弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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神戸地裁平成27年7月30日,東大大学院医学系研究科講師のセクハラパワハラを認定し賠償命令(報道)

毎日新聞「<セクハラ>東大医師に1126万円賠償命令 神戸地裁」(2015年7月31日)は次のとおり報じました.

「東京大大学院医学系研究科講師の男性医師(48)から性的・身体的暴力を伴うセクハラやパワハラを受けたとして、関西の私大で勤務する30代の女性研究者が男性医師に損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、神戸地裁であった。寺西和史裁判官はセクハラなど女性側の主張を認め、男性医師に慰謝料など約1126万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性医師は医学教育の分野で多数の書籍を手がけ、複数の学会理事も務めている。女性とは2009年に学会を通じて知り合い、共同研究していた。原告側は「医師は医学教育の分野での圧倒的な社会的地位や権力などを利用し、セクハラを継続した。パワハラもあり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になった」と主張。被告側は「指導の立場にない。好意があって性的関係を持った」と反論していた。

 判決は、男性医師が10年から2年間、「研究打ち合わせ」名目で宿泊先ホテルの部屋に押しかけ、繰り返し性的行為を強要したり暴言を浴びせたりしたと認定。女性のPTSDも認め、「論文のため、逆らいにくい関係であることは明らか」と指摘した。【神足俊輔】」


神戸新聞「東大大学院講師に賠償命令 セクハラなどで1100万円」(2015年7月31日)は次のとおり報じました.

「兵庫県内の大学に勤務する女性講師が、指導役だった東京大学大学院講師の40代男性からセクハラやパワハラを受けたとして、慰謝料など約1200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、神戸地裁であった。寺西和史裁判官は「公私を問わず女性の存在を否定し人格を踏みにじった」などとハラスメントを認定し、約1100万円の賠償を命じた。

 判決によると2012年まで約2年にわたり、首を絞めるなどの暴力やセクハラ行為を度々繰り返し、女性に心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症させた。また、出張先で宿泊代や食事代を女性に支払わせ、気に入らないことがあれば未明まで女性を罵倒し続けるなどした。

 提訴前、女性の代理人弁護士がハラスメントを指摘すると、自身が理事を務める学会から女性を一方的に解任したこともあったという。

 寺西裁判官は「女性は学位取得のため論文完成が必要で、実績があり共同研究者の男性には逆らいにくい関係にあった」とした。」



 当事務所では,医療過誤事件に専念するため,セクハラ,パワハラ事件は取り扱いませんので,これも当事務所が受けたものではありません.
 報道された認定事実からは,単に民事の賠償ですむようなものではなく,犯罪として刑事処罰を与えるのが相当なように思います.
 医学部のセクハラ,パワハラは耳にすることが結構多いので,そのような土壌が一部にあるのかもしれません.優秀な若い研究者,医師がハラスメントでつぶされてしまうことのないようにしていただきたいものです.


谷直樹


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by medical-law | 2015-07-31 12:48 | 人権

筑西市民病院の看護師が消毒液容器を間違え,通常の400倍の濃度の消毒液で患者が負傷(報道)

読売新聞「濃度400倍の消毒液で患者負傷…看護師ら処分」(2015年7月31日)は,次のとおり報じました.

「筑西市民病院(茨城県筑西市玉戸)で2013年4月、女性看護師が誤って通常の400倍の濃度の消毒液を準備したため、30歳代女性の顔に使用され、表皮剥離などの損傷を与えていたことがわかった。

 市は30日の臨時市議会で、損害賠償額として約195万円の専決処分を報告し、承認された。市は、看護師と上司を28日付で訓告処分とした。

 同病院事務局によると、女性は13年4月10日、顔に手術を受け、後日、同病院を訪れた際、顔にやけど状の部分が見られたという。同病院は同17日、医療安全特別委員会を設置して原因を調べ、50歳代の女性看護師が消毒液容器を間違えていたことがわかった。同じ保管場所に濃度の違う消毒液が置かれていたという。

