弁護士谷直樹/医療専門の法律事務所のブログ

平成23年(行ツ)第51号,第64号選挙無効請求事件 最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決大橋正春反対意見

◆ 裁判官大橋正春氏の反対意見

「裁判官大橋正春の反対意見は,次のとおりである。

私は,多数意見と異なり,本件定数配分規定は本件選挙当時憲法に違反するに至っていたものと考える。その理由は,次のとおりである。

1 多数意見3項が述べる判断枠組みは,いわゆる参議院議員選挙の定数訴訟において,昭和58年大法廷判決以降,当裁判所が採用してきたものであり,私も,判例の継続性の観点に鑑み,本件選挙当時の本件定数配分規定の憲法適合性の判断に当たって,この判断枠組みを維持することが適当であると考える。また,本件選挙当時,本件定数配分規定が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとする多数意見の見解にも賛成するものである。

しかし,本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないとする多数意見の結論には賛成することはできない。

2 当裁判所は,昭和58年大法廷判決以降,参議院議員通常選挙の都度,上記の判断枠組みに従い参議院議員定数配分規定の憲法適合性について判断してきたが,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対6.59について平成8年大法廷判決が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの,いずれの場合についても,結論において,各選挙当時,参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできないと判示してきたところである。

しかし,平成16年大法廷判決,平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決では,当該選挙を違法とする反対意見が付されただけでなく,当該定数配分規定は憲法に違反しないとする多数意見に賛成する裁判官の中からも,立法府の改正作業について厳しい批判が述べられている。その詳細は,多数意見2項(4)の記載のとおりである。

3 上記の各大法廷判決を受けて立法府が行った較差是正のための活動は,多数意見2項(4)から(6)までの記載のとおりである。

4 現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できず,また,このような見直しを行うについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要することを認めざるを得ないことは多数意見が指摘するとおりである。

しかし,いうまでもなく,それは,そのことを口実に,立法府が改革のための作業を怠ることを是認するものではない。仮に,早期の結論を得ることが困難であるというならば,その具体的な理由と作業の現状とを絶えず国民に対して明確に説明することが不可欠なのであり,この点に関し,私は,藤田宙靖裁判官の平成16年大法廷判決補足意見2,平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決各補足意見に賛同するものである。

このような見地に立って,本件で問題とされる議員定数配分規定の合憲性についてみるならば,問われるべきは,平成16年大法廷判決以後本件選挙までの間に,立法府が,定数配分をめぐる立法裁量に際し,諸々の考慮要素の中でも重きを与えられるべき投票価値の平等を十分に尊重した上で,それが損なわれる程度を,二院制の制度的枠内にあっても可能な限り小さくするよう,問題の根本的解決を目指した作業の中でのぎりぎりの判断をすべく真摯な努力をしたものと認められるか否かであるといわなければならないことも,藤田裁判官が,平成21年大法廷判決補足意見で平成19年選挙について述べられたとおりである。

平成16年大法廷判決後の最初の定数是正のための公職選挙法改正は平成18年6月に行われたが,その内容は,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案に基づくものであった。同改正と立法府の真摯な努力については,飽くまでもそれが「当面の」是正策として成立させられたものである限りにおいては(つまり,今後の更なる改善の余地が意識的に留保されており,また改善への意欲が充分に認められる限りにおいては),その段階において許される一つの立法的選択であると評価することもできないではなく,問題の根本的解決に向けて,立法府が真摯な努力を続けつつあることの一つの証であると見ることも,不可能ではなかった(平成21年大法廷判決藤田裁判官補足意見参照)。

しかし,その後の立法府の動向を見ると,平成18年改正の4増4減措置は,表向きは暫定的なものとされていたものの,その真意は,それを実質的に改革作業の終着駅とし,しかも,最大較差5倍を超えないための最小限の改革に止めるという意図によるものであったと評価せざるを得ない。
すなわち,平成18年改正以降現在まで較差是正のための公職選挙法改正は行われていないだけでなく,さきに述べた立法府による改正作業を見ると,立法府は,平成18年改正による4増4減措置の導入後現在に至るまで,およそ6年間に,更なる定数是正につき本格的な検討を行っているようには見受けられない。平成24年8月に国会に提出された改正法案も再び4増4減措置を定めるにすぎず,附則において抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれているものの,実際には抜本的改正を先送りし最大較差5倍を超えないための最小限の改革に止めるという意図によるものと評価せざるを得ない。そして,抜本的改革が何故なされないのか,更なる定数是正にはどのような理論的・実際的な問題が存在し,どのような困難があるために改革の前進が妨げられているのか等について,立法府は,国民の前に一向にこれを明らかにしていない。

