弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

神戸市西区のクリニックの院長医師から私に対する調停申立がありました

神戸市西区のクリニックの無痛分娩事故をめぐって,新しい展開がありました.
クリニックの院長医師から,私に対する調停申立がありました.
8月7日付の調停申立書が,8月9日に突然送達されました.

1 遺族は再発防止に繋がる活動を今後も続ける決意です.

起きてしまった医療事故を起きなかったことにはできませんが,医療事故にかかわった人間は,加害者であれ,被害者であれ,同様の医療事故が再び起きることのないようにしたいと願うと思います.
ところが,少なくともこの調停申立書からは,院長医師が無痛分娩事故についてその重さを受けとめ真摯に反省している様子がうかがえず,再発防止のための決意と活動がうかがえません.これは,非常に残念なことです.
神戸市西区のクリニックの院長医師の代理人弁護士井上清成氏と一般社団法人日本産婦人科協会の事務局長池下久弥氏らが8月8日に,記者会見し,無痛分娩の医療体制整備の動きについて現実的ではないと否定したところからすると(会見で調停申立についても言及したそうです),この調停申立は,遺族の再発防止に繋げる活動に水を差そうとするものとも考えられます.

この調停申立書を読んだ遺族は,再発防止は社会的に有意義であり,それに繋がる活動を今後も続けていきたい,と決意を新たにしています.
また,代理人弁護士の役割は,示談を成立させればそれで終わりというものではありません.依頼者の再発防止の願いを実現するために,必要なことを行うことも大事な仕事です.

2 調停申立前に院長医師側から連絡,話し合いの求めはありませんでした.

普通は調停申立の前に,話し合いがあって,それが決裂してはじめて調停申立となるのですが,この件は,何の連絡もなく,いきなり調停申立書が送られてきました.
これはきわめて異例なことです.
申立人(院長医師)に,話し合いの姿勢はあるのでしょうか.

3 再発防止のための情報確認・情報提供は正当な行為です.

調停申立書は,「相手方が報道各社に対し,上記のような情報提供を行ったことを受け,公正中立な御庁の仲裁を仰ぎつつ,相手方との間で話し合いを行い,相手方との円満な調整を試み,改めて解決を図ることが適切妥当であると思料し,本調停申立てに至った次第である。」と結ばれています.

しかし,事故の再発防止のために,報道各社からの情報確認に答え,事実ができるだけ正確に報道されるように情報提供を行ったことは,正当な行為です.
報道各社は,遺族の言い分だけではなく,クリニック側の言い分も聞く必要があり,そのためにクリニックの実名を知る必要があります.遺族と遺族代理人である私が報道各社にクリニックの実名を伝えるのは当然です。なお,実名で報道するか否かは,各社が判断することです.
また,事故の再発防止のために,カルテ等の資料を確認し,診療経過等についてできるだけ正確な情報を厚生労働省,日本産婦人科医会,日本産婦人科学会,報道各社等に提供することは,目的が正当で手段が相当な行為です.非難される謂われはありません.

4 風評被害ではありません.

調停申立書には,「報道各社の本件クリニックに対する取材攻勢は落ち着いたが,現在,本件クリニック名でインターネット検索をすれば,本現在,本件各報道記事が検索上位に来る状態となっており,本件クリニックに風評上の被害が生じている状況である」と記載されています。

しかし,「風評被害」とは,“根拠のない噂による被害“をいいます.

示談書には,次のとおり書かれています.
「平成27年9月2日,乙が甲1に対する硬膜外麻酔後の観察義務を怠った過失により,甲1に遷延性意識障害,甲2に重症新生児仮死及び低酸素性虚血性脳症の重篤な後遺障害を負わせた医療事故(以下「本件医療事故)と言う。」について,甲1ないし甲3(以下「甲1ら」と言う。)と乙は,本日,以下のとおり示談した。」

院長医師が妊産婦に対する硬膜外麻酔後の観察義務を怠ったこと,その観察義務違反によってその妊産婦に遷延性意識障害を,子どもに重症新生児仮死及び低酸素性虚血性脳症の重篤な後遺障害を,それぞれ負わせたことは,院長医師も認めた事実です.(私がインターネット検索をしたところ報道記事が上位5位内に来ていませんでしたし,報道が神戸市西区のクリニックにどのような影響をあたえたかは知りませんが,仮に報道により何らかの影響があったとしても,)それは「風評」によるものではありません.

医療事故,医療過誤があった場合の正しい対応は,それを自ら認めて会見したり,サイトで謝罪と説明をすることです.謝罪と説明により,患者の信頼を得ることができます.
調停申立書には,患者情報であることから勝手に情報提供できないので対応に苦慮した旨のことが書かれていますが,遺族の代理人に連絡し,公表内容について同意を得ればすむことです.

また,調停申立書には,「新たに代理人弁護士を立てることで,報道各社の本件クリニックに対する取材攻勢は落ち着いた」と記載されています.そうであれば,仮に取材による混乱があったとしても,それは申立人(院長医師)ないし申立人代理人の対応に起因するものと考えるのが合理的ではないでしょうか.

5 調停申立書は遺族の代理人にすぎない私を「相手方」にしています.

調停申立書には,「改めて解決を図ることが適切妥当である」と書いていますが,この件は示談ですべて解決しています.示談により解決したものを蒸し返すことは適切妥当ではありません.
示談は,クリニックの院長医師と無痛分娩事故の被害者3名との間で成立しています.にもかかわらず,この調停申立の「相手方」は,被害者の代理人である私です.いったいどうなっているのでしょう.

遺族は,無痛分娩事故の被害者が口を噤んでいたなら,次の事故が起きる,再発防止のために事故の事実を知らせる必要がある,と考えました.そこで,遺族は神戸新聞に連絡し,神戸新聞は遺族に取材しました。その後,神戸新聞から私に情報確認と情報提供の求めがあり,私は遺族の意思に基づき,代理人として情報確認と情報提供を行いました.

神戸新聞の報道後に,報道各社から,情報確認,情報提供が求められ,私は,遺族の意思に基づき,代理人として情報確認,情報提供を行いました.
また,各社から遺族への取材希望があり,私は,それを依頼者である遺族に伝え,日程調整を行い,各社は遺族に取材を行いました.

申立人(院長医師)は,報道について,「相手方自身の意見が多く含まれるものであった(甲4読売新聞,甲5朝日新聞)。」と調停申立書に書いています.
しかし,読売新聞に「遺族側の代理人によると」,朝日新聞に「遺族側の代理人弁護士によると」と記載されているとおり,遺族の代理人として述べたものです.

クリニックの院長医師が,遺族の代理人である私を「相手方」として調停を申し立てるというのは,おかしな話です.

6 調停申立書には事実に反する憶測が記載されています.

調停申立書には,私が遺族に謝罪の件を伝えていなかったのではないか,という疑いが記載されていますが,そのようなことはありません.
神戸市中央区の麻酔分娩事故の報道があった直後に,当時の代理人であった弁護士(今回の調停申立の代理人とは違います)からクリニックの院長医師から謝罪にうかがいたいとの電話があり,そのことを遺族に伝えています.
それ以外にも事実に反する記載があります.


谷直樹

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# by medical-law | 2017-08-13 20:48 | 医療事故・医療裁判