裁判例から医師の説明義務を考える(3)
医師には,患者の自己決定,選択のために必要十分な説明を行う義務がある,とされています.選択肢が複数ある場合,患者の選択権を保障するために.複数の選択肢を説明する義務が医師に認められています.或る方法だけを説明して.それへの同意を求めるというのでは,十分な説明とは言えません.
■ 平成4年の医療法改正
このことは,平成4年の医療法改正で,明確になりました.
平成4年に加えられた医療法第1条の2の1は,次のとおりです.
「医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。」
■ エホバの証人輸血拒否事件の最高裁判決
エホバの証人の信者は宗教上の理由から輸血を拒んでいるのですが.医師が患者であるエホバの証人の信者に輸血を行う可能性があることを説明しないで輸血を行った事案で,最高裁判所判決は,次のとおり述べました.
「患者が,輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして,輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合,このような意思決定をする権利は,人格権の一内容として尊重されなければならない。そして,Aが,宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有しており,輸血を伴わない手術を受けることができると期待して医科研に入院したことをB医師らが知っていたなど本件の事実関係の下で,B医師らは,手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断した場合には,Aに対し,そのような事態に至ったときには輸血するとの方針を採っていることを説明して,医科研への入院を継続した上,B医師らの下で本件手術を受けるか否かをA自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当である。」「同人の人格権を侵害したものとして,同人がこれによって被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負うものというべきである。」(最高裁平成12年2月29日判決)
このように,人格権は意思決定をする権利(自己決定権)を含むことから,最高裁判所判決は,説明義務違反の根拠を人格権侵害と構成しました.
つまり,上記の場合に輸血を行う可能性があることを説明する義務が,人格権,自己決定権を根拠に認められています.
谷
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