人の主張を「イレッサの存在自体を否定している」と受け取る者がいる可能性を否定はできない。しかも、番組構成上、9年前の状況に基づく申立人の主張と、現在の状況を元にしたAさんの発言や実態の紹介が、同じ土俵で、交錯してあらわれる。このために、視聴者は、よけいに混同や混乱を感じやすい結果になっている。

しかし、本件放送は、申立人のコメントを誤って伝えたものではなく、また、申立人の東京地裁への提訴当時の、副作用の危険性が警告欄等に十分に記載されていなかった添付文書から、この点が改訂された添付文書への変遷が映像によって示されている。また、本件放送においては、申立人の主張の一部を認めた東京地裁判決が、副作用の危険性を十分に記載しなかった提訴当時の添付文書の問題を根拠に申立人の主張を一部認めたことなどが伝えられている。このことから、本件放送の前編を見たとき、視聴者は、申立人の娘の診療当時にはイレッサに致死的な副作用のあることが添付文書に十分には示されておらず、申立人の娘が副作用に関する十分な説明を医師からも受けなかったであろうこと、および申立人とAさんが十分な副作用情報を得たうえで治療を選択すべきであるという点では同じ立場に立っていることを理解することができる。
冒頭で申立人のコメントとAさんのコメントを対比的に置いた本件放送の構成に前記のような問題があることは否定しがたいが、放送内容に虚偽がなく、番組全体を見たときには申立人の立場を理解することが可能である。したがって、この構成の問題について、放送倫理上の問題があるとまではいえない。

ただし、被申立人は、コメントそのものの引用に誤りがない場合でも、前提となる事実を説明しないままにコメントを冒頭で紹介したり、一見すると意見が正反対であるように見える他のコメントと対比したりするなどの構成のあり方によって、視聴者に誤解を与える可能性が生じることを認識するべきである。
この点に留意すれば、被申立人は、限られた時間内で、たとえばAさんと申立人とで対比的な構成を取るとしても、イレッサの致死的な副作用について、Aさんの治療環境は添付文書の警告欄に記載がなされ医師に致死的副作用が認識されている状況下のものであること、これに対して申立人の娘の治療環境においては、致死的ないし重篤な副作用情報が存在したにもかかわらず、副作用に関する十分な警告の記載が添付文書に存在しなかったことをより端的に示すことなど、それらの工夫をすることができたのではないか。そうすれば、致死的ないし重篤な副作用の発生する可能性のあることを、患者も認識した上で治療を選択すべきであるとする点では両者が共通していることを、視聴者がより容易に理解できたとも考えられる。」


◆ 少数意見

これに対し,林香里委員と大石芳野委員の少数意見は,以下のとおり,本件放送には放送倫理上問題があったというものです.

「委員会多数意見は、問題となる放送内容の事実関係を個別に検証し、それらが放送倫理上問題ありとはいえないと判断した。また、本件放送の企画意図について、被申立人から申立人への事前説明もあったという点で、コミュニケーションの齟齬はあったものの、この点でも放送倫理上、問題ないと結論している。

しかし、私たちは、以下の観点から、本件放送は、放送倫理上問題があったと判断する。
本件放送において問題にされるべき点は、内容の個別の真偽や、意思の疎通の有無というより、申立人がどのような全体の文脈に埋め込まれ、いかなる人物として登場しているか、そして本人はそれをどこまで承知していたかをめぐるものであると考える。その点において、被申立人は、申立人を長く知り得る立場にあるにもかかわらず、彼のこれまでの「イレッサの薬害」をめぐる主張や証言に配慮をせず、長年の立場と主張を番組内容に合わせる形で断片的かつ一方的に利用したという印象が否めない。

申立人の娘は、副作用を十分承知せずにイレッサを服用し、激しい副作用のために亡くなった。こうした体験をもつ申立人は、「薬害」についての問題提起をライフワークとしてきた。他方、被申立人は、「薬害」についてこれまで熱心に追跡・報道してきた実績がある。したがって、申立人と被申立人は、「薬害」の定義を真剣に考えてきたという点で、放送のテーマを十分に共有していると言える。申立人は、まさにこのうな経緯から、被申立人に多大な信頼を置き、取材にも応じてきたのだった。しかし、そうであるからこそ、申立人の立場からすると、本件放送において、自分のかねてからの主張が、以下に述べるような一方的な取り上げ方をされるのを見てショックを受けたことは、察して余りある。

