弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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熊本大学医学部附属病院,PICCカテーテル挿入後にガイドワイヤーを抜かなかった医療事故を公表

医療事故の半数以上は,シンプルで,基本的なミスによるものです.

熊本大学医学部附属病院は,2015年5月29日,以下のとおり「医療事故の公表について」を発表しました.

「本院において、中心静脈カテーテル留置を行うために右側正肘静脈からPICCカテーテル(ピック・カテーテル)を挿入した際に、誤ってカテーテル内にスタイレット(注記参照)を留置し、その後スタイレットが胸腔内に迷入して胸腔鏡下にスタイレットを取り出す医療事故が発生しました。
今般、患者様の同意が得られましたので、ここに公表いたします。

(経緯)

平成26年4月、産科に切迫早産のため入院中の患者A様(20代の女性)に中心静脈カテーテル留置を行うため、右側正肘静脈からPICCカテーテルを約40cm挿入しましたところ、翌朝より肩の痛みが出現し、その後左上半身に広がる痛みの増強を訴えられました。痛みの原因を探るため、当日の20時50分過ぎと翌日の0時40分過ぎに胸部X線撮影を行い、20時50分過ぎに撮影したX線では異常に気づきませんでしたが、0時40分過ぎに撮影したX線で胸部にスタイレットと思われる陰影がみられるのに気づき、エコー検査でも同様な所見が確認されました。このため、同日午前4時に患者様とご家族にスタイレットが静脈壁を穿孔して左胸腔内に進んでいると考えられる旨の説明を行い、午前4時30分頃にCT検査でスタイレットの胸腔内迷入とその位置を確認した後、患者様とご家族の同意を得て、同日午後1時頃に約2cmの皮膚切開を3ヶ所加え胸腔鏡下にスタイレットを摘出しました。

(原因と再発防止)

医療安全調査専門委員会を設置して調査を行った結果、カテーテル挿入後に本来抜去すべきスタイレットを誤ってカテーテル内に残したままカテーテルを留置したことが直接の原因であり、実施医が使用するカテーテルについての十分な基本知識を持たずにカテーテル挿入を実施したことが本事案発生の要因と判断されました。

同様の事案の発生を防止するため、病院長はただちに「中心静脈カテーテル挿入は実地講習会を受講した医師、もしくは受講医師の指導下に行う」ことを院内に通知し、医療安全管理部は「PICCカテーテル使用における注意喚起」を全部署のリスクマネージャーに通達しました。その後、医療安全調査専門委員会の提言に基づいて「中心静脈カテーテル施行認定制度等に関するワーキンググループ」を設置して、認定制度の制度設計、中心静脈カテーテル挿入・管理マニュアルの改訂、中心静脈カテーテル挿入時の共通同意書の作成、院内で使用できるカテーテルのリスト作成などについて検討し、平成27年度より院内の中心静脈カテーテル施行認定制度を発足し、医師に対する指導・教育の徹底を開始しました。

「病院長コメント」

今回、このような事案が発生し、患者様とご家族の皆様に多大なご迷惑とご心労、ご心配をおかけいたしたことにつきまして、心よりお詫び申し上げます。医療安全調査専門委員会の答申を真摯に受け止め、再発防止に務める所存です。

(注記)スタイレットとは、PICCカテーテルを円滑に挿入するために、あらかじめカテーテル内側に納めてある金属製のガイド用ワイヤーで、カテーテルを挿入して固定する際には抜去することになっています。


ガイドワイヤーは,挿入後に抜くものです.
大学病院は医師の教育のための病院でもありますが,まさか,医師がガイドワイヤーを残すとは!
大学病院にカテーテル挿入の方法を知らない医師がいたということになります.
医療事故の半数以上は,シンプルで,基本的なミスによるものですが,これには驚かされました.
基本的なことを知らない医師がいる以上,教育・指導を徹底するしか防止策はないでしょう.
なお,鎖骨下等から穿刺して挿入する従来の中心静脈カテーテルには手技上の事故があったことから,末梢から安全に穿刺,挿入できるPICC(Peripherally Inserted Central Catheter)=末梢穿刺中心静脈カテーテルが開発,普及してきました.より安全な製品でも,教育,指導は重要です.