よって,本件選挙については,憲法の違反があったと判断せざるを得ない。なお,上記に述べたところを前提にすれば,平成19年選挙についても,憲法の違反があったと評価することが相当であったと考える。

5 立法府が較差是正のための公職選挙法改正に当たって考慮すべき基準については,次のように考える。

憲法は,両議院の議員の任期と参議院議員の半数改選制を自ら定めるほかは,議員の定数,選挙人及び被選挙人の資格,選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項について,挙げて国会の立法に委ねているから(43条ないし47条),これらの事項をいかに定め,どのような形態の選挙制度を採用するかに関し,立法府が広範な裁量権を有していることは明らかであり,選挙制度を決定するに当たって,投票価値の平等が唯一,絶対の基準となるものではないことも当然である。

しかし,投票価値の平等は,全ての有権者が国政選挙に対して平等な権利を持ち,その意味において国民の意見が国政に公正に反映されることを保障する憲法上の要請であるから,立法府が選挙制度を決定するに際して考慮すべき単なる一要素にすぎないものではなく,衆議院のみならず参議院においても,選挙制度に対する最も基本的な要求として位置付けられるべきものである。

一般に,憲法の平等原則に違反するかどうかは,その不平等が合理的根拠,理由を有するものかどうかによって判定すべきであると考えられているが,投票価値の平等についても,基本的には同様の考え方が妥当すると考える。投票価値の較差については,その限度を2倍とする見解が有力であるが,2倍に達しない較差であっても,これを合理化できる理由が存在しないならば違憲となり得る反面,これを合理化できる十分な理由があれば,2倍を超える較差が合理的裁量の範囲内とされることもあり得ると考えられる(昭和22年2月公布の参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)による定数配分の最大較差は1対2.62であったが,憲法が昭和21年11月3日公布された直後の状況において,選挙権の意義及び投票価値の平等の重要性に対する認識がいまだ十分に浸透していなかった状況の下で,かつ短期間に制定されたのであり,スタートとしては,やむを得ないものであったという意味で合理的裁量の範囲内にあったと理解されるが,そのことから常に1対2.62以内の較差が憲法上許容されているということにはならない。)から,2倍は理論的,絶対的な基準とまではいえないように思われる。

しかし,2倍という数値は,常識的で分かりやすい基準であり,国会議員選挙における投票価値の平等といった,全国民に関係する,国政の基本に関わる事柄について,基準の分かりやすさは重要であるから,著しい不平等かどうかを判定する際の目安としては重視すべきであると考える(平成21年大法廷判決金築誠志裁判官補足意見参照)。

これに対して,二院制の下での参議院の独自性を根拠に,参議院では衆議院とは異なり,厳格な人口比例原理が適用されず,あるいは適用すべきでないと主張されることがある。

しかし,憲法が参議院について定めるのは,衆議院のほかに参議院を置くこと(42条),参議院議員の任期を6年とし,3年ごとに半数を改選すること(46条)及び参議院には解散がないことだけであり,二院制の下で参議院の独自性が求められるとしても,その基本となるのは,憲法の定めによって生じる参議院の比較的な安定性に由来するものに限られ,その他の独自性は立法政策により設定されるものにすぎず,したがって,選挙制度に対する最も基本的な要求である投票価値平等原則の制約を受けるものである。

昭和22年制定の参議院議員選挙法以来,地方選出議員(選挙区選出議員)については,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとしている。

都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位として捉え得ることから,都道府県を選挙区とすることには一定の合理性があるということができるが,しかし,なお投票価値平等原則の制約を受けることには変わりがない。

また,参議院議員選挙法における地方選出議員は,都道府県の住民の利益を代表する地域代表ではなく,国会が広く地方の実情を把握し,また,有用な多種,多様な人材を参議院議員として確保するには,各地方の選挙区から選出する途を設けるのが望ましいとの位置付けで設けられた制度であり,そのこと自体を参議院の独自性の重要な要素とするのは,制度の趣旨に反するものといわなければならない(平成21年大法廷判決田原睦夫裁判官反対意見参照)。

