弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

免責を主張する東京電力は本当に存続させるべきなのか?

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◆ 免責を主張する東京電力

4月28日午前中に,日弁連が発表した「原子力損害賠償紛争審査会における一次指針の策定に関する会長声明」では,以下のとおり.東京電力の免責を認めないことを前提として,評価していました.

「当初、原子力損害の賠償に関する法律(「原賠法」)3条ただし書(異常に巨大な天災地変の場合の免責)の適用の可否が問題とされていたところ、東京電力からはその旨の主張はなされておらず、また、政府も東京電力に責任があるという前提で同審査会を設置しており、さらに同審査会においてもこれを前提に被害の一部の早急な賠償として一次指針が取りまとめられている。東京電力の免責を認めないこの対応は、迅速かつ公正な被害救済として、評価できるものである。」

ところが,原子力損害賠償紛争審査会における一次指針が策定された同日,東京電力は免責を主張しました.(清水正孝社長の発言はいつも趣旨がわかりにくいのですが,「そういう理解があり得ると考えている」という発言は免責主張の趣旨でしょう.)
さらに,4月29日,自民党吉野正芳衆議院議員が,東京電力免責を主張し,質問しました.東京電力が自民党議員に強い影響力をもっていることを見せつけた場面でした.

◆ 政府の対応

菅直人首相は「財源は国民の税金。国がすべての賠償責任を負うのは違うのではないか」と答弁しました。
枝野幸男官房長官も記者会見で「国会などでも大津波によって事故に至る危険性が指摘されていた。免責条項に当たる状態ではないと明確に言える」と否定しました,

答弁は当然でしょう,
ただ,問題はその先です.電力料金が値上げされ,あるいは国の援助により,結局国民にツケが回ることのないようにする必要があります.

東京電力の債権者(3大メガバンク,日本政策投資銀行等),株主などは存続を望むでしょうが,東京電力を,そのまま残しておいてよいのか,は検討すべきでしょう.
コンプライアンスの低い企業に,電力事業を独占させておくのは,よいことではないでしょう.

東京電力の免責主張により被害救済が遅れることを避けるため,東京電力の経営陣を今年の株主総会で全員交替するのが望ましいでしょうし,莫大な内部留保をはき出させるために,東京電力売却解体も検討されるべきでしょう.

◆ 原子力損害賠償紛争審査会への日弁連の要望

なお,4月28日の原子力損害賠償紛争審査会における一次指針では,先送りした問題も多いので,日弁連の下記要望を真摯に検討いただきたいと思います.

(1) 原子力損害賠償紛争審査会及び今後審査会内に設置される部会等には、被災地自治体の代表や被災住民の直接の法律相談を担当している弁護士や当連合会推薦の弁護士など、今回の原子力災害の複雑な実情を正確に把握している者を委員に含めること。
(2) 被害の実態について十分な調査を行うこと、被害者及び利害関係人等の意見を十分に聴取すること、また、被害の実情に関する情報公開が徹底されるようにすること。
(3) 放射性物質が広範囲に拡散したことによる放射能汚染については、土壌を除去するなどして原状回復する義務を第一次的義務とすべきこと。
(4) 地域社会のつながりを重視し、コミュニティの維持を図るために必要な費用についても賠償基準を設けること。
(5) 各種の事業損害の被害回復は、原則として売上げ額の減額金額を基準とすべきこと。
(6) 警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難区域からの部品・農産物等の仕入れ不能及び出荷停止措置並びにそれに関連する農水産物の仕入れ不能による営業損害も、対象区域内の業者の営業損害と同様の基準で補償対象とすること。
(7) 工業製品や、観光業における風評被害についても、現実に被害が発生している実情をふまえ、賠償基準を設けること。
(8) 警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難区域外の住民の自主避難による損害についても救済対象とすること。

谷直樹
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by medical-law | 2011-04-30 06:54 | 脱原発