【追記】

熊本日日新聞「医療ミスを謝罪 熊本大病院が会見」(2015年6月5日)は,次のとおり報じました.

熊本大病院(熊本市中央区本荘)で昨年4月にカテーテル内の金属製ワイヤを妊婦の胸に放置していた医療事故で、水田博志院長らが4日、記者会見を開き、事故の経緯などをあらためて説明。「患者、家族に深くおわびする」と陳謝した。

 同病院は5月29日に医療事故の発生をホームページで公表したが、水田院長らが出張で不在。公表の仕方に問題があったとして会見を開いた。

 病院によると、医療事故に遭ったのは切迫早産で入院していた20代女性。産科の30代男性医師が、薬剤を投与するために右肘の静脈からカテーテル約40センチを挿入した後、カテーテル内の「スタイレット」と呼ばれるステンレス製ワイヤ(長さ約40センチ、直径約0・5㍉)を体外に引き抜くのを忘れていた。

 体内に残ったワイヤは静脈壁を破って左の胸腔[きょうくう]内に達しており、挿入から約2日後に摘出。女性は無事に出産した。

 同病院は「担当した医師は、ワイヤが入っているタイプのカテーテルを使った経験がなく、実地講習も受けていなかった」と説明。ワイヤを引き抜く必要があることを認識しておらず、治療に立ち会った40代の指導医もミスに気付かなかったという。

 同病院は再発防止のため、5月1日からカテーテルの使用に関して独自の認定制度を導入。実地講習を受けていない医師のカテーテル挿入を禁じ、講習を受けた医師が実施する際も認定医の指導下で行うように見直した。(田中祥三)」



谷直樹


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by medical-law | 2015-05-31 08:30 | 医療事故・医療裁判

東京都の検討会 罰則付き禁煙条例の制定提案に至らず

「東京都受動喫煙防止対策検討会」(座長・安念潤司教授)は2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて,飲食店などでの禁煙を義務付ける罰則付きの条例を制定すべきかどうかについて意見の一致が得られなかったとして判断が示されませんでした.
医師らの委員は規制に賛成していましたが,法律系の委員が一部の飲食店などの反対を考慮し,意見が対立していました.
委員は,次のとおりです.

1 青木剛氏  公益財団法人日本オリンピック委員会 副会長兼専務理事
2 安念潤司氏 中央大学大学院法務研究科教授
3 今村聡氏   公益社団法人日本医師会 副会長
4 大井田隆氏 日本大学医学部公衆衛生学分野教授
5 奥村康氏   順天堂大学大学院医学研究科 アトピー疾患研究センター長
6 垣添忠生氏 公益財団法人日本対がん協会 会長
7 工藤翔二氏 公益財団法人結核予防会 理事長
8 鈴木大地氏 順天堂大学スポーツ健康科学部教授
9 名取春彦氏 獨協医科大学付属病院 放射線科医師
10 野田哲生氏 公益財団法人がん研究会 代表理事・常務理事 がん研究所所長
11 細野助博氏 中央大学総合政策学部 大学院公共政策研究科教授
12 村千鶴子氏 東京経済大学現代法学部教授

「愛煙家通信」に「たばこは有害であるという根拠は怪しい」を寄稿している名取春彦氏が委員にはいっていました.愛煙家通信に「「不良」長寿のすすめ」を寄稿している奥村康氏も委員に入っていました.他方,法律系の委員のなかに,たばこ対策に詳しい専門家は入っていませんでした.このような偏った人選が問題でしょう.

受動喫煙防止のため,公共の場,閉鎖空間での喫煙を許すべきではありません.
東京都が何も規制しないというのは,およそあり得ないことですが,東京都が国に規制を預けた形になった以上,国会で受動喫煙防止法を制定すべきでしょう.

