弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

裁判例から医師の説明義務を考える(7)

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今回は,未成年者(子ども)への説明義務について,述べます。

患者の意思決定,選択のための説明は,患者本人に意思決定,選択の能力があるときは,患者本人に対し行います.そこで,未成年者に,意思決定,選択の能力があるかが問題になります.これは,年齢によって異なると考えられています.

■ 「児童の権利に関する条約」

「児童の権利に関する条約」(子どもの権利条約)は,子どもも大人と同様に自律的な主体として,12条で意見表明権等を保障しています.

「第12条
1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。」

具体的な意思決定,選択の能力は,その判断する事項とその発達の程度によって異なります.日本民法では,財産に関するものについては,親権者の同意のない未成年者の意思表示は原則として取り消すことができます.意思能力を欠く未成年者の意思表示は当然に無効です.日本民法は,遺言ができる年齢を15歳以上と定めています.

■ 医療行為の判断能力

では,医療行為については,どのように考えられているのでしょうか.

「医療行為の意義・内容・判断力は個々人により相違するため,機械的に決定すべきではなく,医療行為の性質にもよるが,15歳程度の通常人の判断能力が備わっているか否かを基準とすべきであろう。」という見解もあります.(浦川道太郎・金井康雄・安原幸彦・宮澤潤編集「医療訴訟」34頁,浦川道太郎執筆部分)
また,「疾病や診療行為の種類により要求される理解力・判断力の程度は異なる。例えば,輸血実施についての同意能力の目安を考えるならば,12~15歳程度の理解力・判断力といえる。」という見解もあります.(古川俊治「メディカルクオリティ・アシュアランス―判例にみる医療水準 第2版」43頁)

親が行くことなく,従業員の運転する車で子を医院に行かせ,急性胃炎と誤診され,結局糖尿病昏睡による呼吸困難で亡くなった16歳の若年性糖尿病患者の事案で,初診時に医療契約の締結を認めた裁判例があります(広島地裁尾道支部平成元年5月25日判決).この裁判例では,「高校一年生で社会生活経験が浅いため,病気の症状を的確,正確に告げる能力が十分であったとは考えられない」などの理由で,7割の過失相殺が認められ,損害賠償額が減額されています.

13歳で脳動静脈奇形(AVM)の全摘出手術を受け,術中出血のため術後重篤な左片麻痺の障害が残り,その12年後に死亡した事案で,医師の説明義務違反が認められています.
判決は,説明義務の相手方を患者と両親とし,患者・両親への説明が当時得られた最善の情報に基づいて手術を受けるかどうかを決定するには十分ではなかったとして,患者の自己決定が侵害されたと認定しています.
担当医は,手術を受けることにより症状が改善され,薬を飲まなくてよくなること,手術を受けなければ生命の保証はできず,手術によって障害が残る可能性はあるがリハビリテーションで治ることなどを説明しました.
医師は治療方法の選択をするために適切な情報を提供する診療契約上の義務を負っていて,このような説明内容では,その義務を尽くしたとは言えない,と裁判所は認定しました.(東京地裁平成8年6月21日判決,医療問題団弁護団横山哲夫弁護士の判例解説をご参照.).

■ 判断能力のある未成年の場合

判断能力のある未成年者の場合,親は未成年者自己決定を援助する役割を負っていますから,未成年者が了解すれば医師は親にも説明することになります.

■ 判断能力のない未成年の場合

判断能力のない未成年者の場合,医師は,親権者へ説明し,親権者が未成年者に代わって判断することになります.その場合,親権者は,未成年者の「最善の利益」を考慮し,未成年者がなすであろう判断,客観的に合理的な判断を選択することが求められます.

患者の親権者が丸山ワクチンに固執した事案で,親は,医師に,医療水準に沿った合理的な判断に反する療法を要求する権利まではない,とされています(東京地裁昭和63年10月31日判決).

平成20年に消化管内の大量出血で重体となった1歳男児への輸血を拒んだ両親について,家庭裁判所は,親権を一時的に停止する保全処分請求を認め,男児は救命された,と報じられています(日本海新聞2009年03月15日).

谷 

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by medical-law | 2010-10-24 17:16 | 説明義務