① 本件放送は、被申立人の主張するとおり、「薬害の定義とは何かを根源的に問う」ものである。
そこで、番組では、薬の効果が劇的であり、かつ副作用も激しいイレッサという薬を例にして、「薬害」とは何かを、主に二項対立的論争として提示した。こうした二項対立は視聴者にとってわかりやすく、テレビ報道の手法として、そのような提示の仕方自体に問題があるとはいえない。
しかし、問題は、その際、申立人がイレッサの副作用で娘を亡くした者として、副作用とリスクの問題を強調して「薬害」と捉える側として提示される一方で、そのほかに登場する患者や医者は、副作用のおそれがあっても薬が効くという理由から「薬害」と捉えない側として描出されている点である。
この対照性には、薬が「効く(副作用小)/効かない(副作用大)」が重要な軸となっている。
しかしながら、申立人は、「薬害」をそのような対立軸で争ってきたわけではなく、また、申立人からすると、この定義は一面的なものである。他方、申立人のこうした「薬害」への理解については、被申立人(放送局)は、取材を通して十分認識してきたはずである。多数意見は、こうした提示の仕方を個別の事実に虚偽がなく、放送時間の制約という点を斟酌して、放送倫理上問題なしとしているが、私は、この提示の仕方こそ、番組全体の構想を規定する根幹部分であり、申立人と被申立人の関係に亀裂を起こしたと考える。

② さらに、前編最後の部分において、新薬の副作用による被害は、早期承認によって拡大するという医師の主張が挿入される。
これも放送局側の「薬害」定義の流れをつくる重要なコメントのひとつである一方、申立人の「薬害」の理解とは、実質的に係累点のないコメントだった。
申立人側から見ると、彼の「薬害」の争点は、あらかじめ知り得たはずの副作用が薬の説明書に明示されておらず、さらに副作用の程度も致死的な転帰をたどる極めて深刻なものである点の記載もなかったことであった。
申立人が主張するとおり、イレッサの承認時点においてすでに明らかだった情報の開示が十分ではなかったということが、彼の「薬害」の定義だったわけで、承認のタイミングの問題とは関係がない。
しかし、申立人は、本人の意志とは関係なく、このように構成された全体文脈の中に埋め込まれ、しかもキーパーソンとして引用された。そのことによって、申立人が自らの人生を賭けた「薬害」のライフワークを否定されたと考えても無理はない。

③ 多数意見では、被申立人が、申立人にあらかじめ放送局側の企画や取材意図を説明したということでもって、従来の事例にはあてはまらず、放送倫理上問題があると判断するには至らなかった。すなわち、多数意見では、申立人と被申立人の争いは、双方で了解したかどうかという「コミュニケーションの問題」とし、主に被申立人側が事前に説明はしたという点をもって、放送倫理上問題なしとしているのである。
しかし、ヒアリングの際、申立人は、もし以上のような今回の企画を承知していたとしたら、まったく異なった対応をしていたと証言している。
放送内容を精査した上で、このような申立人の証言をもとに考えるならば、本件放送をめぐる問題は、説明や了解の有無というコミュニケーションの問題のみならず、放送局側から見た薬害についての番組の一面的取り上げ方という番組内容、さらにそうした文脈に了解なく自分が位置づけられたことへの二重の怒りであろう。
総合すると、本件放送の全体の文脈は、がんの治療薬をめぐって「効く/効かない」「副作用リスク大/小」といった軸を中心に「薬害」の定義を問う。現代の医療現場において、そのようなテーマ設定をし、掘り下げていく報道は重要であり、私たちは、その取り上げ方そのものに異議を差し挟むつもりはない。
問題は、そこに異なる時間軸と対立軸で「薬害」を長年争ってきた申立人を登場させた点である。
申立人の立場―それは彼がイレッサによって娘を失った経緯からすれば十分正当性のあるものである―からすれば、本件放送は、「薬害」を一面的で不十分に扱ったと認識しても仕方がない。さらに、なによりも、そのような偏った文脈に、ほかでもなく、自らが人生を賭けた活動や言葉が、内容を承知せぬまま引用されてしまった無念さは想像に余りあり、申立人が本件放送を公正さに欠けると主張することには、十分な正当性があると考える。他方、放送局側は、申立人との長い交流や今回の報道のためにかけた十分に長い取材時間の中で、そうした認識の齟齬を予想できたはずではなかったか。
日本民間放送連盟の「報道指針」第2項「報道姿勢」(1)の中にも「取材対象者にし、常に誠実な姿勢を保つ」とある。これまで委員会でも、インタビューや収録シーンの位置づけに十分な説明と番組構成上適切な扱いが必要であることを指摘してきた(委員会決定5号、27号)。以上に鑑みて、私たちは、本件放送には放送倫理上問題があったと結論した。」


