弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

「ヘルパーからの医行為相談に訪看も悲鳴」

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写真は,新宿御苑です.

たんの吸引は,現行法上医行為です.そこで,ヘルパーがたんの吸引を行うのは,原則として保健師助産師看護師法第31条に違反します.
もっとも,介護現場における必要性から,在宅・特別養護老人ホーム・特別支援学校において介護職員等がたんの吸引等のうちのALS患者の在宅療養支援など一定の行為を実施することが一定の要件の下に例外的に運用によって認められてきました。

さらに,それ以外でもより広く,介護現場における必要性があり,対応が必要ではないか,として,「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方に関する検討会」で検討されてきました.
その検討結果が,「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方について 中間まとめ」として,2010年12月13日,発表されました. 

◆ 「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度の在り方について 中間まとめ」

平成24年度の実施を目指す,としている内容は,次のとおりです.

「1 介護職員等によるたんの吸引等の実施
○ たんの吸引等の実施のために必要な知識及び技能を身につけた介護職員等は、一定の条件の下に、たんの吸引等を行うことができることとする。
○ 介護職員等が実施できる行為の範囲については、これまで運用により許容されてきた範囲を基本として、以下の行為とする。
・ たんの吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)
* 口腔内・鼻腔内については、咽頭の手前までを限度とする。
・ 経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)
* 胃ろう・腸ろうの状態確認、経鼻経管栄養のチューブ挿入状態の確認は、看護職員が行う。
○ たんの吸引のみ、あるいは経管栄養のみといったように、実施可能な行為及び実施のための研修に複数の類型を設ける。
○ まずは、たんの吸引及び経管栄養を対象として制度化を行うが、将来的な拡大の可能性も視野に入れた仕組みとする。ただし、その際には、関係者を含めた議論を経て判断することが必要である。」

◆ 考え方

「安全性の確保については、医学や医療の観点からはもちろん、利用者の視点や社会的な観点からも納得できる仕組みによるものとする。」 とされていますが,医行為の安全性を確保するという観点をおろそかにすることはできません.
2010年10月から「試行事業」が実施されていますが,事故防止のために必要な仕組みをつくる必要があります.

医行為を介護職が行えるというのは現行の法制度上違和感が強いので,そもそもたんの吸引等を「医行為」から外そうという意見もありますが,「中間まとめ」では「安全性の確保という観点からは、医療的なコントロールの下に行われることが重要であるほか、医事法制上は、安全性を確保するための教育・研修を義務付ける必要がある行為を「医行為ではない行為」と整理することはできないのではないかとの意見があった。」と整理されています.

◆ 町田保健所の調査報告 

東京都主催の「第6回東京都福祉保健医療学会」(12月17日)で,町田保健所の加藤由紀さんは,管内の筋萎縮性側索硬化症(ALS)療養者22人の調査結果が発表しました.
この内容が,ケアマネジメントオンラインの12月21日の記事「ヘルパーからの医行為相談に訪看も悲鳴」で紹介されています.

年齢:30代から70代(平均63.7歳)、
療養期間;平均9.7年
発症から人工呼吸器装着までの期間;平均4.2年
主介護者;22人中20人が家族と同居し在宅で療養しているが、本人と主介護者との2人世帯が6割を占めており、主介護者は77%が配偶者

「22人中、要介護者が17人で,要介護4以上が12人。うち6人が訪問看護を利用しており、人工呼吸器を装着している人が半数近くいる。」
「ヘルパーが吸引を行っている療養者は6人(27%)いる.」

◆ 安全性を確保しつつケアが行われるために

町田保健所の加藤由紀さんが「『医療依存度の高い療養者の長期療養を支えるため、ヘルパーによる吸引や夜間のサービス提供が地域で実施されているが、事業所が複数あり、看護師などから研修を受けたヘルパーがいても交替してしまうなどサービスの質に均一性がない。安全性を確保しつつケアが行われるために必要な支援のあり方は、今後の地域での重要な課題』と述べて、ケアマネジャーと定期的な関わりを持つなど、福祉分野との連携を図る必要性も訴えた。」と紹介されています.


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by medical-law | 2010-12-25 11:41 | 医療