弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

「無痛分娩の実態把握及び安全管理体制の構築についての研究」班第1回公開検討会

本日,「無痛分娩の実情把握及び安全管理体制の構築についての研究」班第1回公開検討会が開かれましたので,傍聴いたしました.

研究代表者の海野信也氏から,本研究の概要について,次のとおり説明がありました.

研究の概要
・無痛分娩については、平成21年度に厚生労働科学研究「妊産婦死亡及び乳幼児死亡の原因究明と予防策に関する研究」において、分担研究「全国の分娩取り扱い施設における麻酔科診療実態調査」により調査が行われているが、これ以後に無痛分娩に関する全国施設調査は行われておらず、その現状は不明である。しかしながら、無痛分娩時に発生した重篤事例が報告されているため、実態把握と安全管理体制の構築が急務である。
・現状の実態把握と分析を行い安心・安全な管理体制を構築することが緊急に必要である。
・具体的には、日本産婦人科医会と連携して無痛分娩の実態に関する実態把握および正常分娩と比較した際の安全性などについての分析を行い,それを元に安全管理に関する研究を行う。 
・研究組織としては、産婦人科・麻酔・周産期領域など、無痛分娩に関わる職種に幅広く参加してもらうことで、迅速な分析と適切な安全管理体制の構築を進めていく。


研究班の基本方針
・特に,検討のプロセスの公開・透明化に配慮して研究を進める。
・「今回の事故報道等に関連して日本社会に生じている無痛分娩の安全性に関する懸念」を,診療内容の透明化,公開,共有を通じて払拭していくための方策を立案,共有する。
・「医療安全に関してはダブルスタンダードは社会的に許容されない」という認識のもと、世界標準と同等のレベルの、病院・診療所で共通の安全対策の標準的方法に関するコンセンサス形成をはかる。

研究班の任務
・課題の抽出
 -医会調査の評価
 -諸外国のガイドライン等の検討
・無痛分娩施設の診療実態の透明化推進
・安全対策に関するコンセンサスの形成→標準的方法の提示
・安全な無痛分娩体制構築の前提となるチーム医療推進のための研修体制の構築
・公開フォーラムの開催等による社会への情報提供

研究の進め方
・本研究課題の性質上、検討内容が専門性の高いものとならざるを得ない。しかし、その一方で、社会的関心の強さを考慮すると、検討過程を可能な限り透明化することも必要となっている。今年度に限定された特別研究であり、迅速に進める必要がある。
・そこで,本研究では,「公開検討会」と「作業部会」という構成で、平行して検討を進める
 -「公開検討会」:構成員を絞り,情報の共有と課題の整理,対策のとりまとめを中心とする
 -「作業部会」:調査分析と対策案の立案等の専門性の高い検討を行う平行して検討を進める。
・検討過程で早期実施が妥当とされた対策については,とりまとめを待たずに,適宜,実施を提言する。
・研究班の締めくくりとして「公開フォーラム」等を開催して情報の共有を行う。


■ 研究の方法について
公開検討会のメンバーは,各団体,学会の推薦を受けた人が中心で,それぞれの団体,学会の考えを検討会に反映し,検討会の内容を各団体,学会に持ち帰ることが期待されています.
日本産婦人科医会(石渡勇氏,前田津紀夫氏),日本産婦人科学会(板倉敦夫氏),日本麻酔科学会(飯田宏樹氏),日本産科麻酔科学会(海野信也氏),日本医師会(温泉川(ゆのかわ)梅代氏),日本助産師会(石川紀子氏),日本医療機能評価機構産科医療補償(後信氏)が網羅されています.知ろう小児医療守ろう子ども達の会の阿真京子氏もメンバーです.

