弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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腸管狭窄と高度の便秘と腎機能障害を有する83歳の男性に経口腸管洗浄剤を服用させた事案の第1回期日

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今週は,裁判期日が4件入っています.
その1つが,腸管狭窄と高度の便秘と腎機能障害を有する83歳の男性に経口腸管洗浄剤を投与した事案の第1回期日です.
京都地裁,8月24日(木曜)午前11時00分です.

医療事故により亡くなった患者は,京都市下京区の83歳の男性でした.1級技能士資格及び職業訓練指導員免許をもつベテラン表具師で,元氣に仕事をしていました.
原告は,京都市下京区在住の患者の妻,長男と仙台市在住の次男です.
被告の病院は,京都市中京区の総合病院(公的病院)です.

【事案】
大腸検査前処置の医療過誤です.
医師は,大腸検査の前夜に下剤ラキソベロンを服用し,検査当日に経口腸管洗浄剤ムーベンを服用する,という手順を指示しました.
83歳の男性は,腸管狭窄と高度の便秘と腎機能障害があり,検査前夜に指示に従い下剤ラキソベロンを服用しましたが,排便はありませんでした.

その状態で,経口腸管洗浄剤ムーベンを服用するのは大変危険です.
ムーベンの添付文書の警告欄には,【禁忌(次の患者には投与しないこと)】として,「腸管に閉塞のある患者又はその疑いのある患者(大腸検査前処置に用いる場合)[腸管蠕動運動の亢進により腸管の閉塞による症状が増悪し、腸管穿孔に至るおそれがある.]」と記載されています.
医学文献 「腸疾患診療-プロセスとノウハウ」には,「腸管に狭窄病変のある患者に投与すると腸閉塞や腸管穿孔を起こし,重篤な状態を引き起こす可能性があり,投与前の問診や診察が重要である」(125~126頁)と記載されています.

患者に腸管狭窄と高度の便秘と腎機能障害があることを医師は知っていたはずですから,医師にはムーベン投与前に問診,診察を行ない,とくに排便状況について把握する注意義務があったはずです.
にもかかわらず,医師は,ムーベン投与前に問診,診察を行いませんでした.
そのために,患者がムーベンによる糞便大腸イレウスを発症してショック状態となり,腸管虚血が遷延し,S状結腸の穿孔を来し,穿孔により汎発性腹膜炎を発症し,死亡しました.

この件は,医療事故調査が行われており,平成28年5月12日の「医療事故調査報告書」にも,「本患者のように慎重投与例に対しての排便状況の把握は不十分だった.また,詳細な手順書は整備されていなかった」,「ムーベン服用を契機に糞便による大腸イレウスを発症しショック状態となった.その後,腸管虚血が遷延し,S状結腸の穿孔を来し汎発性腹膜炎を発症,死亡に至った」と書かれています.

本件患者がショック状態に陥った後,被告病院は,すみやかに近くに住む妻と長男に連絡しなかったので.家族は,午後2時頃急変している状況を知らずに訪室し,本件患者が苦痛表情を呈していた姿を見て,いっそう大きな精神的苦痛を被りました.
事故後の対応にも問題のある事案と思います.

この裁判が適正に解決し,医療事故の再発防止に役立つよう,力を尽くしたいと思います.


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-22 06:10 | 医療事故・医療裁判

全国薬害被害者団体連絡協議会などが実効性のある医薬品行政監視・評価する第三者組織の設置を求める

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薬害肝炎検証委員会の最終提言は,実効性のある医薬品行政監視・評価する第三者組織の設置を求めていました.政府もそれを約束していました.
ところが,実効性のある医薬品行政監視・評価する第三者組織設立は,監視・評価される側の反対が強く,未だに設置されていません.

毎日新聞「薬害防止 第三者組織創設 厚労相の約束、放置 被害者、実現求める」(2017年8月20日)は, 次のとおり報じました.

