弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

山梨県弁護士会「刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める会長声明」

山梨県弁護士会は、2025年6月12日、「刑事法廷内における入退廷時に被疑者又は被告人に手錠・腰縄を使用しないことを求める会長声明」を発表しました。

第1 声明の趣旨

 国及び裁判所に対し、刑事法廷内における入退廷時の被疑者又は被告人に漫然と一律に手錠・腰縄を使用する現状を見直し、必要やむを得ない場合以外は手錠・腰縄を使用しないための措置を早急に講じることを求める。

第2 声明の理由

 現在、勾留された被疑者・被告人(以下「被告人等」という。)は、審理中は手錠・腰縄を外された状態であるが、手錠・腰縄をされたままの状態で刑事法廷内に入廷させられ、審理終了後は手錠・腰縄を施されたうえでの退廷を余儀なくされている。
 刑事訴訟法第287条第1項は「公判廷においては、被告人の身体を拘束してはならない。」と規定しているところ、この「公判廷」の意義について、国は、「公判廷」とは、開廷後閉廷までと限定解釈すべきであるとし、入退廷時の手錠・腰縄使用は法律上根拠があると主張している。
 しかし、公判廷における被告人の身体不拘束原則が規定されているのは、被告人の身体が拘束されると、被告人の心理面に影響を及ぼし自由な防御活動の制約になり得ること、手続の公正を期することができないことにある。このことからすれば、開廷前・閉廷後であっても、物理的には法廷内であり、裁判官等の訴訟関係人及び傍聴人が所在し、審理に時間的・空間的に密着している以上、刑事訴訟法第287条第1項の趣旨は及ぼされるべきであり、審理中ではないからといって、同項が規定する身体不拘束原則が適用されないと解するのは不合理である。
 また、有罪判決を受けるまでは無罪として取り扱われる権利(無罪推定の権利)については、憲法第31条から解釈上導かれるところ、被告人等を手錠・腰縄姿のまま、これから有罪か無罪かの審理を受ける場である法廷に出廷させることは、公平・公正であるべき法廷において、被告人等をあたかも罪人であるかのように取り扱っているような外観を生じさせるため、無罪推定の権利を侵害する。
 国際人権法をみると、日本も批准している自由権規約第14条2項(無罪推定の原則)の解釈指針(自由権規約委員会の一般的意見32)は、「被告人は通常、審理の間に手錠をされたり檻に入れられたり、それ以外にも、危険な犯罪者であることを示唆するかたちで出廷させられたりしてはならない。」と指摘しており、国際準則である国連被拘禁者処遇最低基準規則(ネルソン・マンデラ・ルールズ)の厳格な拘束具の使用基準からみても、日本での刑事法廷内における被告人等に対する手錠・腰縄使用は、国際人権法に違反している。
 以上から、裁判官は、入退廷時の被告人等に対して、漫然と一律に手錠・腰縄を使用することを今すぐに止めるべきであるものの、現状のままでは、そのような措置を期待することはできない。
 そこで、被告人等に対する入退廷時の手錠・腰縄使用については、立法でもって入退廷時の被告人等に対しても身体不拘束原則が及ぶことを明記し、また、被告人等の入退廷時に手錠・腰縄を使用しないための施設整備や暴行・逃亡防止のための物的・人的整備が講じられる必要がある。
 したがって、声明の趣旨記載のとおり、国及び裁判所に対し、必要やむを得ない場合以外は手錠・腰縄を使用させないために、法的整備や施設整備等の措置を早急に講じることを求める次第である。


谷直樹

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# by medical-law | 2025-06-13 09:11 | 弁護士会