作業部会のメンバーは,臨床で無痛分娩に携わっている医師が中心です.
安全管理体制の構築のためには,①医会調査の評価・課題抽出,②諸外国のガイドライン検討を含めて諸外外国との比較,③日本における安全性向上の方策,④国民への情報発信の方法について検討するようです.
作業部会のメンバーは,天野完氏,池田智明氏,奥富俊之氏,角倉弘行氏,照井克生氏,永松健氏,橋井康二氏ですので,成果を期待できます.

■ 無痛分娩の実情把握について
無痛分娩の実情把握は,基本的に医会のアンケート調査に依るようですが,医会のアンケート調査は,約60%の回収率です.そして,安全な無痛分娩が行われず,事故が起きているのが,アンケートを返してこない40%のほうにあるとすれば,医会調査には,大きな限界があることになります.
神戸市西区のクリニックの無痛分娩事故は,事故から死亡まで1年を超えている関係で無痛分娩後の妊産婦死亡14例に含まれていませんし,このクリニックが医会の調査に応じていないとすれば,実態が把握できていないことになるでしょう.

無痛分娩の実施率が年々高まり,診療所のほうが病院より高率に無痛分娩が行われていることを明らかにした点で医会調査は評価できますが,調査に限界がある以上,医会調査を補充し,実態を把握する手段も必要でしょう.

愛知の無痛分娩事故の遺族は,次のような要望をだしています

1 国は、日本医師会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会及び日本産科麻 酔学会(以下、「関係団体」)と協力し、日本における無痛分娩の実情(年間実施件数、実施医療機関の規模、急変時対応準備の有無、インシデント・アクシデントの件数等)を調査し、安全実現に向けた対策を立案して、速やかに実行して下さい。
2 前項の調査の際には、被害実態を十分に把握するために、医療機関からの聞き取り調査だけではなく、被害者・遺族からの情報を直接受け付ける窓口を設置して下さい。
3 日本医師会は、第1項の調査のために、日本医師会医師損害賠償請求保険において、過去に無痛分娩による母体死亡で保険金を支払った症例を抽出する等の方法で、事故実態の把握に協力して下さい。
4 国、日本医療機能評価機構及び関係団体は、産科医療補償制度において、無痛分娩時の母体死亡を含むすべての母体死亡についても補償を実施し、その原因分析と再発防止策の立案を行うことができるよう、制度の見直しを行って下さい。

これは,医会調査を補充し,実態を把握する方法として,検討に値するのではないでしょうか

また,実際におきた事故の実態を把握し,原因を分析することは,端的に実態を把握し,安全管理体制の脆弱な点を知るために必要でしょう.

今日の検討会では,複数の研究会メンバーから,上記のような医会調査の限界を指摘する発言もありましたが,医会を代表するメンバーから明確な説明がなく,医会調査を補充する実態調査の方法について検討されなかったのは残念です.今後に期待します.

■ 安全管理体制の構築について
医師の研修システムが変わって,今は麻酔科研修を十分受けないで産科医になる医師も少なからずいることが話題になりました.
北里大学のようなところでしっかり無痛分娩を勉強した医師が,開業医として無痛分娩を行っている限りは無痛分娩は安全ですが,無痛分娩実施率が高まり,多くの施設で行われるようになってくると安全ではなくなってくる,という問題意識はメンバーに共有されたように思います.

妊婦としては安全な施設とそうでない施設を見分けることができればよいのですが,今はそれはできません.それができない以上は,無痛分娩を希望する妊婦は,とりあえず規模の大きな施設を選ぶでしょう.高次医療機関に妊婦が集中すると,本来ハイリスク妊婦に対応すべき高次医療機関がハイリスク妊婦に対応できなくなりかねません.
そうならないように,妊婦がら無痛分娩を行う施設の診療実態が見えるようにすることは緊急の課題でしょう.

第1回で深い検討はありませんでしたが,現状の問題点が浮かび上がり,おぼろげながらも,安全管理体制構築の方向性が見えてきたようです.
今後に期待します.


谷直樹

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# by medical-law | 2017-08-23 23:18 | 医療事故・医療裁判