「第三者組織の規模や権限などで考えが一致せず法改正のめどは立っていない。
 今年7月の大臣協議でも前向きな回答がなく、原告団代表の山口美智子さん(61)は「国民の命の置き去りは許されない」と訴えたという。寺野理事長は「約束を放置したままなのは、意図的か怠慢かのいずれかだ。第三者組織の必要性は今も変わっていない」と憤る。」
 
「エイズ訴訟などを手掛けてきた医療問題弁護団顧問の鈴木利広弁護士は「振り返れば、国は被告席から一度も外れたことがない。繰り返される謝罪が政治的な判断で、官僚組織の中に反省が行き届いていない表れだ」と指摘。その上で「必要なのは対立ではなく、官民の対話による再発防止の仕組み作り」と訴える。その一つが、被害者も参加した第三者組織だという。

 全国薬害被害者団体連絡協議会などは24日、厚労省の前庭に建つ「薬害根絶誓いの碑」の前で集会を開き、第三者組織の早期設置などを訴える予定だ。」


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-20 11:01 | 医療

デイリー新潮,あくまで、体制が整っていない病院での無痛分娩が危険であるという話

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デイリー新潮「無痛分娩は本当に高リスク? フランスで出産した女性「無痛分娩は、“産まれてからの日々のスタート”のためにある」」(2017年8月18日)は,「長い痛みに苦しまず出産した母親は、すぐに子供を笑顔で抱きしめる余力を持てる。無痛分娩は、“産まれてからの日々のスタート”のためにあるのです」というフランスの医師の言葉を,高崎順子さんの『フランスはどう少子化を克服したか』から引用しています.

「海外では既に無痛分娩が主流でさえあり、米国で6割、フランスでは8割の人が無痛分娩を選択するという。」

「実は無痛分娩自体はリスクが高いわけではない。あくまで、体制が整っていない病院での無痛分娩が危険であるという話である。」


今朝のNHK「おはよう日本」でも無痛分娩についての放送があったそうです

無痛分娩は素晴らしい医療技術です.産科医療体制を整えて,日本でも無痛分娩を増やすことが望まれると思います.
産科医療事故を減らすためにも,この機会に,日本の産科医療は医師一人の医院でよいのか,議論していただきたいと思います.


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-18 16:10

平成28年の医事関係訴訟,提訴は878件,審理期間は23,2月,認容率(患者側勝訴率)は17.6%

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裁判所の集計によると,平成28年の医事関係訴訟(新受)は878件(前年より52件増加)でした.平成20年の水準に戻ったと言えます.
医療ADRなど裁判外の紛争解決手段が充実してきたにもかかわらず,平成28年に提訴された医事関係訴訟が878件もあったということは,(1)医療過誤の疑いのあるケースが表面化することが増えてきたためと(2)医療過誤の疑いをもった場合に弁護士に相談する事例が増えてきたためではないか,と思います.

平均審理期間は23,2月です.
平成25年以降,審理期間は2年を切っています.
ただ,あくまで平均であって,被告側(医療側)が徹底抗戦の姿勢で争ってくれば,2年以上の時間がかかります.

平成28年の地裁民事第一審通常訴訟事件・医事関係訴訟事件の認容率(原告=患者側が勝訴した率)は,17.6%と著しく低率です.
20%を切ったのは,平成11年以降はじめてです.
通常訴訟の認容率が80%を超えているのに比べると,医事訴訟の認容率の低さが際立ちます.
医療においては,原告(患者側)が過失・因果関係を立証するのは難しいことが分かります.
ただ,それにしても,17.6%は低すぎます.
医事裁判では原告側(患者側)の主張立証の巧拙が結果に影響することも多々ありますので,弁護士が増え従前医療過誤事件を取り扱わなかった人たちが取り扱うようになったために患者側代理人の力量が低下してきたのでしょうか.また,高裁で逆転判決の報道もいくつかみられることから,地裁裁判官の力量不足によるものなのでしょうか.どこかで,医事敗訴判決の研究を行っていただけると,大変有意義だと思います.

判決で終了するのは34.1%,和解で終わるのは51.1%です.
和解内容は,判決以上に担当弁護士の力量を反映します.原告側(患者側),被告側(医療側)双方に力量のある弁護士がつくと,先が見えるので,和解で終わることが多いように思います.


