弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

第12回薬害根絶デー,薬被連が文部科学大臣に対し要望書提出

 第12回薬害根絶デー,薬被連が文部科学大臣に対し要望書提出_b0206085_19303952.jpg全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)は,平成23年8月24日,厚生労働大臣だけではなく,文部科学大臣にも,次の内容の要望書を提出しました.

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公教育(小・中・高)に関して,さまざまな医療情報開示請求の権利があること,患者や被害者を救済する制度があることを公教育の中で伝える,「公害」と併記する形で「薬害」を記載すること等を要望しています.

専門教育に関して,薬害被害者の声を直接聞く授業の推進,医学・薬学教育等の問題を議論する文部科学省の審議会や検討会に薬害被害者らが委員として参加すること等を要望しています.
さらに,国立大学に勤務する医師らによりインターネット上で薬害被害者や医療被害者に対し事実と異なる偏見や誹謗中傷が頻繁に書き込まれることを防止するための具体的な対策,昨年度の5点の要望の結果と今後の対応について,明らかにするよう要望しています.

国立大学法人付属病院に関して,薬害被害者や医療被害者の声を直接聞く職員研修を行うこと,高額の手数料などカルテ開示の障害を取り除くこと等を要望しています.

要望書の内容をご紹介いたします.

<文部科学行政全般に関して>

【1】繰り返されている薬害被害の根絶には、適切かつ的確な文部科学行政が必要です。そのためには<別紙>の要請書の通り、文部科学大臣ご自身に薬害の実情を認識して頂くことが欠かせません。
2006 年より、薬害根絶デーに大臣ご自身に原則としてご出席いただき、私たち薬害被害者の声を直接聞くことで、薬害再発防止等に努めて頂きました。今年も大臣ご自身の出席をお願いいたします。

<公教育(小・中・高)に関して>

【1】平成21 年12 月公表の高等学校学習指導要領解説の公民編の「消費者に関する問題」の中で「薬害問題などを扱い、行政や企業の責任にも触れるようにする。」という記載がされましたが、医療消費者教育では、医療情報に対して、さまざまな情報開示請求の権利があることを伝えることが必要です。このことに関する教育の推進を学習指導要領の解説に明記して下さい。

【2】医薬品の副作用被害救済制度などのように患者や被害者を救済する制度があることを、中学や高等学校の保健体育の学習指導要領解説に記載するなどして、公教育の中で伝えて下さい。

【3】私たちは、中学校・高等学校の教科書に、被害者の視点に立った薬害の歴史や、消費者の視点に立った健全な医療消費者教育をすすめるための記述がされることが大切であると考え、学習指導要領の中で「公害」と併記する形で「薬害」を記載するよう要望を続けてきました。2006 年2月28 日の国会で、民主党の議員の粘り強い質問によって、当時の文部科学大臣がそのことに対して前向きな答弁を得ることができましたがいまだに実現していません。次回の改訂での実現を約束して下さい。

【4】これまでの交渉を受け、今春に「薬害って何だろう?」の教材が全国の中学3年生に配布されました。これがどのように教育現場で活用されているかを把握すると共に、この教材に対する生徒や教員の声を集め、教材の効果的な活用実践例などについても収集し現場にフィードバックして下さい。


<高等(専門)教育に関して>

【1】ここ数年間、毎年度まとめて頂いている「薬学問題に対する各大学の取り組み状況」について今年度も最新の状況を明らかにして下さい。薬害を知らない医療従事者がつくられてしまわないよう、すべての大学において、薬害被害者の声を直接聞く授業を実施して、適切な医療倫理・人権学習等がなされていくよう要望していますが、近年、実施率が伸び悩んでいます。実施した大学では、効果が高かったことが報告されていることから、この「取り組み状況」の把握を受けて、実施しない大学に対して至急対策を講じて下さい。特に、医学部、看護学部での実施率を高める方策を提示して下さい。
また、薬害は一つではないので、複数回にわたり、さまざまな被害者の声を聞く授業を実施することも推進し、被害の実情を知ることから、今後、被害を繰り返さないための高等教育を進めて下さい。

【2】厚労省やその外郭団体は薬害や医療被害者の体験や思いを生かすべく、医療に関わる審議会や検討会に被害者の委員を多く採用しています。医学・薬学教育等の問題を議論する文部科学省の審議会や検討会においても、薬害被害者らが委員として参加できるようにして下さい。特に、医学・歯学・看護学・薬学等のモデル・コア・カリキュラム改訂に関するそれぞれの委員会に、薬害や医療被害の再発防止を願い活動している薬害被害者が委員として参加できるようにして下さい。

【3】近年、医学生だけでなく、国立大学に勤務する医師らにも、インターネット上の掲示板やブログなどで、医師による薬害被害者や医療被害者に対する、事実と異なる偏見や誹謗中傷が頻繁に書き込まれることが繰り返されていることを強く危惧しています。文科省としても大変憂慮している旨の回答がなされましたが、このようなことを防止するための具体的な対策について明らかにして下さい。

