イレッサ,大阪地裁は企業の賠償責任だけを認めました

イレッサ訴訟で,大阪地方裁判所は,製薬会社に約6000万円の賠償を命じる判決を下しました.
意外なことに,薬を承認した国の責任を認めませんでした.
その論理は,おおよそ以下のとおりです.(判決要旨)
「1 イレッサの有効性
イレッサの有効性は,平成14年7月の輸入承認時及び現在のいずれにおいても,肯定することができる。
2 イレッサの輸入承認時における間質性肺炎等についての認識可能性
平成14年7月のイレッサの輸入承認当時,治験その他の臨床試験の結果等から,死に至る可能性がある間質性肺炎等を発症する危険性についての認識可能性があった。
3 イレッサの有用性
イレッサは,平成14年7月の輸入承認時及び現在のいずれにおいても,また,セカンドライン及びファーストラインのいずれにおいても,その有用性を肯定することができる。
4 被告会社の責任
被告会社は,少なくとも第1版添付文書の重大な副作用欄の最初に間質性肺炎を記載すべきであり,また,イレッサとの関連性が否定できない間質性肺炎が致死的な転帰をたどる可能性があったことについて警告欄に記載して注意換気起を図るべきであった。そのような注意換起が図られないまま販売されたイレッサは,抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていたといわざるを得ず,平成14年7月当時のイレッサには,製造物責任法上のいわゆる指示・警告上の欠陥があったと認められる。
5 被告国の責任
平成14年7月の輸入承認当時,イレッサの有用性を認めることができ,また,輸入承認前後の安全性確保についての被告国の対応が著しく合理性を欠くものとは認められないから,被告国には,イレッサの輸入を承認したことや承認前後に必要な安全性確保のための権限を行使しなかったことについて国家賠償法上の違法はない。
6 因果関係
死亡した3名のうち2名の患者及び1名の原告の間質性肺炎の発症等とイレッサの服用との相当因果関係は認められる。」
MSN産経ニュース「国の『不作為責任」』は認めず 大阪地裁『合理性認められる』」によると,以下のとおりです.
「判決は、ア社作成の初版の添付文書で、市販後に続発した『間質性肺炎』が2ページ目の4番目に記載されたことを重視し、冒頭・赤枠の警告欄に載せなかったことで『抗がん剤としての安全性を欠いていた』と指摘。イレッサが承認・市販された平成14年7月から、肺炎の記載を警告欄に引き上げた同年10月15日までの期間で製造物責任法上の『指示警告の欠陥』を認定し、原告のうち9人の請求を認めた。
一方で、国がそれ以前に行政指導しなかった点については「当時の医学的知見からは一応の合理性が認められる」と判断し、原告側が主張した『不作為責任』を退けた。」

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谷直樹