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-18 14:46 | 医療事故・医療裁判

歯科医師の資質向上等に関する検討会(第6回),8月31日開催

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1.日時
平成29年8月31日(木)14:00~16:00
2.場所
経済産業省別館3階312各省庁共用会議室
(東京都千代田区霞ヶ関1丁目3番1号)
傍聴申込書は厚労省サイト

ちなみに高梨滋雄先生(高梨滋雄法律事務所)も検討会構成員です.

口腔ケアは,誤嚥性肺炎の発症予防になりますので,入院患者の口腔ケアを充実させてほしいと思います.
また,周術期に口腔管理を行うことにより入院日数が減少することも知られています.口腔ケアは重要です.

高血糖は歯周病のリスクであり,歯周病はインスリンの働きを妨げますので糖尿病のリスクです.
そこで,糖尿病患者,その予備群は,定期的に歯科を受診する必要があります.


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-16 23:52 | 医療

丹青活手妙通神

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若冲は,尊敬する売茶翁から,「丹青活手の妙神に通ず」と賞賛されたことから,「丹青活手妙通神」の印をつくり,自信作に遊印として捺したそうです.

「丹青活手妙通神」の印が捺されているのは,意外なことに,「群鶏図」ではないのです.
次の4作品です.

「蓮池遊漁図」
鮎9尾が,1尾のオイカワとともに描かれています.
オイカワは,鮎に混じって日本に移入されたそうです.
蓮は,仏教では重要な花ですが,泥に咲く花です.
清流に棲む鮎が蓮池にいるはずはありません.
現実にはあり得ない世界が描かれています.
上からの視点と横からの視点が混在しています.

「池辺群虫図」
縁起の良い瓢箪と多くの虫が描かれています.
虫は,昆虫に限らず,獣,鳥,魚,貝以外の小動物をいいます.
虫は精密に描かれていますが,これもあり得ない世界です.
構図は「蓮池遊漁図」と似ています.

「牡丹小禽図」
濃淡と縁取りによって際立つ牡丹が画面いっぱいに描かれています.
小手毬,蘭は牡丹を引き立てています.
2羽の小禽の視線の先には1匹の虫がいます.
これは獅子身中の虫なのかもしれません.

「百犬図」
若冲晩年の「百犬図にも「丹青活手妙通神」の印が捺されています
狗子仏性の公案,つまり犬に仏性があるか,という問いに,有り無しの「無」ではなく,絶対的な「無」で答えた,という話は,若冲の好む画題です.
犬と箒の画はこの公案を示しますが,「百犬図」では,犬が箒の切れっ端をくわえています.

どこにも行けないときは,画集を見て,癒やされています.


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-16 04:40 | 趣味

自殺した産婦人科研修医の労災認定を受け,学会・医会が産婦人科勤務医の勤務環境改善を求める

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東京都内の病院の産婦人科に勤務していた後期研修医(専攻医)が2015年7月に自殺した件について,労働基準監督署は労災と認定しました.
遺族の代理人の川人博先生は,会見し,「医師の過労死や過重労働をなくすために政府も社会も真剣に考えるべきだ」と述べました(NHK「研修医の自殺は過労が原因 労基署が労災認定」(2017年8月9日).
遺族(両親)は,「国の働き方改革において、医師への時間外労働規制の適用が5年先送りにされ、この間に同じような不幸が起きないか懸念されます。医師も人間であり、また労働者でもあり、その労働環境が整備されなければ、このような不幸は繰り返されると思います」としています。」(NHK「研修医の自殺は過労が原因 労基署が労災認定」(2017年8月9日)

公益社団法人日本産科婦人科学会(理事長藤井知行)と公益社団法人日本産婦人科医会(会長木下勝之)は,平成29年8月13日,「声明:日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会は分娩取り扱い病院における産婦人科勤務医の一層の勤務環境改善を求めます。」を発表しました.

