裁判例から医師の説明義務を考える(8)
今回は,どのような立場にある医師が説明義務,説明配慮義務を負うか,について,述べます。
■ 大動脈弁置換手術の説明
チーム医療の総責任者である医師は,必ずしも自ら説明する必要はありませんが,患者,家族に対し,手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮する義務がある,とされています(説明配慮義務)。
大学病院心臓外科の主治医は,患者に対し翌日に予定された大動脈弁置換手術の必要性,内容,危険性について説明しました。翌日,別の医師(教授)が術者となり,主治医らが助手をつとめ,大動脈弁置換術が行われました。患者はその手術の翌日に死亡しました。
この事案で,最高裁は,次の判断を示しました.
①チーム医療の総責任者である医師(執刀医でも同じ)が自ら説明する必要はないが,患者,家族に対し手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮する義務がある,
②主治医の説明が十分なものであれば総責任者も説明義務違反の責任を負わない,
③主治医の説明が不十分なものであったとしても、主治医が説明をするのに十分な知識,経験を有し,総責任者が必要に応じて主治医を指導、監督していた場合には,総責任者は説明義務違反の責任を負わない,
最高裁は,主治医の具体的な説明内容,知識,経験,主治医に対する総責任者の指導,監督の内容等について原審が審理,判断していなかったことから,破棄差し戻しとしました.(最高裁平成20年4月24日判決.医療問題弁護団鶴見俊男弁護士の本判決解説をご参照ください.)
■ 未破裂脳動脈瘤のコイル塞栓術の説明
未破裂脳動脈瘤に対しコイル塞栓術を実施した際,コイルが回収できずに残存したため,患者は血流障害により脳梗塞で死亡した事案があります.担当医である脳外科医と執刀医である放射線科医は,互いに相手の医師が説明したと思い,手術による死亡の危険性について説明していませんでした.
裁判所は,「両医師とも,自分以外の医師が詳しく説明しているといった,極めて曖昧な言い方をしており,具体的にどこまでの説明がなされたか疑問が残る.」とし,説明義務違反を認めました(東京地裁平成14年7月18日判決).
谷
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