6 最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁は,昭和47年12月10日に行われた衆議院議員の千葉県第一区における選挙について,公職選挙法の選挙区及び議員定数の定めが当該選挙当時において全体として違憲とされるべきものであったとしながら,いわゆる事情判決の法理に従って,当該選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ,選挙自体はこれを無効としないものとした。

同判決は直接には衆議院議員を対象とするものではあるが,そこで採用された事情判決の法理は本件のような参議院議員選挙にも同様に適用されるべきものであり,このことは平成16年大法廷判決,平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決の反対意見が一様に事情判決の法理の適用を説示していることからもうかがわれるところである。

事情判決の法理の適用については,定形的に請求棄却の事情判決を繰り返すほかはないとの見解があるが正当ではなく,具体的事情のいかんによっては当該選挙を無効とする判決の可能性があることが前提となっていると理解すべきである。

こうした例としては,議員定数配分規定が憲法に違反するとされながらいわゆる事情判決の法理に従った処理をされた場合には,そこではその後当該規定につき立法府による是正がされることの期待の下に,この是正の可能性の存在と,当該規定改正の審議については当該違法とされた選挙に基づいて当選した議員も参加してこれを行うことが妥当であると考えられることなどが比較衡量上の重要な要素とされていたものと推察されるから,同判決後も相当期間かかる改正がされることなく漫然と放置されている等,立法府による自発的是正の可能性が乏しいとみられるような状況の下で更に新たに選挙が行われたような場合が想定される(最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁の中村治朗裁判官反対意見参照)。

ただし,上に述べたことは,ひとたび事情判決がなされた場合には,同一の定数配分規定による選挙については再度の事情判決が許されないということではない。

例えば,事情判決が出された後,短期間の後に選挙が行われ,定数規定改正のための検討がほとんど不可能であったような場合には,再度の事情判決を行うことが,事情判決の法理を認めた趣旨に合致するといえる。

ところで,将来において事情判決の法理が適用されずに定数配分規定の違憲を理由とする選挙無効判決が確定した場合には,その判決の対象となった選挙区の選挙が無効とされ,当該選挙区の選出議員がその地位を失うことになる以上,その欠員の補充のための選挙が必要となる。

その場合の選挙の具体的方法については,公職選挙法109条4号の再選挙によるのか又は特別の立法による補充選挙として実施するのか,憲法に適合するように改正された定数配分規定に基づいて行うのか又は改正される定数配分規定とは別に先行的な措置として行うのか等の検討が必要となるものの,少なくとも,特別の立法による補充選挙を先行的な措置として行うことについては憲法上の支障はなく,また,その他の方法についても立法上の工夫により憲法上支障なく実施することも可能であると考える。

本判決において,全裁判官が一致して違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとされた本件定数配分規定については,その速やかな是正を図ることが立法府として憲法の要請に応えるものであるが,更に,選挙制度の策定に広範な裁量権が認められた立法府として,選挙無効判決が確定するという万一の場合に生じ得る混乱を最小限に抑えるため,欠員の補充のための選挙についての立法措置についても検討を始めることが今後必要となるものと思われる。

7 以上により,私は,本件定数配分規定は,本件選挙当時,違憲であり,いわゆる事情判決の法理により,請求を棄却した上で,主文において本件選挙が違法である旨を宣言すべきであると考える。」



読み応えがあり,説得力のある内容と思います.
参議院だからといって,選挙区を都道府県単位にすることで,許容できない格差が生じている以上,根本的な改正が必要と思います.

◆ 日弁連会長声明

日本弁護士連合会(日弁連)は,2012年10月17日,「参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」を発表しました.


「本判決は、「参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い」とし、この都道府県ごとの選挙区割りについて、これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はないとして、「単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある」とした。

本判決が、2009年判決をさらに進めて立法的措置の必要性に言及し、当連合会がかねてより求めていた投票価値の平等の実現を国会に求めた点は評価することができる。

当連合会は、「公職選挙法改正に関する要綱案」(1984年3月提案)や、「衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」(2011年3月25日)などにおいて、投票価値の平等を実現するよう、国に対して一貫して求めてきたが、あらためて、本判決の趣旨を踏まえ、直ちに公職選挙法を改正するよう求めるものである。」


谷直樹

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# by medical-law | 2012-10-18 02:21 | 司法