海外委託技工問題訴訟と争訟性の要件

◆ 海外委託技工問題訴訟
海外で,無資格者・無登録技工所で指示書も無いまま入れ歯や差し歯が作られ輸入される,という実態があり,厚労省はそれを容認し「国外で作成された補綴物等の取扱いについて」という通達を平成17年に出しました.
国民のために安全で良質な歯科技工物を確保するために,
原告は歯科技工士80名,被告は国の,
「1 原告らと被告との間で, 原告らに海外委託による歯科技工が禁止されることにより歯科技工士としての地位が保全されるべき権利があることを確認する。
2 被告は,原告らに対し,各自10万円及びこれに対する平成19年7月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
という訴訟が,平成19年6月22日,東京地裁に提訴されました.
東京地裁平成20年9月26日判決,東京高裁平成21年10月14日判決,最高裁平成23年2月15日決定は,歯科技工士の業務独占は,一般的公益としての公衆衛生の保持を目的とするものであり,個々の歯科技工士に対し具体的な法律上の利益として歯科技工業務を独占的に行う利益を保障したものではないとして,法律上の争訟及び確認の利益等が認められないと判断しました.
◆ 「法律上の争訟」
司法は,具体的な争訟について,法を適用し,宣言することにより,これを裁定する国家作用です.
「具体的な争訟」とは,「法律上の争訟」(裁判所法3条)のことで.「法令を適用することによつて解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争」とされています.
本件では,原告である歯科技工士80名と国との間で,具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であるかが問題となりました.海外委託によってその80名の歯科技工士の権利が損害されたかが問題になり,歯科技工業務を独占的に行う利益が否定され,争訟性をクリアすることができなかったということなのです.
海外委託業務問題は,司法の限界と判断されたのですから,行政あるいは立法により解決されるべきです.
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谷直樹