「私どもは、これまで産婦人科医を増やすとともに、地域基幹病院の大規模化重点化を推進することを通じて病院在院時間を短縮し、勤務条件を改善するために努力を続けてまいりました。その結果、分娩取扱病院の常勤産婦人科医数は、施設あたり2008年の4.9人から2016年には6.5人へ33%増加しました。しかし、妊娠育児中の医師の割合の増加等により夜間勤務可能な医師数の増加は限定的で、推定月間在院時間の減少率は2008年の317時間から2016年の299時間へ6%にとどまっています。
日本産科婦人科学会は、平成27年度に「産婦人科医療改革グランドデザイン2015」を策定し、継続的な就労可能な勤務環境を確保することを大きな目的の一つとして、地域基幹分娩取扱病院の大規模化・重点化の推進を提唱しました。
24時間対応が必要な地域基幹病院の産婦人科では、少人数の体制では、持続可能な体制の維持は不可能、という考え方に基づくものです。人数が多ければ、当直等の負担を軽減することが可能になるとともに弾力的な勤務体制への対応も可能になります。この実現のために私たちはさらに産婦人科を専攻する若き医師たちを増やすとともに、分娩取り扱い病院数の減少も避けられないことを国民の皆さまにご理解いただきたく思います。私どもは、今回改めて強い決意を持って、産婦人科医の勤務環境の改善のためのこの施策を推進してまいります。」


分娩取扱病院の常勤産婦人科医数だけで医療の質を測ることはできませんが,分娩取扱病院の常勤産婦人科医数が少ないと,労働過重になりますし,医療の質も担保できないことになるでしょう.勤務する産科医のためにも,妊産婦のためにも産科医増員とともに,地域基幹分娩取扱病院の大規模化・重点化は必要です.
産科医増員とともに,地域基幹分娩取扱病院の大規模化・重点化を迅速かつ強力に進めていただきたく思います.



谷直樹

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by medical-law | 2017-08-15 13:39 | 医療

夏期休廷期間

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裁判所には,3週間程度の夏期休廷期間があります.
交代なので,夏期休廷期間の影響を受けるのは6週間になります.
そのため,裁判期日が偏ります.
とくに夏期休廷明けの9月は裁判期日が集中します.
当然,書面起案の締め切りも重なります.
そこで,前倒しで8月中に或る程度は準備しておかねばなりません.
お盆でも,お墓参りに行く時間はなさそうです.


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-15 00:03 | 司法

神戸市西区のクリニックの院長医師から私に対する調停申立がありました

神戸市西区のクリニックの無痛分娩事故をめぐって,新しい展開がありました.
クリニックの院長医師から,私に対する調停申立がありました.
8月7日付の調停申立書が,8月9日に突然送達されました.

1 遺族は再発防止に繋がる活動を今後も続ける決意です.

起きてしまった医療事故を起きなかったことにはできませんが,医療事故にかかわった人間は,加害者であれ,被害者であれ,同様の医療事故が再び起きることのないようにしたいと願うと思います.
ところが,少なくともこの調停申立書からは,院長医師が無痛分娩事故についてその重さを受けとめ真摯に反省している様子がうかがえず,再発防止のための決意と活動がうかがえません.これは,非常に残念なことです.
神戸市西区のクリニックの院長医師の代理人弁護士井上清成氏と一般社団法人日本産婦人科協会の事務局長池下久弥氏らが8月8日に,記者会見し,無痛分娩の医療体制整備の動きについて現実的ではないと否定したところからすると(会見で調停申立についても言及したそうです),この調停申立は,遺族の再発防止に繋げる活動に水を差そうとするものとも考えられます.

この調停申立書を読んだ遺族は,再発防止は社会的に有意義であり,それに繋がる活動を今後も続けていきたい,と決意を新たにしています.
また,代理人弁護士の役割は,示談を成立させればそれで終わりというものではありません.依頼者の再発防止の願いを実現するために,必要なことを行うことも大事な仕事です.

2 調停申立前に院長医師側から連絡,話し合いの求めはありませんでした.

普通は調停申立の前に,話し合いがあって,それが決裂してはじめて調停申立となるのですが,この件は,何の連絡もなく,いきなり調停申立書が送られてきました.
これはきわめて異例なことです.
申立人(院長医師)に,話し合いの姿勢はあるのでしょうか.

3 再発防止のための情報確認・情報提供は正当な行為です.

調停申立書は,「相手方が報道各社に対し,上記のような情報提供を行ったことを受け,公正中立な御庁の仲裁を仰ぎつつ,相手方との間で話し合いを行い,相手方との円満な調整を試み,改めて解決を図ることが適切妥当であると思料し,本調停申立てに至った次第である。」と結ばれています.

