弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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神戸地判決平成26年5月30日、3、4回の吸引分娩を行わない注意義務に反したとして770万円の賠償命令(報道)

msn産経「「帝王切開遅れた」6歳女児寝たきり 病院に770万円の支払い命令」(2014年5月30日)は、次のとおり報じました.

「長女(6)が仮死状態で生まれ、寝たきりになったのは、病院側が出産時にすぐに帝王切開を行わなかったためとして、徳島県阿波市の夫婦と長女が病院を運営する医療法人「誠仁会」を相手取り、計1億1千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が29日、神戸地裁であった。

 伊良原恵吾裁判長は、病院側の過失を一部認め、計770万円の支払いを命じた。

 判決によると、母親は平成20年5月21日、明石市大久保町大窪の大久保病院で、長女を出産。その際、病院側は吸引器を使用して出産させる「吸引分(ふん)娩(べん)」を4回行ったが、生まれず、帝王切開で出産させた。長女は仮死状態で生まれ、低酸素性虚血性脳症で、寝たきりの状態となった。

 伊良原裁判長は、2回目の吸引分娩以降、長女の心拍数が下がって、危険な状態だったと指摘。「3、4回目の吸引分娩をせずに、帝王切開していれば、重い脳障害が残らなかった可能性がある」と述べた。

 病院側は「判決文を入手していないためコメントは差し控える」としている。」


過剰な吸引分娩を実施しない注意義務を認め、その注意義務違反と結果との間の因果関係について高度の蓋然性を認めなかった神戸地方裁判所第五民事部の判決です。
裁判所における因果関係の認定のハードルの高さを改めて感じさせる判決です.


谷直樹

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by medical-law | 2014-05-31 00:37 | 医療事故・医療裁判

妊娠中期では車の運転で重大事故を起こす危険性が、妊娠前より4割以上アップする

健康百科によれば、カナダ・トロント大学医学部のDonald A. Redelmeier氏らは、妊娠中期では車の運転で重大事故を起こす危険性が、妊娠前より4割以上アップすると、5月12日発行のカナダ医学誌「CMAJ」(電子版)に報告したとのことです.

Pregnancy and the risk of a traffic crash.

Redelmeier DA, May SC, Thiruchelvam D, Barrett JF.

Abstract

BACKGROUND:Pregnancy causes diverse physiologic and lifestyle changes that may contribute to increased driving and driving error. We compared the risk of a serious motor vehicle crash during the second trimester to the baseline risk before pregnancy. METHODS:We conducted a population-based self-matched longitudinal cohort analysis of women who gave birth in Ontario between April 1, 2006, and March 31, 2011. We excluded women less than age 18 years, those living outside Ontario, those who lacked a valid healthcard identifier under universal insurance, and those under the care of a midwife. The primary outcome was a motor vehicle crash resulting in a visit to an emergency department. RESULTS:A total of 507 262 women gave birth during the study period. These women accounted for 6922 motor vehicle crashes as drivers during the 3-year baseline interval (177 per mo) and 757 motor vehicle crashes as drivers during the second trimester (252 per mo), equivalent to a 42% relative increase (95% confidence interval 32%-53%; p < 0.001). The increased risk extended to diverse populations, varied obstetrical cases and different crash characteristics. The increased risk was largest in the early second trimester and compensated for by the third trimester. No similar increase was observed in crashes as passengers or pedestrians, cases of intentional injury or inadvertent falls, or selfreported risky behaviours. INTERPRETATION:Pregnancy is associated with a substantial risk of a serious motor vehicle crash during the second trimester. This risk merits attention for prenatal care.


谷直樹

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by medical-law | 2014-05-31 00:17 | 医療

磐城共立病院、ガーゼ置き忘れ事故(報道)

福島中央テレビ「腹部にガーゼ 磐城共立病院で医療ミス」(2014年5月30日)は、次のとおり報じました.)