今年の禁煙週間のテーマは, 「2020年、スモークフリーの国を目指して ~東京オリンピック・パラリンピックへ向けて~」です.
その趣旨は,次のとおりです. 

「たばこが健康に悪影響を与えることは明らかであり、禁煙はがん、循環器病等の生活習慣病を予防する上で重要である。
 「健康日本21(第二次)」やがん対策基本計画の目標でもある「未成年者の喫煙をなくす」ためには、喫煙による健康影響を認識させることが重要である。また、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」に基づく第2回締約国会議において、「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」が採択され、我が国においても、平成22年2月に、基本的な方向性として、公共の場は原則として全面禁煙であるべき等を記した通知を発出し、平成24年度においては、受動喫煙防止対策の徹底について通知を発出したところである。
 今年度は、たばこを減らすことで命を守ることを目的として、「2020年、スモークフリーの国を目指して ~東京オリンピック・パラリンピックへ向けて~」を禁煙週間のテーマとし、禁煙及び受動喫煙防止の普及啓発を積極的に行うものである。」
厚生労働省のサイト

WHOのサイトには,以下のとおり記載されています.

「Every year, on 31 May, WHO and partners mark World No Tobacco Day (WNTD), highlighting the health risks associated with tobacco use and advocating for effective policies to reduce tobacco consumption.」
(WHOおよびそのパートナーは、毎年5月31日を世界禁煙デーと定め、世界各地において、たばこがもたらす健康リスクを強調するとともに、たばこの消費削減に向けた効果的な政策への提言を行っています。)


谷直樹


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by medical-law | 2015-05-30 09:24 | タバコ

秋吉仁美編著「医療訴訟」にプレミアム

定跡を知らないで囲碁,将棋ができないように,判例の到達点を知らずに医療訴訟を担当することはできません.

秋吉仁美判事の編著「医療訴訟」(2009年12月発行)は,医療事件を担当する弁護士と事務員の必読書です.
青林書院のサイトには,次のとおり紹介されています.

裁判実務の実際を理解するための必読の書!
東京地裁医療集中部に在籍した裁判官が,高度な専門知識が必要とされる医療訴訟の実務について,裁判手続の内容と実務の解釈や運用面における問題点をわかりやすく解説。」


患者側は注意義務のレベルを上げてほしいと願い,医療側は注意義務のレベルを下げてほしいと思うでしょうが,裁判官は,当事者が主張立証を尽くし結実した過去の判決の集積を重視します.個々の裁判官の感覚で判決を決めているわけではありません.
この本は,裁判官が,過去の多くの裁判例を分析し,類型に分け,どのような要素があれば注意義務違反が肯定され,どのような要素があれば注意義務違反が否定されるのか等,判例の到達点を示しています.つまり,判例における判断基準を示しています.
医療訴訟の流れと,医療訴訟における,主張立証のポイント,指針を示している本書は,その後高橋譲判事編著の「医療訴訟の実務」,福田剛久判事(現在高松高裁長官)ら編著の「医療訴訟」も出版されましたが,依然として必読の1冊です.

今は絶版になっており,重版の見込みもありませんので,新人事務員用に購入しようと思い,Amazonのサイトを見たら,2万円ちかい値がついていました.


谷直樹


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by medical-law | 2015-05-29 06:39 | 医療事故・医療裁判

日本学術会議、「東京都受動喫煙防止条例の制定を求める緊急提言」

日本学術会議健康・生活科学委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会は、2015年5月20日、以下のとおり、東京都受動喫煙防止条例の制定を求める緊急提言」を発表しました.