 また、医療安全対策マニュアルには2人で消毒液を確認するよう記載されていたが、守られていなかった。

 女性は2年間、同病院で治療を受け、症状は改善されたという。損害賠償の内訳は治療費約72万円、通院費・慰謝料約117万円など。この日の臨時市議会で、同病院の市村雅信事務部長は「医療事故及び医療過誤は絶対に起こしてはいけないということを再度職員に周知徹底し、定期的に院内研修を行う」と述べた。」


医療安全対策マニュアルを作成しても守られなければ意味がありません.
定期的な研修が必要です.
報道の件は,私が担当したものではありません.このくらいの賠償金額ですと,患者側が弁護士に相談することはあっても,代理人として依頼するのは弁護士費用の関係で実際上難しいと思います.
過失が明らかな事案では,医療ADR,話し合いによって,赤本,青本の賠償基準を参考に解決するのがよいでしょう.


谷直樹


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by medical-law | 2015-07-31 12:22 | 医療事故・医療裁判

映画『リトル・フォレスト 夏・秋』

GYAOで『リトル・フォレスト 夏・秋』を見ました.

リアルでは「大森」という地名ですが,作品では「小森」(リトル・フォレスト)となっています.
「小森」(リトル・フォレスト)を舞台に,理想の田舎暮らしが映像化されています.
自然がきれいです.手作りの食品(パン,ジャムなど),料理が美味しそうです.

『桐島、部活やめるってよ』の橋本愛さん,松岡茉優さん,成城のイメージが強い三浦貴大さん,田舎暮らしが最も似合わない桐島かれんさんが出演しています.

私の事務所の元事務員は,結婚により田舎暮らしを実現しました.
「朝晩山から畑を抜けて家の中に吹き抜ける風 何にもかえがたい爽快さで一日の始まりと終わりにこの風を味わえることが最高のごほうびです」とのことです.


谷直樹


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by medical-law | 2015-07-30 07:29 | 趣味

新潟大学医歯学総合病院,左右の眼内レンズ発注を取り違え,確認を怠り,白内障手術実施

新潟大学医歯学総合病院は,平成27年7月24日,下記の通り医療事故を公表しました.

「本院において、両眼の白内障手術を行った際に、度数が異なる左右の眼内レンズを取り違えて挿入してしまい、再手術を必要としたという事故が発生しました。

1 患者さまは、本県在住の80歳代の女性で、両眼の白内障手術を左右それぞれ別の日に施行しました。左眼は術後経過が良好だったため、左右の取り違えに気付きませんでしたが、続いて行った右眼の術後に患者さまから見え方が悪いとの訴えがあり、左右の取り違えが発覚しました。右眼のみ再手術を行い、患者さまはすでに退院され、外来で経過観察を行っています。

2 本院においてすみやかに医療事例審議委員会を開催し、原因の究明を行い、対策を検討しました。調査検討の結果、度数が異なる左右の眼内レンズを一緒に発注する際に、コミュニケーションエラーから、左右が間違って業者に伝わっていたことがわかりました。また、2回の手術とも、挿入を計画していた眼内レンズと、実際に準備した眼内レンズの照合確認が不十分だったことも判明しました。

3 これらの内容につきましては、患者さまご家族に説明するとともに謝罪しました。

4 今後は、挿入を予定している眼内レンズの種別等が正しく業者に伝わったことを業者からの返信で確認するとともに、手術の際にはカルテの情報に基づいて、挿入を予定していた眼内レンズと、実際に準備した眼内レンズの照合確認を徹底することで、再発防止に取り組んでまいります。」


昨年5月にも,神戸市立医療センター中央市民病院で70代の白内障患者に右目と左目のレンズの度数を逆にして眼球内に取り付ける医療事故が起きています.このときは,眼科医が手術前の検査結果を電子カルテに記入する際、レンズの度数を左右逆に記載した単純ミスによるものでした.
左右の取り違えを防止するためには,確認を徹底することが必要です.