「いわき市の総合磐城共立病院で、おととしの手術の際に、女性患者の腹部にガーゼを置き忘れる医療ミスがあったことがわかった。
総合磐城共立病院によると、おととしの8月、市内の60代の女性が医師から腫瘍を取り除く手術を受けたあと、下痢や吐き気が続いたため、去年の3月に、市外の別な病院で検査を受けた。
その結果、腹部に異物があることがわかり、手術をしたところ、放置されたガーゼが出て来た。
共立病院は医療ミスを認めて女性に謝罪し、慰謝料など340万円を支払うことで示談を進めているという。
新谷史明院長は「再発防止に取り組みたい」とコメントしている。」


ガーゼ遺残事故はなかなかなくなりません.賠償金額は、症状があるときとないときで異なります.

谷直樹

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by medical-law | 2014-05-30 23:22 | 医療事故・医療裁判

神戸市立医療センター中央市民病院の元薬剤部副部長ら収賄容疑で逮捕(報道)

毎日新聞「神戸・中央市民病院:収賄容疑で元薬剤部副部長ら2人逮捕」(2014年5月28日)は、次のとおり報じました.

「◇贈賄も2人逮捕

神戸市立医療センター中央市民病院(神戸市中央区)のシステム開発の入札を巡り、業者に便宜を図った見返りにパソコンを受け取ったとして、兵庫県警捜査2課は28日、同病院の元薬剤部副部長、××××(60)=神戸市須磨区=と知人で無職の●●●●(44)=同=両容疑者を収賄容疑で、調剤機器製造販売会社「トーショー」神戸支店長、△△△△容疑者(65)=同市西区=ら2人を贈賄容疑で逮捕した。4人とも容疑を認めているという。

 捜査2課は28日夜、××容疑者の自宅や神戸市西区のト社神戸支店を捜索した。29日に病院や神戸市役所を捜索する方針。

 ××容疑者らの逮捕容疑は、2009年11月下旬に実施された薬剤管理システムの一般競争入札で、ト社のシステムにそった有利な入札仕様書を作成した見返りに、12年3月中旬、神戸市内でパソコン数台(百数十万円相当)を受け取ったとしている。

 捜査2課や市によると、××容疑者は09年当時、病院移転の準備室で薬剤部門のシステム担当責任者として仕様書を作成。今年3月に定年退職した。

 入札には3社が参加したが、予定価格を上回ったため2回不調に終わり、規定でト社側と9690万円で随意契約を結んだ。

 ●●容疑者は医療用機器製造販売会社の元社員で、××容疑者と十数年前からの知り合い。パソコンを受け取る役目だったことから、××容疑者と共謀したと判断、収賄容疑が適用された。

 ホームページによると、ト社は1971年4月設立で本社は東京都。13年9月期の売上高は246億円で、全国78カ所に支店・営業所がある。【豊田将志、神足俊輔】」



東京地判平成23年5月12日は、就業規則の規定に基づき、退職金の返還を命じました.本件はどうなるのか注目したいと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2014-05-29 00:07

滋賀県立成人病センター,CTで異常なくMRI検査を実施せず脳梗塞の診療が遅れた事案で示談(報道)

msn産経「脳梗塞の兆候を熱中症と誤認させる診断…滋賀県立成人病センター、県が後日脳梗塞発症の男性に500万円賠償」(2014年5月27日)は,次のとおり報じました.

「滋賀県は27日、脳梗塞を疑って県立成人病センター(滋賀県守山市)で受診した60代の男性患者に熱中症と誤認させる診断をしたため、脳梗塞を後日発症した男性に後遺症が出たとして損害賠償金500万円を6月にも支払うと発表した。

 県によると、男性は平成25年7月8日と8月14日、脳梗塞との関連を疑わせる自覚症状を訴え受診。いずれも頭部コンピューター断層撮影装置(CT)検査で異常などがなかったため8月の受診時には男性が希望した磁気共鳴画像装置(MRI)検査を実施しなかった。医師は熱中症などを疑い、症状が悪化した場合に受診するよう指示することもなかった。

 男性は8月17日に症状が悪化し、別の医療機関で脳梗塞を指摘された。治療のためセンターに緊急入院したが、左手足に軽度のまひが残った。」


CTで脳梗塞と診断できない場合でも,MRIで脳梗塞と診断できる場合があります.
CTで脳梗塞と診断できない場合,緊急MRIを実施できる施設では,MRIを実施しましょう,ということになるでしょう.