1 作成の背景
平成 32(2020)年に東京でオリンピック・パラリンピックを開催することが決まり、東京都では、公共の場での受動喫煙防止対策について、検討会での審議が始まった。都知事は当初、条例制定への強い意欲を示した。しかし、都議会や関係業界等の反対を受け、都の検討会では条例化は困難という座長のまとめ案が一旦は提出されるに至った。
ところが、最終の検討会(平成 27(2015)年 3 月 30 日)では合意には至らず、条例化を含めた受動喫煙防止のための都市ビジョンやより強いメッセージを求める意見が多数出て、審議が継続されることになった。日本学術会議健康・生活科学委員会・歯学委員会合同脱タバコ社会の実現分科会では、こうした状況を重く見て、背景にある学術的根拠を再検討しつつ、東京都で取られるべき政策について審議し、提言を取りまとめた。

2 現状及び問題点
喫煙のみならず、受動喫煙により多くの致死的な疾患が引き起こされることは、科学的に明白であり、わが国は、現世代と次世代をタバコの使用とタバコ煙への曝露から守る国際条約、「たばこの規制に関する世界保健機関(WHO)枠組条約」FCTC、たばこ規制枠組条約)を平成 16(2004)年に批准した。FCTC は平成 17(2005)年に発効し、条約の各条項を履行することが締約国の責務となっている。特に、タバコ煙への曝露からすべての人を守るための FCTC 第 8 条に関しては、平成 19(2007)年に履行のためのガイドラインが策定され、職場や公共の場の全面禁煙を法的措置によって実現することを求めている。
国内では、平成 24(2012)年に閣議決定された「第 2 期がん対策推進基本計画」において、10 年後の数値目標として、喫煙率の減少(成人喫煙率 12%、未成年喫煙率 0%)と、受動喫煙曝露機会の減少(行政機関 0%、医療機関 0%、職場 0%、家庭 3%、飲食店 15%)等が定められたが、先般行われた中間評価ではこれらの達成状況が不十分であることが明らかになった。すなわち、わが国では公共の場の利用者や飲食店従業員等のうち多くの人々が、公共の場でやむなく、あるいは業務中にタバコ煙にさらされ続けている。
一方、世界の多くの国や地域が FCTC 第 8 条ガイドラインに沿って、職場や多数の人が出入りする公共の場での喫煙を法律や条例で禁止した。それらの国々では禁止した直後から明確に心疾患・呼吸器疾患の減少が見られている。
さらに、平成 22(2010)年7月には、国際オリンピック委員会(IOC)と WHO は健康的なライフスタイルとタバコのないオリンピックを目指す合意文書にも調印した。近年のすべてのオリンピック開催都市では、罰則付きの条例や受動喫煙防止法が整備され、さらに国レベルの法整備にまで発展している国も多い。従って、もし東京都が、受動喫煙を放置したままで、オリンピック・パラリンピックを開催するならば、健康のために受動喫煙防止を進める世界の潮流を押しとどめ、逆行させるという意味を持つことになる。

3 提言の内容
喫煙のみならず受動喫煙により、がん、心臓疾患、呼吸器疾患などが引き起こされることは多くの報告から明らかで、建物内の喫煙を法律で禁じることによりそれらの疾患が減少したという国際的な経験からも、このことは疑う余地がない。しかしわが国では今なお飲食店従業員をはじめやむなくタバコ煙にさらされている人は多く、受動喫煙を防止するための法制度を早急に作る必要がある。とりわけオリンピック・パラリンピックの開催都市は法律や条例で公共の建物内の喫煙を禁止することが近年では国際的に共通認識となっており、平成 32(2020)年に東京都でそれらを開催するにあたり、この点を最重要事項と考えるべきである。従って、東京都は速やかに公共の場での受動喫煙を防止するための法整備(条例化)を行うよう緊急提言する。


1964年の東京オリンピックのときは私は小学生でしたが、テレビや新聞で、裸足の哲人アベベ・ビキラ(マラソン)、黒い弾丸ボブ・ヘイズ(陸上)、4つの金メダルをとったドン・ショランダー(水泳)、Smokin' Joeジョー・フレージャー(ボクシング)、怪物アントン・ヘーシンク(柔道)、名花ベラ・チャスラフスカ(体操)の活躍を見ていました.もちろん日本選手も応援していましたが、外国人の選手の活躍に見とれていました.
「世界は一つ」が標語でした.