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by medical-law | 2015-07-29 20:03 | 医療事故・医療裁判

高松高裁平成27年7月24日判決,MRI検査等不実施・誤診の病院に330万円賠償命令(報道)

高知市の近森病院の医師が,2007年に搬送された香美市の女性(当時89歳)に脳梗塞を疑うべき症状がありながらMRI検査などを実施せずてんかんと誤診した事案で,高知地方裁判所は請求棄却の判決を下しましたが,控訴審の高松高裁(吉田肇裁判長)は,平成27年7月24日,社会医療法人近森会に対し慰謝料30万円と弁護士費用30万円の損害賠償の支払いを命じたことが報道されています.
私が担当した事件ではありませんので,詳細は不明ですが,「医師がMRI検査などを実施していれば、脳梗塞の発症を回避するか、後遺障害が残らない、あるいは軽減された可能性が相当程度ある」(NHK)という報道もあり因果関係について相当程度の可能性を認めたかのようにもとれますが,過失を認め因果関係を否定し期待権侵害で300万円の慰謝料と30万円の弁護士費用を認めたもののようです.

最高裁平成23年2月25日判決(民集第236号183頁)は,「当該医療行為が著しく不適切なものである事案」について,「医師が,患者に対し,適切な医療行為を受ける期待権の侵害を理由とする不法行責任を負うことがある」ことを認めています.


谷直樹


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by medical-law | 2015-07-29 01:29 | 医療事故・医療裁判

有料老人ホーム職員の介助で19種類の薬を過剰に飲み免疫機能が低下し90代女性が死亡(報道)

産経新聞「過剰に薬飲んだ女性、敗血症で死亡 宮崎の老人ホーム、職員の連絡不足・思い込みで」(2015年7月25日)は,次のとおり報じました.

「宮崎県は23日、県内の有料老人ホームで6月、職員が90代の女性入所者に過剰な量の薬を渡し、敗血症で死亡したと発表した。職員間の連絡不足や、思い込みが原因。施設代表の女性(63)は取材に「職員の連携が取れていなかった。何重にもチェックするなど改善策に取り組みたい」と話した。

 施設は、国富町の有料老人ホーム「なずな」。県によると、女性は高血圧やリウマチなどの持病があり、職員の介助で計19種類の薬を飲んでいた。うち2種類は6月6日から新たに追加され、本来は週1日なのに、誤って毎日渡していた。

 女性は6月12日から発熱や顔の腫れといった症状が現れ、服用を中止。入院後の6月25日に死亡した。過剰に服用したことで、免疫機能が低下したとみられる。」


計19種類の薬は本当に必要だったのでしょうか.
これだけ多いと服薬管理は大変ですし,副作用の心配もあります.
また,老人福祉施設等における服薬介助にはつねに危険があります.
平成26 年10 月1 日の厚労省通知「老人福祉施設等における医薬品の使用の介助について(老人福祉施設等への注意喚起及び周知徹底依頼)」は,以下のとおり注意喚起していました.

「今般、有料老人ホームにおいて、厳格な安全管理方策が必要なサリドマイド製剤(販売名:サレドカプセル100)について、サリドマイド製剤を服薬する患者である入居者とは別の入居者に対して使用の介助を行った事例が判明いたしました。
老人福祉施設等での医薬品の使用の介助については、適正な管理が求められることから、下記について、貴管下老人福祉施設等への周知徹底及び指導方お願いします。

                記

1.老人福祉施設等を利用しようとする者に対しては、医薬品の使用の有無及び当該医薬品を処方した医療機関からの留意点等の説明の有無について、本人又は家族に確認するとともに、必要に応じて当該処方医療機関にも留意点等の確認を行うこと。また、医師、歯科医師又は看護職員の配置がある場合には、使用している医薬品に関して確認された内容について当該職員等は把握のうえ必要な対応を行うこと。

2.利用者に対して老人福祉施設等の職員が医薬品の使用を介助することになった場合には、その使用目的、取り違えその他の誤使用を防止する方策、適正に使用する方法等について、従業者に対し、改めて周知徹底すること。また、看護職員の配置がある場合には、医薬品の使用の介助については看護職員によって実施されることが望ましく、また、その配置がある場合には、その指導の下で実施されるべきであること。