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by medical-law | 2014-05-27 18:44 | 医療事故・医療裁判

川崎市立川崎病院,心肺停止の蘇生措置の遅れ等で低酸素性脳症の事案,9000万円で和解(報道)

東京新聞「遺族に9000万円払う 川崎病院医療事故 市が和解案、議会へ」(2014年5月27日)は,次のとおり報じました.

「川崎市立川崎病院で二〇〇五年に起きた医療事故をめぐり市は二十六日、亡くなった県内の四十代男性開業歯科医師の遺族と、市が和解金九千万円を支払うなどの和解案がまとまった、と発表した。市議会六月定例会に議案上程する。

 市によると、男性は〇四年十二月と〇五年三月に心臓の手術を受けた。退院して五日後の五月二十六日に食欲不振で受診し、不整脈が関係する肝機能障害と診断され入院。抗不整脈薬を点滴で投与していたところ呼吸が止まり、心停止に。救命措置で息を吹き返したが、低酸素脳症で意識障害になり、〇六年十月に亡くなった。

 遺族は、▽抗不整脈薬の投与を長引かせた▽心肺停止の蘇生措置が遅れた-などとして〇九年五月に市に損害賠償を請求。合意に至らず、一二年三月に横浜地裁に訴えた。

 市は、訴えの内容に争う点はあるとしながらも「心停止になった際、担当医は一人でできると思ったのか、切迫していたからなのか、応援を呼ぶ緊急コールを直ちにせず、万全な対応をしたと言えない部分があった」と認め、地裁の和解勧告に応じるという。

 増田純一病院長によると、現在は緊急時にはどんな場合も応援を呼ぶよう教育しているという。「解決に長期間かかり家族に多大な負担をかけ、おわび申し上げる。再発防止に努める」と話した。(山本哲正)」


医療裁判の場合,一般の民事意見に比べて,このように裁判上の和解で終わる率が高いです.

谷直樹

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by medical-law | 2014-05-27 18:23 | 医療事故・医療裁判

鳥取地米子支判平成26年5月26日,公立八鹿病院のパワハラ長時間労働による自殺事案で約8000万円の賠償命令

サンスポ「医師自殺、病院側に8000万円の賠償命令 パワハラも認定」(2014年5月26日)は,次のとおり報じました.

 「兵庫県養父市の公立八鹿病院の男性勤務医=当時(34)=が自殺したのは、長時間労働と上司のパワーハラスメントが原因として、鳥取県に住む両親が病院側と元上司2人に約1億8000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、鳥取地裁米子支部(上杉英司裁判長)は26日、計約8000万円の支払いを命じた。

 判決などによると、勤務医は2007年10月から整形外科医として同病院に勤務。長時間労働や、当時上司だった医師2人からの暴力や叱責といったパワハラが原因でうつ病となり、同年12月に自殺した。

 地方公務員災害補償基金兵庫支部は10年8月、自殺は長時間労働による公務災害と認定。両親が同年12月、病院の管理責任だけでなく元上司の個人責任も追及し、提訴した。(共同)」

パワハラ・長時間労働→うつ病→自殺,の因果関係を認めた裁判例です.このまま確定してほしいですね.

【追記】

神戸新聞「8000万円賠償命令の病院側が控訴 八鹿・医師自殺」(2014年6月11日)は,次のとおり報じました.

「兵庫県養父市の公立八鹿病院の男性勤務医=当時(34)=の自殺について、運営する病院組合と上司2人に対し、計約8千万円の支払いを命じた鳥取地裁米子支部の判決を不服とし、被告の病院側と、原告の遺族がそれぞれ10日までに控訴した。

 病院側が4日付、遺族が9日付。判決は、勤務医の過重労働と上司の医師によるパワーハラスメントを認定する一方、勤務医の一部過失を認めた。」



【再追記】
控訴審の広島高裁松江支部平成27年3月18日判決は,原審が認めた過失相殺を否定し約2000万円増額しましたが,上司の医師2人への請求は棄却しました.