この1964年1月に、米国公衆衛生局長官報告が発表され、喫煙による健康への悪影響が示されました.
2020年の東京オリンピックは、おもてなしのこころですので、是非、受動喫煙防止条例をつくっていただきたいですね.
レストランなどで禁煙にすると客が減るとよく言われますが、臭いタバコの匂いがしたら、美味しいものも美味しく感じられません.せめて公共の場での禁煙くらいは実現したいものです.



谷直樹


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by medical-law | 2015-05-28 00:22 | タバコ

徳島市民病院,腹腔鏡手術の合併症で500万円賠償へ(報道)

朝日新聞「徳島市、患者に500万円賠償へ 市民病院で医療事故」(2015年5月26日)は,次のとおり報じました.

「徳島市は25日、市民病院で2012年に行った外科手術で合併症が起き、再手術が必要になる医療事故があったとして、患者に500万円の損害賠償を支払う方針を明らかにした。

 市病院局によると、市民病院で12年8月、県内在住の50代の男性患者が腹腔(ふくくう)鏡手術を受けた後、合併症で出血するなどし、再手術をした。男性は完治したが、経過観察のため現在も通院しているという。

 市は男性側と話し合った結果、「身体的・精神的苦痛を与えた」などとして500万円の賠償金を支払うことで、今年2月に合意した。6月の定例議会に補正予算案を提出する。」


本件は,私が担当したものではありませんが,いわゆる手術の合併症による損害の賠償について参考になる事案だと思います.
一般に,合併症には,回避できた合併症と回避できなかった合併症があります.
合併症と言っても,回避できた合併症については法的責任が発生する場合があります.
腹腔鏡手術後の出血は,術者の技量により差があります.技量の差の問題であれば,過失は問えませんが,具体的事案においては,医療水準として求められるレベルにみたない内容の手技が行われた場合もあります.技量の差の問題と過失が紙一重の微妙なケースもあります.
話し合いによる解決の場合,適正な解決のため,法的責任立証の見込みを勘案しながら,双方が妥協できる解決を模索することになります.
本件は,おそらくそのような過程を経て,「腹腔鏡手術→出血→再手術」により生じた損害について,500万円賠償金を支払うことで解決の合意ができたということなのでしょう.


谷直樹


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by medical-law | 2015-05-26 23:58 | 医療事故・医療裁判

がん死亡者数と喫煙率の目標達成できず、新たな喫煙規制が必要

国は、2007年のがん対策基本法に基づくがん対策推進基本計画で、75歳未満のがん死亡者数(人口10万人当たり)を05年の92・4人から2015年に73・9人とするがんによる死亡者数を20%減らす目標を定めていました.
国立がん研究センターは,2015年5月20日,この国の目標について,達成困難との見通しを明らかにしました.
目標達成には喫煙率を24・2%から半減させることが必要とされていましたが,2013年の段階で喫煙率は19・3%と12%をはるかに上回っています.

m3.com「全面禁煙、がん死亡者減に不可欠」)(2015年5月21日)は,厚生労働省のがん対策推進協議会での発言を,次のとおり伝えました.

中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)は,「報告書の受動喫煙に関する項目に言及し、受動喫煙よりも喫煙率を下げる対策が基本計画の目標達成に不可欠だと指摘。「全面禁煙を進めないと喫煙率は下がらない」と述べ、同協議会でも、全面禁煙の推進について言及すべきだとした。」

堀田知光氏(国立研究開発法人国立がん研究センター理事長)は,「「法規制がないと、これ以上は無理ではないか」として、日本学術会議が同日、東京都に2020年東京五輪開催に向けて受動喫煙防止条例制定を求める提言書を提出したことに触れ、さらなる規制を求めた。」

永山悦子氏(毎日新聞社科学環境部副部長兼医療情報室次長)は「「たばこ税の導入など、新たな対策が必要」と指摘したほか、がん検診の受診率が低いままになっていることに関して、受診率を上げるようなインセンティブの導入を検討するべきだと提案した。」

会長の門田氏守人氏(公益財団法人がん研究会有明病院院長)は,「中川氏や永山氏の指摘に対し「一番重要な問題」と述べ、「協議会として今以上に強調すべきではないか」と意見を述べた。」

タバコ対策は,実効的な法的規制が必要な段階にきていると思います.
なお,5月31日は世界禁煙デーです.各地にイベントにご参加ください.

