弁護士谷直樹/医療専門の法律事務所のブログ

ラクイラ地震の有罪判決と科学者の責任

イタリア中部ラクイラの地方裁判所は,2012年10月22日,地震学者6人と政府委員1人に過失致死罪を適用し禁錮6年の刑を言い渡しました.
これは,地震予知に失敗したから,というわけではありません.地震が起きる前に,安全宣言を出したことが被疑事実なのです.

東京大学地震研究所助教の大木聖子氏は,現地に調査に行き収集した情報などに基づきブログWelcome to OKI's Website に次のとおり書いています.

「国家市民保護局の長官であるベルトラーゾ氏と州政府市民保護局長であるスターティ氏との電話やり取りです.証拠音声では,安全宣言を出すという結論ありきで大災害委員会を開催すること,巷で予知情報を出している”お騒がせ野郎”を黙らせて市民の不安を落ち着かせよう,といったやり取りがなされています.」

つまり,大災害委員会の科学者たちは,行政に利用され,はじめから安全宣言ありきの会議が開かれたのです.
もとろん,ラクイラが安全とは到底言えないはずで,ベルトラーゾ氏とスターティ氏の責任は大きいと思います.

ただ,科学者は,行政の責任者と同様には考えられません.
もちろん,科学者としては,長期における確率的な予測はできても,近い将来地震が起きない,安全である,などとは言えないはずです.各人の具体的な関与によって,非難も異なるでしょう.たしかにいわゆる御用学者の責任は問題になりうるでしょう.
しかし,それでも禁固6年というのはあまりにもバランスを失しています.

大木聖子氏は,次のとおり述べています.

「今のような委員会のあり方では,誰も委員をやらなくなります.会議の場での議論を十分に踏まえた記者会見がなされないこと,あるいは委員会開催前に行政担当者が軽率なコメントを平気ですることなどもすべて踏まえて委員の任務を全うするというのは,ばかげているにもほどがあります.特に,委員会メンバーでもなく,単に震源データを持ってきてくれと言われたから持って行っただけのINGVのSelvaggi博士が訴追されているのは恐ろしい状況です.たまたま呼ばれてその会議の席に座っていただけで禁錮6年になるという事実が世界の地震学者に与える衝撃は大きいでしょう.

こうして委員を引き受ける人が減っていくと,委員会の質が落ちます.あるいは,まじめに研究をして,国に提言をしているだけで,こんな刑事罰を受ける可能性のある分野だと知れば,優秀な人材は集まって来なくなるのではないでしょうか.こういった一連の出来事は,長い目で見れば,結果的に社会全体への悪影響になると思います.

それよりは地震学や医療,食の安全など,命にかかわる分野の研究者には,どういった情報発信があるべきなのかなどのトレーニングをする方がよほど建設的です.」


そのとおりと思います.

ところで,昨日2012年10月31日,厚生科学審議会予防接種部会の小委員会が開かれ,「ワクチンの危険性が高まったとはいえず,ただちに接種を中止する必要はない,との判断が示されました。
岐阜県の10歳男児が10月17日接種直後に急死した事例について,ワクチンとの関連性は低いとされました.
7月にも接種を受けた子どもが急性脳症を発症し約1週間後に死亡した事例について,ワクチンとの関連性を議論する材料が不足しているとのことです.
なお,新ワクチン導入後の急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の報告数は11例で131万回接種に1例の頻度とのことです.

科学者は,有効性と安全性について科学的に分かる範囲で情報提供を行うことはできます.
しかし,接種を中止する必要があるか否か,の判断は,科学者が行うべき判断ではないのではないか,と思います.
政策判断の隠れ蓑に科学と科学者が利用されることがあってはならない,と思います.

谷直樹

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# by medical-law | 2012-11-01 04:07