【4】昨年度、モデル・コア・カリキュラムに関して改訂に関して、『(1)薬害や医療被害の歴史と事実経過、その背景や真相などを、再発防止と強く願う被害者の視点からしっかりと伝える。(2)事実ではない情報を発信したり、そのような情報に惑わされたりしないように、薬害等の事例における偏見や差別の歴史を伝える。(3)医療情報の公開、開示、共有の歴史的経過や意義を、被害防止の観点からしっかりと伝え、情報リテラシーを高める。(4)医学を根拠に仕事をする者としての学問的良心、人間を相手にする仕事をする者としての職業的良心を大切にする価値観を育てる。(5)患者、社会的弱者、薬害・薬の副作用・医療事故被害者らを救済する制度を伝え、救済の役割を担えるようにする。』の5点について要望しました。また、具体的に、「医療における安全性確保」の「医療上の事故等への対処と予防」の項目に、『○薬の副作用と薬害の違いを説明できる。また、それぞれの薬害について、その原因と被害の実態について正しく説明できる。○薬害の被害者が差別や偏見の対象となってきた歴史を説明できる。○インターネット上で医師による被害者への誹謗中傷、デマの流布、個人情報の暴露などの事件が起こった事実と背景を説明でき、適切な情報リテラシーを身につける。○カルテ開示、レセプト開示、診療明細書の発行などの医療情報の開示が、薬害や医療事故被害者らによる被害の再発防止を願う思いから進んできた事実とその意義を説明できる。○薬の副作用被害者や薬害被害者・医療事故被害者やその遺族に、事実を隠さず情報提供すること、被害者に救済制度の活用を促すこと、被害の報告をし再発防止に努めることのそれぞれの重要性を説明し実行できる。』の5点の記載を要望しました。その結果と今後の対応について明らかにして下さい。

<生涯学習に関して>

【1】2006 年の交渉を受け、(財)人権教育啓発推進センターが発行するパンフレットに「エイズと人権」「エイズと薬害」の項目を入れていただきました。その際に、今後は新たに消費者教育の観点から、ひろく薬と薬害や医療の問題をテーマにしたパンフレットの作成に前向きな形で考えたい旨の発言がありましたが、いまだに実現していません。このことの具体案を提示して下さい。

【2】生涯教育の中で薬害問題の教育等を推進することの重要性について周知させる旨のお話しがありました。消費者教育としての薬害の構造や、人権教育としての薬害被害者への差別・偏見の歴史について、公教育で始まった薬害に関する教育と連動する形の具体案を提示して下さい。

<国立大学法人付属病院に関して>

【1】毎年、国立大学法人付属病院で、薬害被害者や医療被害者の声を直接聞く職員研修を積極的に実施するよう要望し続け、実施を働きかける旨の前向きな回答を頂いてきましたが、実際はほとんど行われていません。このような職員研修が結果として広がるための具体策を示して下さい。

【2】全国の医療機関の模範となるべき国立大学法人付属病院において、カルテ開示請求ができる旨を病院がどのように知らせているかなど、医療情報の共有に向けた取り組みの仕方について調査して下さい。また、本人及び遺族からカルテ開示請求はどれくらいあったか、さらに、非開示事例があれば、その内「診療への支障」を理由にしたものについては、請求者がそのことについて納得しているか否かについても調査して下さい。

【3】近年、大学附属病院におけるカルテ開示の請求の際に法外な手数料を請求されたり、コピー代を実費よりもかなり高く請求されたりするなどの事例があり、医療情報の開示や共有を妨げる要因となっています。各大学附属病院におけるカルテ開示請求の際の手数料やコピー代の値段について調査し、その結果を明らかにして下さい。また、その結果、カルテ開示請求を妨げるような価格を設定している大学附属病院に対しては、良識的な価格設定にするよう改善指導をして下さい。

【4】薬害肝炎事件では、カルテやレセプトの保管期間が過ぎてしまった患者の多くが投与された血液製剤の製品名を知ることができませんでした。また、知らない間に点滴の中に入れられていた陣痛促進剤による事故が繰り返されてきた歴史もあります。これらの問題を防ぐために、薬害被害者らの声によって、2010 年4 月から、DPCの中身も含め医療費の中身を詳しく記した診療明細書の全患者への無料発行が原則として義務付けられました。全国の医療機関の模範となるべき大学附属病院で、原則として全患者に診療明細書を発行しているか否かを調査し、窓口で患者に対し「診療明細書が必要か否か」を聞いたり、発行願いの申請文書を出させるなど、診療明細書の発行にハードルを設けている病院があれば、改善指導をして下さい。」


谷直樹
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by medical-law | 2011-08-25 19:06 | 医療