3.医薬品の使用の介助に当たっては、「医師法第17 条、歯科医師法第17 条及び保健師助産師看護師法第31 条の解釈について(平成17 年7月26 日付け・医政発0726005 号)」(別添1)や、また特別養護老人ホームについては平成24 年度厚生労働省老人保健事業推進費等補助金による「特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン」(別添2)を参考にすること。特に、医薬品の取り違えについては、利用者の入れ替わりや職員の入れ替わりなどで起きる可能性が高まることを踏まえて、日頃から職員の声かけなどにより、本人確認の徹底を行うこと。

4.老人福祉施設等において医薬品の誤使用が発生した際には、以下の対応を行うこと。
① 速やかに医療機関に連絡して、必要な対応について相談すること。
② 医薬品の誤使用が発生した原因を分析し、その再発を防止する観点から、当該老人福祉施設等の内部における情報の共有・注意喚起等必要な安全管理対策を講じること。

5.本通知でいう「老人福祉施設等」については、老人福祉法又は介護保険法に規定されている施設等であって、当該施設等の職員が利用者に対して医薬品の使用の介助を行うものが該当する。

6.また、居宅において医薬品の使用の介助を行う場合についても、本通知の趣旨を踏まえて、上記1~5を参考にすること。」



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by medical-law | 2015-07-28 03:47 | 医療

貧困と医療を受ける権利

患者の権利オンブズマンの全国連合同研修のため7月25日から26日の2日間,福岡に行ってきました.
そのなかでも興味深かったのが,千鳥橋病院の医療ソーシャルワーカーの伊規須朋子氏の講演「脅かされる医療を受ける権利」です.
もともと不安定な雇用状態の人が病気,高齢となったとき,継続的に医療を受ける必要があるのに,保険に入っていない,生活保護を受けられないなどの場合に,医療を受けることが困難で,受診が遅れがちです.
貧困のために医療が受けられない人たちにどのような援助ができるのか,という問題です.
無料低額診療事業による取り組みについて報告がありました.
また,若年の望まない妊娠などへの援助についてもお話いただきました.
医療を受ける権利をどのように保障,実現するのか,知らないことも多く,有益な講演でした.


谷直樹


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by medical-law | 2015-07-27 06:09 | 医療

千葉県がんセンターで腹腔鏡手術を受けた患者が死亡した問題で医師を処分(報道)

朝日新聞「腹腔鏡手術死亡、4医師懲戒処分 千葉県病院局」(2015年7月25日)は,次のとおり報じました.

「県がんセンターで腹腔(ふくくう)鏡手術を受けた患者が死亡した問題で、県病院局は24日、医師4人を懲戒処分とし、発表した。

 死亡11例中8例の手術を担当した男性医師(52)は、倫理審査委員会への申請を行わずに手術をしたことなどが病院への社会的信用を失わせた、などの理由で減給3カ月(10分の1)。同医師は同日付で退職した。同様に、11例中1例を担当した男性医師(56)は減給1カ月(10分の1)。当時の上司の男性医師(61)と、医療安全管理の責任者だった××××・現病院長(64)の2人を戒告処分とした。

 このほか、医師や事務職員ら12人を文書訓告、1医師を厳重注意とした。」


医療事故で行政処分が行われるのは異例なことです.

谷直樹


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by medical-law | 2015-07-26 23:25 | 医療事故・医療裁判

娩出が遅れ児が重度障害を負った事案で,山形県と1200万円の和解成立

仙台高等裁判所において,平成27年7月23日,児の娩出が遅れ児が重度の障害を負った事案で,山形県と1200万円で訴訟上の和解が成立しました.

【経過】 
原告(控訴人)は,平成18年×月○日午後3時18分に帝王切開により出生しました.

