山口地裁平成23年7月13日判決(医療器具が動脈に突き刺ささり出血,治療せず)
山口県宇部市の医療法人○○会が開設する病院で,平成14年5月,患者(男性,当時69歳)が狭心症の治療中に医療器具(心臓)カテーテルが動脈に突き刺さったのが原因で出血し,医師は画像で血腫に気付き,大量の出血を示す検査数値が出ていましたが,手術などの外科的処置を行わず,男性は7月に別の病院に転院し死亡しました.
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◆ 山口地裁平成23年7月13日判決
山口地裁は,平成23年7月13日,手術しなかったことと死亡の因果関係について高度の蓋然性があることまでは認めませんでしたが,「大量の出血を示す数値が出ていたのに、開腹手術などを検討せず、男性は治療を受ける機会を奪われた」と救命について相当程度の可能性を認定し,損害賠償金計990万円の支払いを命じました.
◆ 感想
本件は,
(a)狭心症の治療中に医療器具が動脈に突き刺さったというのは,手技ミスと思われます.医師には,医療器具を愛護的に操作し動脈に突き刺さないという注意義務があり,それに違反していると思われます.判決は,医療器具操作の過失を認めていませんが,医療器具(心臓カテーテル)で動脈を損傷し手術でも救命できないほどの大量の出血を引き起こさせるのであれば,愛護的でない操作があったと推認すべきです.
しかも
(b)医師は画像で血腫に気付いたのですから,手術などの外科的処置を行う注意義務がある筈です.もし自分がその処置をできないときは,他の医師を呼んで処置を実施すべきです.ですから,その注意義務にも違反しています.
開腹手術などを行えば救命できたかは,仮定の話ですので,厳密に医学的な証明は困難です.
しかし,
1)もし,開腹手術などを行えば救命できたとすれば,(b)の注意義務違反と死亡との間に因果関係があります.
2)もし.開腹手術などを行っても救命できないとすれば,その状況を作り出したのは,上記(a)の注意義務違反によるものですので,(a)の注意義務違反と死亡との間に因果関係があります.
(a)と(b)というダブルの注意義務違反がある以上,いずれにしても,注意義務違反と死亡との因果関係は肯定できるのではないか,と思います.
死亡との因果関係について高度の蓋然性を認めず,相当程度の可能性を認めただけ,というこの判決には,疑問を感じます.
谷直樹
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