谷直樹


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by medical-law | 2015-05-25 06:38 | タバコ

ストライキを禁止する仮処分を裁判所に申し立てた鈴鹿さくら病院が最高裁でも敗訴(報道)

中日新聞「鈴鹿の病院が争議権を侵害 最高裁で判決確定」(2015年5月23日)は、次のとおり報じました.

 「三重県鈴鹿市の鈴鹿さくら病院の労働組合が、ストライキを禁止する仮処分を裁判所に申し立てたのは争議権の侵害だとして、院長らに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第三小法廷(木内道祥裁判長)は、病院側の上告を退ける決定をした。19日付。247万円の支払いを命じた二審名古屋高裁の判決が確定した。

 二審判決などによると、労組は2012年8月、「非組合員のみに不透明な手当の上乗せがある」と主張して病院側に時限ストを通告。これに対し、病院側が申し立てたスト禁止の仮処分を津地裁が認めた。

 この訴訟で、病院側は申し立て理由を「入院患者の安全保全のため」と主張したが、高裁はこれを退けストの正当性を認定した。

 原告団の代表で三重一般労働組合(ユニオンみえ)の塩田至執行委員長(65)は、津市役所で記者会見し「経営側が訴訟を用いて組合活動を制限しようとする例が増えている。判決は安易な仮処分申し立てをさせない意味で大きな意義がある」と強調した。」


 本件は私が担当した事件ではありませんが,医療労働者の権利と患者の安全を考えるうえで参考になる判決です.病院が「患者の安全」を主張しても,患者の安全が害されることが立証できない以上労働者の権利であるストを止めることは適法とは言えず,賠償責任を負うことがある,と言えるでしょう.
 
谷直樹


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by medical-law | 2015-05-23 01:39 | 医療事故・医療裁判

医師間の連絡ミスにより食道がんを放置した新潟中央病院が患者に謝罪(報道)

新潟タウンジャーナル「食道がん治療2年5か月放置 県立中央病院で医療事故」(2015年5月22日)は、次のとおり報じました.

「新潟県立中央病院(上越市新南)は2015年5月22日、同市の80代男性が同病院で食道がんと診断されたにもかかわらず、約2年5か月間治療が行われていなかったと発表した。食道がんは進行し、男性はこの医療事故が判明した今年3月から入院している。

 同病院によると、男性は2012年10月、喉の痛みなどを訴え受診し、下咽頭がんと診断され、耳鼻咽喉科に入院した。その際、胃や食道などへの併発を調べるため内科で内視鏡検査を実施した結果、食道がんが併発していることが判明した。

 しかし、内科医は主治医である耳鼻科医に検査の結果食道がんが見付かったとは伝えず、さらに電子カルテの誤入力により、通常行われる複数の内科医による検査結果の最終確認も行われなかった。

 食道がんの治療が行われないまま、下咽頭がんの治療を経て男性は2か月後に退院。今年3月になって、下咽頭がんの経過観察のためにCT検査を受けた際、食道がんの治療が行われていないことが判明した。

 男性の下咽頭がんは再発の恐れが低い状態となったが、食道がんは進行し、近くのリンパ節への転移もみられるといい、入院治療が続けられている。

 病院は今年4月に男性とその家族に謝罪した。記者会見した矢澤正知院長は「深くお詫びする。今後一層事故防止対策を強化し信頼を回復すべく努力する」と頭を下げ、電子カルテ誤入力防止のためのシステム改修などの再発防止策を説明した。」


本件は、私が担当した事案ではありませんが、明らかな確認ミス=医療過誤です.
今私が担当している2件の肺癌の見落としも明らかな確認ミス=医療過誤です.
がんの見落とし事件は,検査記録の医学的評価を誤ったケースより,そもそも医師が検査記録を見なかった,検査報告書を主治医が見なかったというケースが多いように思います.