しかし,事故の再発防止のために,報道各社からの情報確認に答え,事実ができるだけ正確に報道されるように情報提供を行ったことは,正当な行為です.
報道各社は,遺族の言い分だけではなく,クリニック側の言い分も聞く必要があり,そのためにクリニックの実名を知る必要があります.遺族と遺族代理人である私が報道各社にクリニックの実名を伝えるのは当然です。なお,実名で報道するか否かは,各社が判断することです.
また,事故の再発防止のために,カルテ等の資料を確認し,診療経過等についてできるだけ正確な情報を厚生労働省,日本産婦人科医会,日本産婦人科学会,報道各社等に提供することは,目的が正当で手段が相当な行為です.非難される謂われはありません.

4 風評被害ではありません.

調停申立書には,「報道各社の本件クリニックに対する取材攻勢は落ち着いたが,現在,本件クリニック名でインターネット検索をすれば,本現在,本件各報道記事が検索上位に来る状態となっており,本件クリニックに風評上の被害が生じている状況である」と記載されています。

しかし,「風評被害」とは,“根拠のない噂による被害“をいいます.

示談書には,次のとおり書かれています.
「平成27年9月2日,乙が甲1に対する硬膜外麻酔後の観察義務を怠った過失により,甲1に遷延性意識障害,甲2に重症新生児仮死及び低酸素性虚血性脳症の重篤な後遺障害を負わせた医療事故(以下「本件医療事故)と言う。」について,甲1ないし甲3(以下「甲1ら」と言う。)と乙は,本日,以下のとおり示談した。」

院長医師が妊産婦に対する硬膜外麻酔後の観察義務を怠ったこと,その観察義務違反によってその妊産婦に遷延性意識障害を,子どもに重症新生児仮死及び低酸素性虚血性脳症の重篤な後遺障害を,それぞれ負わせたことは,院長医師も認めた事実です.(私がインターネット検索をしたところ報道記事が上位5位内に来ていませんでしたし,報道が神戸市西区のクリニックにどのような影響をあたえたかは知りませんが,仮に報道により何らかの影響があったとしても,)それは「風評」によるものではありません.

医療事故,医療過誤があった場合の正しい対応は,それを自ら認めて会見したり,サイトで謝罪と説明をすることです.謝罪と説明により,患者の信頼を得ることができます.
調停申立書には,患者情報であることから勝手に情報提供できないので対応に苦慮した旨のことが書かれていますが,遺族の代理人に連絡し,公表内容について同意を得ればすむことです.

また,調停申立書には,「新たに代理人弁護士を立てることで,報道各社の本件クリニックに対する取材攻勢は落ち着いた」と記載されています.そうであれば,仮に取材による混乱があったとしても,それは申立人(院長医師)ないし申立人代理人の対応に起因するものと考えるのが合理的ではないでしょうか.

神戸市西区のクリニックの代理人井上清成弁護士が会見し,「院内検討委員会報告書」の一部(再発防止部分)を公表したのは,2017年8月8日です.院内検討委員会を設置し,再発防止策を検討したのは,事故の報道前なのでしょうか,それとも報道後なのでしょうか.もし,報道後だとすると,事故の再発防止のためというより報道対策のためとみられてもやむをえないのではないでしょうか.そもそも,院内調査が行われたこと,再発防止策がとられたことを,遺族が報道で間接的に知るということ自体おかしなことではないでしょうか.

5 調停申立書は遺族の代理人にすぎない私を「相手方」にしています.

調停申立書には,「改めて解決を図ることが適切妥当である」と書いていますが,この件は示談ですべて解決しています.示談により解決したものを蒸し返すことは適切妥当ではありません.
示談は,クリニックの院長医師と無痛分娩事故の被害者3名との間で成立しています.にもかかわらず,この調停申立の「相手方」は,被害者の代理人である私です.いったいどうなっているのでしょう.