谷直樹

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by medical-law | 2014-05-26 18:10 | 医療事故・医療裁判

J―ADNI疑惑調査中にデータ書き換え

朝日新聞「製薬社員、証拠の書き換え指示 J―ADNI疑惑」(2014年5月26日)は,次のとおり報じました.

「国が旗を振るアルツハイマー病研究のデータ改ざん疑惑を東大が調査している最中に、証拠となるデータ自体が調査対象側の手で書き換えられていた。日本の先端医療研究への信頼がどんどん崩れていく。

【認知症研究を巡る取材を続けます。特別報道部にメール(tokuhoubu@asahi.com)で情報をお寄せ下さい。】

     ◇

■職員「データ、次々持ってきた」

 関係者によると、データセンターの室長格であるエーザイ社員が、改ざん疑惑が1月に発覚した後に採用された非正規職員2人にデータの書き換えをさせていた。その1人は「エーザイ社員が書き換えるデータを選んで次々に持ってきた。私たちは指示通りにしただけ」と話しているという。

 朝日新聞が入手した内部文書には、本来は病院がつくるはずの書類をデータセンターが事後的に不正に作成した記録が残っている。

 奈良県立医大で臨床研究の検査を3年間受けた60代男性は、脳卒中を予防する薬を2年目から服用し始めた。この薬はアルツハイマー病の臨床研究の検査に影響を及ぼす可能性があるため、そのまま検査対象にするには奈良県立医大がJ―ADNI研究者でつくる臨床判定委員会に例外申請書を提出して承認を得なければならない。しかし、データセンターが申請は不要と指示したため、申請書は提出されていなかった。

 データセンター職員は3月24日、エーザイ社員から指示され、「依頼ミスにより、追加コメントにてご対応を頂きました」として「併用禁止薬服用? 他院治療により1日2錠の抗凝固薬を開始」と記した例外申請書を作成した。関係者によると、検査前に使ってはならない薬を服用した被験者を例外的に認めるよう申請する内容だという。

 本来、申請書をつくる立場である奈良県立医大の担当医師は取材に「データセンターから連絡はなく、当方は把握していない」と答えた。(青木美希)」


J-ADNは,「物忘れを初期症状として、徐々に脳の機能が衰えていくアルツハイマー病は、高齢化社会を迎えた日本においても、その患者さんの数が増加の一途を辿っており、治療薬開発に大きな期待が寄せられています。J-ADNI 臨床研究ではアルツハイマー病の治療薬開発に欠かせない病気の進行過程を忠実に示す客観的な評価法の確立を目指しています。客観的評価法が定まれば、将来、アルツハイマー病の早期診断、予防、そして治療薬のスムーズな開発に繋がる非常に意義のある臨床研究です。」(J-ADNホームページ)とされていました.
このようなことがあると,多額の費用がかかっているJ-ADNですが,その結果は信頼できないことになるでしょう.


谷直樹

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by medical-law | 2014-05-26 13:30 | コンプライアンス

カフェインとアドリアマイシンの併用化学療法の少女死亡で金沢大学病院の医師3人が書類送検(報道)

北陸朝日放送「医療ミスで金大病院教授ら書類送検」 (2014年5月23日)は,次のとおり報じました.