山形地方裁判所平成24年3月13日判決は,平成18年×月×日午後7時40分から午後8時35分までの分娩監視装置の所見から同日午後8時32分には急速遂娩を決定すべきであったと山形県立■■病院産婦人科の担当医師の過失を認定しました.
ただ,同時刻までに急速遂娩を決定し午後10時32分ころまでに原告を娩出したとしても,原告に生じている後遺障害を免れることができた高度の蓋然性があるとはいえないから,被告病院医師が急速遂娩を決定すべき注意義務に違反し,これを決定しなかった過失と原告に生じた後遺障害との間には因果関係があるとはいえない,との理由で,原告の請求を棄却しました.

原告(控訴人)は,平成24年3月15日,控訴しました.
私と伊藤律子弁護士,笹川麻利恵弁護士は,控訴審から控訴人(患者側)の代理人に就きました.

仙台高等裁判所で,(1)×月×日午前10時10分から午前11時7分の分娩監視装置の所見からバックアップテストを行い異常(胎児母体間輸血症候群による胎児貧血)を発見し娩出する義務があること,(2)胎児母体間輸血症候群の進行が緩やかだったことから仮に午後10時32分ころに娩出したとしても予後は良かったこと(障害は翌日午後3時18分まで娩出が遅れたことによるものであること)を主張しました.

仙台高等裁判所の和解提案により1200万円での和解が成立しました.

【コメント】
1200万円の和解金額は,仙台高等裁判所が過失と或る程度の因果関係を認めたものと考えます.
山形県は,医師の過失を認定した山形地方裁判所の判決と,因果関係についての仙台高等裁判所の審理経過を真摯に受け止め,再発防止に努めていただきたい,と思います.


谷直樹


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by medical-law | 2015-07-25 00:21 | 医療事故・医療裁判

民事訴訟法248条の趣旨を活用した広島地方裁判所平成27年5月12日判決

医療訴訟において,医師の過失が認められるが,医師の過失と結果との間の相当因果関係について高度の蓋然性までは認定できず相当程度の可能性しか認められない場合,判決において比較的低額の賠償額しか認定されないことも少なくありません.
適切な治療が実施されたら,後遺障害があったとしても今より後遺障害の程度は軽かったはず,という事案について,裁判所は,賠償額をどのように認定するか悩まれることも多いと思います.
広島地方裁判所平成27年5月12日判決(中国中央病院の血液検査不実施,低血糖症の診断遅れ事件)は,私が担当した事件ではありませんが,このような場合に民事訴訟法248条の趣旨を踏まえ逸失利益について65%の損害を因果関係のある損害と認めています.事案における適切な解決を導く手法として参考になると思います.

同判決は,以下のとおり判示しています. 

「被告病院の医師は,2月2日及び2月6日に原告の血液検査を実施するべき注意義務に違反したことが認められるから,2月12日及び2月18日の各診察日に原告に対して血液検査を実施すべき注意義務に違反したかどうかについて判断するまでもなく,被告は原告に対して債務不履行責任を負うということができる。そして,証拠(鑑定の結果)によれば,被告病院の医師が2月2日又は2月6日に原告に対して血液検査を実施したならば,原告について,遅くとも2月6日には低血糖症の診断をすることが可能であり,その数日後には,高インスリン血性低血糖症の診断をすることが可能であったことが認められる。」

「5 被告病院の医師の過失と原告の障害との因果関係の有無(争点(3)について)

(1)原告の現在の障害の程度

前記1(12)の認定事実,鑑定の結果及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成18年障害程度A(重度)の療育手帳の交付を受け,その後も更新を受けており,現在は,障害を有する子ども向けの施設に入所して特別支援学校に通学していること,今後の症状の改善の見込みはないことが認められる。
原告の障害の程度,内容によれば,原告の後遺障害は自動車損害賠償保障法施行令別表第一第2級第1号に相当し,原告はその労働能力を100%喪失したということができる。