遺族は,無痛分娩事故の被害者が口を噤んでいたなら,次の事故が起きる,再発防止のために事故の事実を知らせる必要がある,と考えました.そこで,遺族は神戸新聞に連絡し,神戸新聞は遺族に取材しました。その後,神戸新聞から私に情報確認と情報提供の求めがあり,私は遺族の意思に基づき,代理人として情報確認と情報提供を行いました.

神戸新聞の報道後に,報道各社から,情報確認,情報提供が求められ,私は,遺族の意思に基づき,代理人として情報確認,情報提供を行いました.
また,各社から遺族への取材希望があり,私は,それを依頼者である遺族に伝え,日程調整を行い,各社は遺族に取材を行いました.

申立人(院長医師)は,報道について,「相手方自身の意見が多く含まれるものであった(甲4読売新聞,甲5朝日新聞)。」と調停申立書に書いています.
しかし,読売新聞に「遺族側の代理人によると」,朝日新聞に「遺族側の代理人弁護士によると」と記載されているとおり,遺族の代理人として述べたものです.

クリニックの院長医師が,遺族の代理人である私を「相手方」として調停を申し立てるというのは,おかしな話です.
離婚やDV(ドメスティックバイオレンス)事件では,相手方の代理人弁護士が標的にされることがありますが,医療過誤事件では異例です.

6 調停申立書には事実に反する憶測が記載されています.

調停申立書には,私が遺族に謝罪の件を伝えていなかったのではないか,という疑いが記載されていますが,そのようなことはありません.
神戸市中央区の麻酔分娩事故の報道があった直後に,当時の代理人であった弁護士(今回の調停申立の代理人とは違います)からクリニックの院長医師から謝罪にうかがいたいとの電話があり,そのことを遺族に伝えています.
それ以外にも事実に反する記載があります.


谷直樹

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by medical-law | 2017-08-13 20:48 | 医療事故・医療裁判

名古屋市内の診療所での無痛分娩事故の遺族が,国などに要望書提出(報道)

朝日新聞「無痛分娩事故の実態把握、国に要望 死亡した母子の遺族」(2017年8月12日)は,次のとおり報じました.
 
「名古屋市内の診療所で2008年、麻酔でお産の痛みを和らげる「無痛分娩(ぶんべん)」で出産した30代の女性と赤ちゃんがともに死亡していたことが分かった。女性の遺族は、無痛分娩を巡る国内の事故の実態把握などを求め、10日付で国などに要望書を提出した。

 遺族側の代理人弁護士によると、女性は08年12月、名古屋市内の産科診療所で無痛分娩に臨んだ。麻酔の直後に息苦しさを訴え、搬送先の大学病院で母子ともに死亡が確認された。遺族側は、麻酔の影響で呼吸困難になった可能性を主張。民事調停が成立したという。

 女性の遺族は、無痛分娩に伴う国内の事故について、「医療機関だけでなく被害者や遺族からも直接情報を集めることが必要」などと訴えている。無痛分娩を巡っては、大阪府や兵庫県、京都府で母や子が死亡したり重い障害を負ったりするなどの事例が相次いで発覚している。(石塚翔子)」


これは,私が担当した事件ではありません.
名古屋の堀康司先生らが担当した事件です.
無痛分娩事故の遺族が,報道に触発されて,次々と声を上げるようにようになったようです.
このような動きが,無痛分娩事故の再発防止につながることを切に希望いたします.

【追記】

読売新聞「無痛分娩巡り死亡した母子の遺族、再発防止に向けた実態調査求め要望書」(2017年8月15日)は次のとおり報じました.

「名古屋市の診療所(現在は廃院)で2008年12月、出産の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩(ぶんべん)を巡り死亡した母子の遺族が、再発防止に向けた実態調査の充実を求める要望書を厚生労働省や日本医師会などに提出した。
 要望書は今月10日付。それによると、当時33歳の母親は、麻酔薬を投与された直後に容体が急変。搬送先の大学病院で死産した後、亡くなった。
 遺族は、医療機関の調査だけでなく、被害者や遺族からの情報を直接受け付ける窓口の設置を要望。医療事故に備えて医師が加入する日医の医師賠償責任保険の支払い状況を活用した実態把握なども求めた。」



谷直樹

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by medical-law | 2017-08-12 13:01 | 医療事故・医療裁判