「金沢大学附属病院で、2010年に骨肉腫の治療を受けた少女が死亡したのは、医療ミスによる抗がん剤の副作用の疑いがあるとして、警察が金沢大学附属病院の男性教授ら3人を書類送検していたことがわかりました。業務上過失致死の疑いで書類送検されたのは、金大附属病院整形外科の男性教授(56)、担当医の医師(41)研修医(43)の3人です。教授ら3人は2010年、骨肉腫で金沢大学附属病院に入院していた当時16歳の少女に、抗がん剤にカフェインを併用して投与するカフェイン併用化学療法を行っていたところ、少女は急性心不全で死亡しました。抗がん剤の副作用による医療ミスの疑いがもたれています。教授から少女が死亡したと報告を受けた当時の病院長は、病院内の倫理審査委員会に報告しておらず、病院は先月倫理指針違反にあたるとして会見を開いていました。病院側は「カフェイン併用化学療法と少女の死亡に、因果関係はないと思っている」と説明していました。しかし書類送検されたことは明らかにしていませんでした。少女の遺族はおととし、医療ミスの疑いがあるとして警察に告訴し、警察が捜査を進めていました。」


北陸中日新聞「少女死亡 化学療法ミス疑い 金大病院教授ら書類送検」(2014年5月23日)は,次のとおり報じました.

「「正当な治療」と否定

 金沢大病院(金沢市)で二〇一〇年に骨肉腫治療を受けた少女=当時(16)=が死亡したのは、医療ミスによる抗がん剤の副作用の疑いがあるとして、金沢中署が一月、業務上過失致死の疑いで整形外科教授で主治医の男性医師(56)ら三人を書類送検していたことが、捜査関係者への取材で分かった。少女の遺族が一二年七月、告訴状を提出していた。教授は本紙の取材に「抗がん剤使用の一般的な基準にのっとった正当な治療」と容疑を全面的に否定している。

 ほかに書類送検されたのは、担当医だった男性医師(41)と、当時研修医で現在は別の病院に勤務する男性医師。

 告訴状などによると、三人は金沢大病院に骨肉腫で入院していた当時高校一年の少女に、〇九年十月から翌一〇年一月にかけて、抗がん剤アドリアマイシンに強心利尿薬のカフェインを併用投与する化学療法を計五クール実施した。

 一〇年一月中旬の検査で少女の心機能が低下し、抗がん剤の副作用による心筋症の疑いがあったのに、化学療法を中止する注意義務を怠り、二月十八、十九日に六クール目の化学療法を実施。十九日に少女はアドリアマイシン心筋症による急性心不全となり、三月二日に死亡したという。

 アドリアマイシンの添付文書は、重大な副作用として「心筋障害、さらに心不全があらわれることがある」とし「観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止する」と明記。心機能異常のある人には「禁忌」としている。

 教授は取材に「抗がん剤の中止を判断する際、(少女の)心臓の機能を基準に当てはめた結果、(化学療法の継続は)問題なかった」と反論。病院総務課の担当者は「大学が訴えられたわけではない。個人情報に関係するのでコメントは差し控える」と話した。

 カフェイン併用化学療法 骨肉腫など悪性骨軟部腫瘍に対し、抗がん剤にカフェインを併用投与する治療法。カフェインには抗がん剤で損傷したがん細胞のDNA修復を阻害し、細胞死を引き起こす作用があり、抗がん剤の効果を高める目的で併用する。今回、書類送検された金沢大病院整形外科の男性教授が開発し、1989年に臨床治療を始めた。資料によると、抗がん剤の有効率は従来の40%から90%以上に、生存率(5年・10年)は50~70%から90%以上に向上した。2004年に厚生労働省の「高度先進医療」に承認された。」



北陸中日新聞「書類送検の金沢大教授 治療の有効性、学会でアピール」(2014年5月23日) は,次のとおり報じました.

「5年生存率、5%が90%に」

 金沢大病院(金沢市)で2010年に骨肉腫治療を受けた少女=当時(16)=が死亡したのは、抗がん剤の投与ミスの疑いがあるとして、業務上過失致死容疑で書類送検された同病院整形外科教授の男性医師(56)が23日、神戸市内で開かれた日本整形外科学会学術総会のパネルディスカッションで発表し、少女にも行った化学療法の有効性を強調した。