多数意見は,申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて視聴者の誤解を招きかねない点があるなど放送の一部に配慮不足があったと認められる,と認定しながら,番組内容そのものに放送倫理上問題があったとまではいえないという結論にいたっていますが,少数意見は,ストレートに放送倫理上問題があったという結論にいたっています.少数意見のほうが論理的で説得力があると思います.「ぎりぎりセーフ」というより「アウト」と判定すべき事案だったと思います.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-01 02:40 | 人権

歯科インプラント市民フォーラム2013で弁護士高梨滋雄氏,歯科医の教育,患者への情報提供の重要性を講演

「歯科インプラント市民フォーラム2013 安全・安心なインプラント治療を求めて」(日本歯科医師会,日本歯科医学会,日本口腔インプラント学会主催,日本補綴歯科学会,日本口腔外科学会,日本歯周病学会,日本顎顔面インプラント学会共催)が,2013年3月31日,日本歯科医師会歯科医師会館で開催されました.

NHK「インプラント 歯科医の教育の場確保を」(2013年3月31日)は,次のとおり報じました.

「あごの骨に金属を埋め込んで人工の歯を取り付けるインプラント治療で健康被害を訴えるトラブルが相次いでいることを受け安全対策を考えるフォーラムが開かれ、歯科医師への教育の場を確保していく重要性が確認されました。

インプラント治療は「自分の歯に近い感覚が取り戻せる」として普及が進む一方、一部の歯科医師の技術が不十分なことなどから、治療後しびれや痛みが残るなどのトラブルがあとを絶ちません。
都内で開かれたフォーラムには、治療に携わる歯科医師やメーカーの代表のほか、国の担当者らが出席しました。

まず患者の救済に取り組む高梨滋雄弁護士が講演し、トラブルの背景として、歯科医師に対してメーカーが行う講習が中心で、大学ではインプラントに関する教育がほとんど行われてこなかった問題点などを指摘しました。

これを受けて出席者が意見を交わし、現在、複数の学会が協力して標準的な治療のルールを定めた指針の策定が進められていることが紹介されたほか、大学や学会、メーカーが連携して歯科医師への十分な教育の場を確保していくことなどを確認しました。

一方、学会などに所属しない歯科医師の水準をどう高めていくかといった課題も指摘されました。
高梨滋雄弁護士は「患者側が安全な医療機関を見極める目を持つことも重要なので、そのための情報提供に努めていくことが欠かせない」と話していました。」


演者は,以下のとおりです.
高梨 滋雄 氏(弁護士/東京弁護士会・医療過誤法部部長/東京三弁護士会医療関係事件検討協議会委員/医療問題弁護団幹事)
・上條 英之 氏(厚生労働省医政局 歯科保健課長)
・中島 信也 氏(日本歯科医師会 常務理事)
・中尾 潔貴 氏(日本歯科商工協会 参与)
・渡邉 文彦 氏(日本口腔インプラント学会 理事長)


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2013-04-01 01:49 | 医療