イレッサ,2学会の見解についての疑問

製薬会社アストラゼネカ,厚労省,国立がん研究センター,2学会(日本肺癌学会,日本臨床腫瘍学会)は,イレッサの裁判所所見を批判しています.これらは,ほぼ同じ論理です.とくに,2学会の論理を検討してみましょう.
◆ 承認前は重篤な間質性肺炎発生の可能性がわからなかったのか
「効果が期待できる遺伝子異常や重篤な間質性肺炎発生の可能性を承認前や承認後ごく早期に予見することはきわめて困難であったと思われます。」(日本肺癌学会)
遺伝子標的薬として売り出されたイレッサですが,承認前や承認後ごく早期にはどのような人に効果が期待できるかがわからなかった,という反論なのです.
重篤な間質性肺炎発生の可能性もわからなかった,という反論です.
なお,間質性肺炎がイレッサの使用による副作用であるとの科学的判断がなされたのは,2学会も認めています.
「審査の過程で十分議論し、その時点での情報に基づく批判的な評価を行い、間質性肺炎がイレッサの使用よる副作用であるとの科学的判断がなされたと考えられます。」(日本臨床腫瘍学会)
間質性肺炎発生の可能性はわかっていたが,重篤な間質性肺炎発生の可能性がわからなかった,という反論なのです.
裁判所は,個人輸入で使用した症例などから,わからなかったとはいえない,という所見を示しています.その症例を厚労省が把握していたのは事実ですから,正当に評価すれば,重篤な間質性肺炎発生の可能性はわかったはずです.その事実を無視した,或いは軽く評価したということが問題なのです,
この点については,2学会等から反論・批判はありません.2学会等は,抽象的に,医学の不確実性からわからなかった,というだけなのです.
◆ 承認時の添付文書の記載は適切か
「今回の勧告では、副作用の記載順序に言及されているようですが、記載順序にかかわらず医師や薬剤師は効果のみならず副作用について説明を患者さんに行い、了解を得て治療は開始されるのが医療の現場の状況であります。したがって本勧告は、本薬剤を使用した医師の専門家としての役割を軽んじるとも受け取れます。」(日本臨床腫瘍学会)
しかし,添付文書の記載を改訂した後は,イレッサの使用後の間質性肺炎による死亡が激減しています.添付文書の記載の仕方によって,危険性の受け止め方に違いがあり,死亡者を大幅に減らすことができるのです.
2学会は,一方で,重篤な間質性肺炎発生の可能性がわからなかったと反論し,他方で,添付文書には適切に副作用が記載されていた,と反論しているのですが,これは矛盾しています.
谷直樹
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