 この化学療法は、抗がん剤に強心利尿薬のカフェインを併用投与し、抗がん剤の効果を高める治療法で、厚生労働省の「先進医療」に承認されている。

 教授は、全国から集まった医師ら100人を前に、カフェイン併用の化学療法によって1980年ごろは5%ほどだった5年生存率が90%に向上したなどと、療法の効果を強調。「有効な化学療法で、いろいろな再建手術ができる」と述べ、腫瘍のできた骨を切断後に再建し、走ったり正座したりできるまで回復した患者を動画を交えて紹介した。

 少女の遺族が金沢中署に提出した告訴状などによると、この教授らは10年1月中旬の検査で少女の心機能が低下し、抗がん剤アドリアマイシンの副作用による心筋症の疑いがあったのに、化学療法を中止する注意義務を怠り、翌2月にも抗がん剤とカフェインの併用投与を継続。少女はアドリアマイシン心筋症による急性心不全となり、死亡したとされる。

 少女への化学療法について、教授は本紙の取材に「抗がん剤使用の一般的な基準にのっとった正当な治療」と容疑を全面的に否定している。」



北陸中日新聞「「治療 ベスト尽くした」 金大病院 書類送検の教授」(2014年5月24日)は,次のとおり報じました.

金沢大病院(金沢市)で二〇一〇年に抗がん剤の副作用で死亡した少女=当時(16)=への化学療法をめぐる事件で、当時主治医で、書類送検された同病院整形外科医師の男性教授(56)は「一般的な基準に沿った治療だった。ベストは尽くした」と治療の正当性を主張している。学会出席のため訪れている神戸市内で二十二、二十三両日、本紙の取材に答えた。(医療問題取材班)

 少女の治療は男性教授をはじめ、三人の医師が担当。骨肉腫で入院中だった少女が一〇年三月に抗がん剤の副作用による急性心不全で亡くなるまでに、三人は化学療法を中止する義務を怠ったとして、業務上過失致死の疑いがもたれている。

 教授は、今回の容疑について「全く認めません」と否定。一方で、少女については「ベストは尽くしたが、残念だった」と述べた。

 少女の心機能が低下したにもかかわらず、化学療法を継続したことには、日本癌(がん)治療学会などの名称を挙げて「抗がん剤の使用を中止するには一般的な判定基準がある。心臓の機能をすべて当てはめて、五段階のグレードのうち二番目になったことから、(治療継続は)問題ないと判断した」と説明した。

 治療は抗がん剤にカフェインを併用して効果を高める臨床試験として実施された。抗がん剤の有効率や生存率向上の成果が評価されてきたが、承認された期間が過ぎた後も治療を継続していたことが国の倫理指針違反にあたるとして、第三者を含む院内の調査委員会が詳細を調べている。

 教授は「国の制度の変化がいろいろあり、対応しきれない」と説明。「(不備を正すよう)指示があれば、きちんとやります」と話した。
治療有効性 学会で強調

 男性教授は二十三日、神戸市内で開かれた日本整形外科学会学術総会のパネルディスカッションで発表し、少女にも行っていたカフェイン併用化学療法の有効性を強調した。

 発表では、カフェイン併用化学療法によって、一九八〇年ごろには5%ほどだった五年生存率が90%に向上したなどと成果を挙げ、「有効な化学療法で、いろいろな再建手術ができる」と説明。骨肉腫ができた患者の間節が手術後も正常に動くことを目標に掲げていると訴え、患者が正座した写真や、走る動画を交えて、腫瘍のできた骨の切除後に再建に成功した症例を紹介した。カフェイン併用化学療法は、DNAの修復を阻害するカフェインを一緒に投与して抗がん剤の効果を高める療法。厚生労働省の先進医療に承認されている。
当時の病院長 取材に答えず

 今回の化学療法をめぐる少女の死亡事例を把握していながら、院内の倫理審査委に報告していなかったとされる当時の金沢大病院長も二十三日、主治医と同じく神戸市内の学会に出席。脊椎がん治療を題材に講演した。講演の後、事実関係を問う本紙の取材に答えず、少女の死亡を把握した時期などの質問にも応じなかった。」


書類送検は,事件が警察から検察に移ったということを意味します.起訴されずに終わる事案も多数あります.
1)この少女が急性心不全となり死亡したこと,
2)その急性心不全がアドリアマイシン心筋症によるものであること
3)1月中旬の検査結果が心機能低下を示すもので,アドリアマイシン心筋症の疑いを示唆するものであったこと
4)アドリアマイシン心筋症の疑いから,抗がん剤アドリアマイシン投薬中止の注意義務があったこと
等を証拠に基づいて立証できるか,が検討されることになります.