谷直樹


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by medical-law | 2015-05-23 01:24 | 医療事故・医療裁判

医師らの連絡ミスで膵臓がんを放置した大垣市民病院が患者の遺族と550万円で和解(報道)

中日新聞「検査後の連携ミスで死亡 大垣市民病院、和解金支払いへ」(2015年5月22日 )は、次のとおり報じました.
 
「岐阜県大垣市は22日、大垣市民病院に入院し、昨年8月に死亡した市内の女性=当時(76)=への膵臓(すいぞう)のエコー検査で、腫瘍が見つかったのに医師の連携ミスで治療が遅れたとして、遺族に550万円を支払うことで和解したと発表した。6月1日開会の市議会に議案を提出する。

 病院によると、女性は2012年10月にめまいを訴えて入院。糖尿病の持病があったため糖尿病・腎臓内科を受診した。同科の医師は、食欲低下の原因を探るため消化器内科を紹介するとともに、腹部をエコー検査した。画像に腫瘍があったが、この医師は検査結果を見ておらず、消化器内科の医師にも結果が伝わっていなかった。

 女性は一度退院したが、昨年4月に腹部全体の痛みを訴え、同病院で超音波検査。膵臓の腫瘍が大きくなっており、末期の膵臓がんと診断され、12年の見落としが判明した。

 藤本佳則副院長は記者会見し、「医師による検査結果確認の徹底と共有に努める」と話した。」


 この件は,報道によれば過失に争いがない事案ですので、550万円は膵臓がんの予後を考慮した金額でしょう.
 私が担当した事案ではありませんが、膵臓がんの見落とし事案などで参考になる和解事例と思います.


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by medical-law | 2015-05-23 01:06 | 医療事故・医療裁判

嚢胞を良性と判断した国立病院機構大阪南医療センターが患者の遺族と4000万円で訴訟上の和解(報道)

産経新聞「悪性なのに良性と誤診 がん性腹膜炎で死亡 患者側と国立病院機構が4千万円で和解」(2015年5月22日)は、次の報じました.


「国立病院機構大阪南医療センター(大阪府河内長野市)に入通院し、平成22年にがん性腹膜炎で死亡した当時50代の府内の女性の遺族らが「担当医の誤診で死亡した」として、機構と担当医に計4千万円の損害賠償を求めた訴訟があり、機構と担当医が請求額と同額の解決金4千万円を支払う内容で大阪地裁(野田恵司裁判長)で和解が成立したことが21日、分かった。4月20日付。

 訴状などによると、女性は17年7~8月、センターで検査を受け、膵臓(すいぞう)にできた嚢胞(のうほう)(液体がたまる袋)について、担当医から良性の「膵仮性(すいかせい)嚢胞」と診断された。女性は経過観察のため、その後も数カ月ごとに血液検査などを繰り返したが、22年3月の検査でがんであることが判明した。

 しかし、女性が摘出手術を決意した直後に嚢胞が破裂し、腹部にがんが拡散。同年4月に府内の別の病院で手術を受けたものの、余命半年と宣告され、10月に死亡した。

 訴訟で遺族側は、17年当時の検査結果から、嚢胞を良性と判断したのは担当医の誤診だったと主張。漫然と経過観察するのでなく、悪性の可能性を考慮して嚢胞を切除するなどの適切な医療行為をしていれば、死亡は回避できたと訴えていた。

 一方、機構側は「当時の医学的知見からすれば担当医の診断は妥当だった」と反論。誤診を否定し、争う姿勢を示していた。」


 私が担当した事案ではありませんが、4000万円で訴訟上の和解をしたということは、過失を認めたものと考えられます.

谷直樹


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by medical-law | 2015-05-23 00:57 | 医療事故・医療裁判