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分娩監視義務違反と児の後遺障害との間の因果関係 名古屋地裁平成21年6月24日判決

名古屋地裁平成21年6月24日判決(裁判長 永野圧彦)は,准看護師の分娩監視義務違反と児の後遺障害との間の因果関係を認めました.
なお、これは私が担当した事件ではありません.

同判決は「原告Aに生じた脳性麻痺の原因は,分娩中に見られた低酸素性虚血性脳症である」と認定しました.また,低酸素性虚血性脳症を発症したことにより,運動障害,知的障害が残ったと認定しました.

「(3) 低酸素性虚血性脳症と脳性麻痺の関係

ア証拠(乙B1,2)によれば,脳性麻痺は,必ずしも低酸素性虚血性脳症に付随する関係にないことが認められ,前記「脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準」(第2の4(1)【原告らの主張】イ(ア))を満たす場合に限り,低酸素性虚血性脳症が脳性麻痺の原因と判断できることに争いはない。そこで,同診断基準に従い,原告Aに生じた低酸素性虚血性脳症が脳性麻痺の原因であるかについて検討する。

(ア) 診断基準A
①②④を満たすことについて,争いはない。③について,前記認定のとおり,原告Aは痙直型とアテトーゼ型の混合型脳性麻痺であることからすると,③を満たすといえる。

(イ) 診断基準Bについて
①について,上記認定のとおり,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間において,午前7時45分ころ以降,70bpm台が持続するような遷延性徐脈が持続する程度の臍帯の圧迫が継続していたことからすると,①を満たすといえる。
②について,分娩監視装置を装着した午前4時30分ころから午前4時50分ころまでの間,胎児心拍数はreassuringパターンであったといえ,特段の異常は認められないこと,上記認定のとおり,変動一回性徐脈が継続した後に,午前7時40分ころの時点で遷延性徐脈に陥っていたことからすると,②も満たすといえる。
③について,診療録上,5分後のアプガースコアの計測記録は認められないが,1分後のアプガースコアが2点であり,前記認定の診療経過に照らせば,③も満たすといえる。
④について,複数の臓器機能障害の徴候は出生後72時間以内に確認されていないから,④は満たしていない。
⑤について,平成11年9月11日実施の脳エコー検査の結果,大脳白質のエコー輝度が全体的にやや高く,大脳皮質下の低酸素性脳症の可能性があるとの病的所見を指摘されたことからすると,⑤についても満たしているということは可能である。

イ証拠(乙B2)によれば,上記診断基準Aは,その全ての項目を満たすことが必要となるも,上記診断基準Bは,分娩中に脳性麻痺が発生したことを総合的にうかがわせる診断基準であって,その全ての項目を満たす必要はないといえる。そして,上記のとおり,上記診断基準Aについては全項目を満たし,上記診断基準Bについては,④を除く項目が満たしているか,満たしているということも可能であることからすれば,原告Aは,特段の事情のない限り,「脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準」を満たすというべきであり,特段の事情を認めるに足りる証拠はない。したがって,原告Aに生じた脳性麻痺の原因は,分娩中に見られた低酸素性虚血性脳症であると認められる。

(4) 低酸素性虚血性脳症と本件後遺障害との関係

ア運動障害について
上記認定のとおり,原告Aは,痙直型とアテトーゼ型の混合型の脳性麻痺による運動障害が認められ,また,同脳性麻痺は,分娩中に見られた低酸素性虚血性脳症が原因であることが認められる。したがって,原告Aは,低酸素性虚血性脳症を発症したことにより,運
動障害が残ったことが認められる。

イ知的障害について
知的障害は,脳性麻痺の合併症として発症する場合もあるが,脳性麻痺自体から直接的に生じるものではない。もっとも,知的障害の発症においては,先天的要因を除けば,脳に対する何らかのダメージを受けることが必要というべきである。そして,先天的要因を認めるに足りる証拠はなく,脳にダメージを与える要因としては,低酸素性虚血性脳症が考えられ,その他の要因については,これを認めるに足りる証拠はない。したがって,原告Aは,低酸素性虚血性脳症を発症したことにより,知的障害が残ったことが認められる。」


同判決は,「変動一過性徐脈の持続・反復が認められた時点が午前7時40分に近い時点であった場合には,何らの後遺障害も残らなかったと認めることはできないものの,実際に生じた本件後遺障害の発生を防ぐことができた高度の蓋然性は認められる」と認定しました.