谷直樹

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by medical-law | 2014-05-25 09:14 | 医療事故・医療裁判

「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」について

MS産経「尊厳死法案 免責事項に「延命措置中止」盛る 自民PT」(2014年5月18日)は,次のとおり報じました.

「自民党のプロジェクトチーム(PT)がまとめる尊厳死に関する法案に、医師の免責事項として「延命措置の中止」が盛り込まれることが17日、分かった。尊厳死を望む患者に対し、新たに延命措置を施さないことだけでなく、着手した延命措置の中断も認める踏み込んだ内容となる。

 医師の免責事項をめぐっては、人工呼吸器装着などの延命措置を新たに開始しない「不開始」に限定するか、すでに実行中の措置のとりやめを含む「中止および不開始」にまで拡大するかがPTでの議論の焦点となり、素案の段階では両論併記になっていた。

 ただ、医療関係者に対するヒアリングなどでは「実行中の延命措置の中止に踏み込まなければ、尊厳死の法制を作る意味が薄れる」との声が強く、「中止および不開始」の案を採用した。

 条文には、免責事項として「終末期にある患者に対し現に行われている延命措置を中止すること」との文言を明記する方向だ。

 これにより、患者の意思表示があれば、人工呼吸器を取り外すなどの処置をしても医師は法的責任を問われなくなる。

 法案は「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法案(仮称)」。15歳以上の患者が延命治療を望まないと書面で意思表示し、2人以上の医師が終末期と認めた場合に、延命措置の中止や不開始を認める。

 自民党PTは条文化の作業を終え次第、公明党、民主党、日本維新の会などと協議し、議員立法として今国会への提出を目指している。」


「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」いわゆる尊厳死法案が今国会へ提出されることが相当確実な状況のようです.

◆ 終末期の定義

第五条第一項は,「この法律案において「終末期」とは,患者が,傷病について行い得る全ての適切な医療上の措置(栄養補給の処置その他の生命を維持するための措置を含む.以下同じ.)を受けた場合であっても,回復の可能性がなく,かつ,死期が間近であると判定された状態にある期間をいう.」と定めています.

しかし,一義的に明確な基準が示されないと,臨床現場は混乱することになりますが,この定義は,一義的に明確なものではありません.例えば,「死期が間近であると判定された状態」とは,どのような状態なのでしょうか.「間近」とは,3日でしょうか,1週間でしょうか,1か月でしょうか,3か月でしょうか.6か月でしょうか.
「間近」を具体的な数字で定義する必要があるのではないでしょうか.
なお,この要件は,重要ですので,それを政令に委ねるのは,適切ではないでしょう.

◆ 判定について

第六条は,「前条第一項の判定(以下「終末期に係る判定」という.)は,これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められる医学的知見に基づき行う判断の一致によって,行われるものとする.」と定めています.

しかし,「これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する」とは,具体的にどのような医師なのでしょうか.余命の予測は難しく,それを的確に行うために必要な知識及び経験とは,具体的にどのようなものなのでしょうか.
また,二人以上の医師の判断といっても,事実上,上級医の判断にしたがうことになる可能性が高いのではないでしょうか.
さらに,前提となる患者の状態については,患者と最も身近に接している看護職の評価を聞くべきではないでしょうか.
偏りのない判断を行うためには,医師以外の医療職の関与がなくてよいのか,疑問があります.このような重要な判断を慎重に行うためには,院内の委員会が協議して判断すべき必要があるではないでしょうか.

