弁護士谷直樹/医療専門の法律事務所のブログ

平成23年(行ツ)第51号,第64号選挙無効請求事件 最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決多数意見

最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決多数意見は,「公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下で,平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたが,上記選挙までの間に上記規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない」と判示しました.

判決文は,長文なので,一部抜粋紹介いたします.
弁護士出身の裁判官3名の反対意見がありますが,そのうち裁判官大橋正春氏の反対意見を紹介いたします.

谷直樹

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◆ 多数意見から

3 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。

しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。

憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。

前記2(1)においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員と地方選出議員に分け,前者については全国の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである(この仕組みは,昭和57年改正後の比例代表選出議員と選挙区選出議員から成る選挙制度の下においても基本的に同様である。)。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。

しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

以上は,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり,後記4(2)の点をおくとしても,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。

もっとも,最大較差1対5前後が常態化する中で,平成16年大法廷判決において,複数の裁判官の補足意見により較差の状況を問題視する指摘がされ,平成18年大法廷判決において,投票価値の平等の重要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされ,さらに,平成21年大法廷判決においては,投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって較差の縮小が求められること及びそのためには選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることが指摘されるに至っており,これらの大法廷判決においては,上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたところである。

4 上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。

(1) 憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認め(59条ないし61条,67条,69条),その反面,参議院議員の任期を6年の長期とし,解散(54条)もなく,選挙は3年ごとにその半数について行う(46条)ことを定めている。その趣旨は,議院内閣制の下で,限られた範囲について衆議院の優越を認め,機能的な国政の運営を図る一方,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え,参議院議員の任期をより長期とすることによって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映し,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。

いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられているところであるが,その合理性を検討するに当たっては,参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余,当裁判所大法廷において前記3の基本的な判断枠組みが最初に示されてからでも30年近くにわたる,制度と社会の状況の変化を考慮することが必要である。

参議院議員の選挙制度の変遷は前記2のとおりであって,これを衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると,両議院とも,政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,選挙の単位の区域に広狭の差はあるものの,いずれも,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ,その結果として同質的な選挙制度となってきているということができる。

このような選挙制度の変遷とともに,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきているということができる。

加えて,衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている。これらの事情に照らすと,参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。

参議院においては,この間の人口移動により,都道府県間の人口較差が著しく拡大したため,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で,昭和22年の制度発足時には2.62倍であった最大較差が,昭和58年大法廷判決の判断の対象とされた昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し,平成8年大法廷判決において違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態と判断された平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり,その後若干の定数の調整によって是正が図られたが,基本的な選挙制度の仕組みについて見直しがされることはなく,5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。

(2) さきに述べたような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。昭和58年大法廷判決は,参議院議員の選挙制度において都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みにつき,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものと解することができると指摘している。
都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという点は今日においても変わりはなく,この指摘もその限度においては相応の合理性を有していたといい得るが,これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものといわなければならない。また,同判決は,参議院についての憲法の定めからすれば,議員定数配分を衆議院より長期にわたって固定することも立法政策として許容されるとしていたが,この点も,ほぼ一貫して人口の都市部への集中が続いてきた状況の下で,数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている。

さらに,同判決は,参議院議員の選挙制度の仕組みの下では,選挙区間の較差の是正には一定の限度があるとしていたが,それも,短期的な改善の努力の限界を説明する根拠としては成り立ち得るとしても,数十年間の長期にわたり大きな較差が継続することが許容される根拠になるとはいい難い。

平成16年,同18年及び同21年の各大法廷判決において,前記3のとおり投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたのも,較差が5倍前後で推移する中で,前記(1)においてみたような長年にわたる制度と社会の状況の変化を反映したものにほかならない。

(3) 現行の選挙制度は,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが,人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。

このことは,前記2(4)の平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されていたところであり,前回の平成19年選挙についても,投票価値の大きな不平等がある状態であって,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは,平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところである。

それにもかかわらず,平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正は行われることなく,本件選挙に至ったものである。


これらの事情を総合考慮すると,本件選挙が平成18年改正による4増4減の措置後に実施された2回目の通常選挙であることを勘案しても,本件選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。

もっとも,当裁判所が平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは本件選挙の約9か月前のことであり,その判示の中でも言及されているように,選挙制度の仕組み自体の見直しについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど,事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないこと,参議院において,同判決の趣旨を踏まえ,参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど,選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたこと(なお,本件選挙後に国会に提出された前記2(6)の公職選挙法の一部を改正する法律案は,単に4選挙区で定数を4増4減するものにとどまるが,その附則には選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれている。)などを考慮すると,本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。


5 参議院議員の選挙制度については,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で,長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。

しかしながら,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば,より適切な民意の反映が可能となるよう,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。

6 以上の次第であるから,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。よって,裁判官田原睦夫,同須藤正彦,同大橋正春の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官櫻井龍子,同金築誠志,同千葉勝美の各補足意見,裁判官竹内行夫の意見がある。

# by medical-law | 2012-10-18 01:38 | 司法