「4 争点(3)(因果関係の有無)について

(1) 上記認定のとおり,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点における分娩監視義務違反が認められるところ,前記認定の診療経過及び医学的知見に基づき,同義務違反と本件後遺障害との間の因果関係について検討する。

(2) 証拠(甲B4,6)によれば,変動一過性徐脈の持続・反復が認められたとき,母体の体位変換,母体の酸素吸入,陣痛抑制,母体アシドーシスの補正等の処置を行った上,改善が認められない場合には,急速遂娩を行い,胎児の健康状態の維持を図ることが認められる。本件では,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点において,変動一過性徐脈の持続・反復が認められたとき,F准看護師により分娩監視義務が尽くされていれば,その時点で医師に対する上申がなされるとともに,上記各処置が取られることになり,より早く低酸素状態の改善またはそれに対する処置が図られることになるから,変動一過性徐脈の持続・反復が認められた時点が午前7時40分に近い時点であった場合には,何らの後遺障害も残らなかったと認めることはできないものの,実際に生じた本件後遺障害の発生を防ぐことができた高度の蓋然性は認められるというべきである。

(3)アこれに対し,被告は,原告Aに生じた脳障害の部位からすると,原告Aには,何の前兆もなく,突如として急激なprofound asphyxiaが生じたのであり,profound asphyxiaによる脳障害は30分以内に完成し,帝王切開の開始から娩出まで少なくとも30分間は必要となるから,本件後遺障害の発生を回避することは不可能であったと主張する。しかし,前記2(2)認定のとおり,本件では,何の前兆もなく,突如としてprofound asphyxiaが生じたとは認められないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものと言わざるを得ない。

イなお,被告が,profound asphyxiaによる脳障害は30分以内に完成すると主張する根拠は,サルを用いた動物実験の結果であるところ(乙B1),サルに対する実験結果が直ちに人間に該当するかどうか疑問が残ることは,前記2(2)判断のとおりである。

ウ したがって,被告の上記主張を直ちには採用しがたいというべきである。

(4) 小括
以上から,分娩監視義務違反と本件後遺障害の発生との間には,相当因果関係を認めることができる。もっとも,変動一過性徐脈の持続・反復が午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のどの時点で発生したのかを認定できる証拠はなく,准看護師らが長時間にわたり変動一過性除脈の発生に気付かなかった可能性は低いので,午前7時40分に近い時点で変動一過性除脈が発生した可能性も十分あるといえる。そうであったとすれば,母体の体位変換,母体の酸素吸入などの処置を行い,改善が認められない場合に急速遂娩を行ったとしても,その間に一定の時間を要するので,本件よりも短時間のprofound asphyxiaが持続したことになり,その結果,本件よりは軽度とはいえ,原告Aに一定の後遺障害が残った可能性は高いというべきである。この点は,損害額の算定において考慮すべきことである。」


そして,「分娩監視義務が尽くされたとしても,一定の後遺障害が残り,労働能力に影響した可能性があることを考慮して,平成12年の賃金センサスの産業計・企業規模計による女性労働者の平均年収349万8200円の75%の金額をもって,基礎収入とするのが相当である。」,「分娩監視義務が尽くされたとしても一定の後遺障害が残った可能性があること等本件に現れた全ての事情を考慮し,原告Aの後遺障害慰謝料として,2000万円を認めるのが相当である。」としました.

谷直樹

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# by medical-law | 2022-01-24 04:41 | 医療事故・医療裁判