(2)被告病院の医師の過失と因果関係のある障害の程度

ア 前記2(1)の認定事実及び証拠(甲B8[793])によれば,低血糖による発作を繰り返すと,中枢神経系を損傷し,予後に重篤な脳障害を残すおそれがあること,特に6か月未満の乳児では予後に影響を与える程度が大きいことが認められる。
原告は,被告病院を最初に受診した平成14年2月当時,生後6か月る2月2日から高インスリン血性低血糖症の診断を受けた3月28日までの間,2月12日,2月18日,2月19日,3月5日,3月13日の各日に,低血糖の症状である皮膚の蒼白,発汗,四肢のふるえ,頻脈,いらだち,不機嫌,脱力感,意識障害,けいれん等の様子を示しており,3月26日の直前には,ほぼ毎日,上記のような症状が現れていたことが認められる。そして,証拠(鑑定の結果)によれば,原告の中枢神経系は,上記の時期の低血糖状態やそれに伴うけいれん等により一定の損傷を受けたことが認められる。
したがって,被告病院の医師が2月上旬から原告に対して高インスリン血性低血糖症の治療薬を投与したならば,上記の期間内における原告の中枢神経系の侵襲を回避することができたということができる。

イ 他方で前記1(11)ウ~カの認定事実及び証拠(鑑定の結果)によれば,原告は,平成15年5月20日の発達検査において,生活年齢が1歳9か月であるのに対し,発達年齢は1歳5.5か月,発達指数(DQ)は83と判定されたこと,平成18年1月18日のKこども家庭センターにおける心理検査では,生活年齢が4歳5か月であるのに対し,発達年齢は2歳前,発達指数(DQ)は45であると判定されたことが認められ,これによれば,平成18年時点においては,平成15年時点に比べて発達遅滞の程度が大きくなったということができる。
また,後掲の証拠によれば,原告は,平成14年9月12日(乙A3[161]),平成15年1月中旬(乙A3[144]),同年3月22日~26日(3月24日を除く。乙A3[123]),平成17年1月12日(乙A1[103]),同年1月19日(乙A1[104]),同年2月2日(乙A1[106]),同年2月10日(乙A1[107]),同年8月4日,同年8月8日(乙A1[114],A6[11]),同年8月17日(乙A1[115]),同年11月30日(乙A6[16]),平成18年1月1日(乙A1[122])の各日に,低血糖の状態となったことが認められる。
これらによれば,原告の発達遅滞の程度は期間が経過するにつれて大きくなっていること,原告は治療薬の投与を受けるようになった後も低血糖の状態を繰り返していることが認められる。そうすると,原告が治療薬の投与を受けるようになった後も,低血糖状態,けいれん等により,原告の中枢神経系に損傷が加えられたと考えられる。
したがって,上記ア認定の後遺障害の全部が被告の債務不履行に起因するものであるとまで認めることはできない。

低血糖によるけいれんの頻度等と中枢神経系への侵襲の程度の関係について実証的な研究が存在することをうかがわせる証拠はなく,低血糖によるけいれん等が中枢神経系に与えた影響の程度を明確に判断することは困難であるが,前記1認定の諸事情を考慮すると,仮に被告病院の医師に過失がなく,原告に対して速やかに高インスリン血性低血糖症の治療が開始されたとしても,原告には,自動車損害賠償保障法施行令別表第二第9級第10号(神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの)と同程度の後遺障害が残存した蓋然性が高いということができる。民事訴訟法248条の趣旨を踏まえると,原告が喪失した労働能力のうち65%に相当する損害について,被告の債務不履行と相当因果関係を有すると認めるのが相当である。



2級の労働能力喪失率は100%,9級の労働能力喪失率は35%,そこで同判決は65%の労働能力喪失を因果関係のある損害としたのです.適切な検査,治療を受けられた場合9級の後遺障害が残ったという点については,高度の蓋然性を認定しています.適切な検査,治療を受けられた場合に生じた後遺障害の程度について被告に事実上の立証責任を課しているものと考えられます.

同判決は,原告の逸失利益を65%の2918万6274円と認定し,後遺症慰謝料1600万円と弁護士費用450万円を認め,計4968万6274円の支払いを命じました.


谷直樹


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by medical-law | 2015-07-23 04:49