◆ 患者の意思確認について

第七条は,「医師は,患者が延命措置の中止等を希望する旨の意思を書面その他の厚生労働省令で定める方法により表示している場合(当該表示が満十五歳に達した日後にされた場合に限る.)であり,かつ,当該患者が終末期に係る判定を受けた場合には,厚生労働省令で定めるところにより,延命措置の中止等をすることができる.」と定めています.
この延命措置の不開始のみならず中止まで含まれるというのが,自民党PTで支持された案です.

しかし,「書面その他の厚生労働省令で定める方法」というのは,あまりにも漠然としています.どのような方法で患者の意思を確認するのか,という根幹の部分は,基本的には法律で定めるべきではないでしょうか.

◆ 目的

第九条は,「第七条の規定による延命措置の中止等については,民事上,刑事上及び行政上の責任(過料に係るものを含む.)を問われないものとする.」と定めています.

つまり,本法案の眼目は,患者の権利の保障と言うより,医師の免責にあり,医師が尊厳死を行いやすくすることにあるといえるのではないでしょうか.

しかし,そもそも,生きる権利が十分保障されていない現状で,死ぬ権利を強調することにどのような意味があるのでしょうか.現状では,家族などに医療費の負担をかけることを心苦しく思った患者が,尊厳死を希望する場合がないとはいえません.尊厳死法案実現が加速している背景には,医療費削減の政策的意図がある,とみるのは深読みでしょうか.

◆ 刑法との整合性

刑法第202条は,「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ,又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は,6ヶ月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する.」と定めています.
日本刑法は,自殺を罰していませんが,自殺したい人から嘱託を受け(依頼を受け),またはその人の承諾を得て殺すことは,犯罪として処罰しています.
殺すという行為は,積極的に薬物を投与する作為の類型だけではなく,救護可能で救護義務がある者が救護せずに見殺しにするなどの不作為の類型も含まれます.
医師が救命可能な患者を殺意をもって救命しないで放置した場合は,たとえ患者から頼まれた場合であっても同意殺人罪(嘱託殺人罪)の構成要件に該当します.
死期が間近な場合で,その者の依頼があっても,死が訪れるまでは生きることが可能な者を殺すことは,やはり犯罪行為の構成要件に該当します.

刑法202条を現行のままにして本法案を成立させるとすれば,本法案と刑法202条との整合をとることが必要となります.
刑法202条の特例法として犯罪の構成要件該当性を否定する,犯罪の構成要件に該当するが違法性を阻却する,などの検討が必要でしょう.
終末期の患者に対する医師による延命措置の不開始・中止だけが犯罪不成立となることについて,刑法202条の罪が成立する一般の場合に比して実質的な不均衡がないのか,医師に死のライセンスを与えることにならないか,慎重に検討することが必要でしょう.

◆ 日弁連の見解

2012年4月4日の日本弁護士連合会の「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」に対する会長声明」は,「疾患によって様々な状態である終末期においては,自ら意思決定できる患者も少なくないが,終末期も含めあらゆる医療の場面で,疾病などによって患者が自ら意思決定できないときにも,その自己決定権は,最大限保障されなければならない.しかるに,我が国には,この権利を定める法律がなく,現在もなお,十分に保障されてはいない.」と指摘しています.「患者が,経済的負担や家族の介護の負担に配慮するためではなく,自己の人生観などに従って真に自由意思に基づいて決定できるためには,終末期における医療・介護・福祉体制が十分に整備されていることが必須であり,かつ,このような患者の意思決定をサポートする体制が不可欠である.しかしながら,現在もなお,いずれの体制も,極めて不十分である.」と述べています.

現在の法案は,2012年当時の法案より進歩はありますが,「本法律案は,医師が,患者の希望を表明した書面により延命措置を不開始することができ,かつその医師を一切免責するということのみを法制化する内容であって,患者の視点に立って,患者の権利を真に保障する内容とはいい難い.」という指摘は,現在の法律案についてもそのまま当てはまるでしょう.
慎重に検討すべき法案だと思います.


谷直樹

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by medical-law | 2014-05-24 05:08 | 医療