旭川市の病院,医療過誤を認め示談(酸素を送るチューブを食道に入れた事案)

◆ 報道
北海道新聞「医療ミスで植物状態に ○○病院、5400万円賠償で合意」(平成23年9月5日)は,次のとおり報じました.
「○○病院で昨年2月、医師が手術直後の男性患者に対し、酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れる医療ミスがあり、患者が植物状態になっていることが4日分かった。損害賠償として約5400万円を患者側に支払うことで合意した。
市は6日開会の定例市議会に関連議案を提案する。同病院は「あってはならないミスで大変申し訳ない。医師の技術向上を図り、再発防止に努めたい」(事務局)と話している。」
◆ 感想
経管栄養チューブの気管支への誤挿入事故で罰金30万円(盛岡略式命令平成14年12月17日),罰金50万円(富良野略式命令平成16年4月2日)に処せられた例がありますが(飯田英男氏著『刑事医療過誤Ⅱ増補版』),この逆の例をはじめて知りました.逆の場合は,普通すぐに気がつくのではないかと思いますが,本件は酸素がいっていないことに気付くのが遅かったようです.
酸素を体内に送るチューブを誤って食道に入れたことは,注意義務違反にあたります.
その注意義務違反に因っていわゆる植物状態になったのですから,因果関係も認められます.
したがって,○○病院を開設している市には損害賠償義務があります.
このような医療過誤があったことは残念ですが,示談によって早期に解決できたことはよかったと思います.
呼吸音を聴取する,胸の膨らみ等をみるなどして正しく挿管されているか確認するまでの一連の行為が挿管です.医師には,挿管に際し,(食道ではなく)気管に正しくチューブを挿入するという注意義務があります。挿管が難しいからと言って,この注意義務がないということにはなりません.医師が呼吸音を聞く、胸の膨らみ等をみるなど通常の注意を払うことで誤挿管は避けられるはずです.いくら気管と食道の位置が近いといっても,医師はそのことを十分承知しているはずです.
医師がその注意義務に反し誤挿管した場合は,その医師に注意義務違反があると言えます.
いったん誤挿入をしたが,医師が呼吸音を聞く、胸の膨らみ等をみるなどしてただちに誤りに気づいて,気管に正しく挿入し,何らの問題が生じなかった,という場合は,医療過誤として責任を問われることはありません.この場合,結果(損害)が発生していないからです.誤挿入はあっても誤挿管はないといってもよいでしょう.
次に,医師Aが確認が不十分で誤挿管をし,医師Bが誤挿管にただちに気づかず時間をおいて気管に正しく挿入し直したが,結果(損害)が生じたという場合を考えてみましょう.
挿管しても,呼吸状態が改善しないという場合,複数の原因が考えられます.誤挿入の可能性も考えねばならないでしょうが,まさか誤挿入しているとはすぐに思えない場合もありますし,挿管やり直しにもある程度の時間がかかります.
誤挿入に気づくまでの時間,挿管やり直しにかかった時間がそれぞれ合理的なものであれば,医師Bに注意義務違反はありません.
この場合,医師Aの誤挿管が結果と因果関係のある注意義務違反となります.
これに対し,医師Bにも注意義務違反が認められる場合は,「医師Aの注意義務違反と結果との因果関係」,「医師Bの注意義務違反と結果との因果関係」がそれぞれ具体的事案に即して問題になります.
ただ,何れにしても,「挿管後に呼吸状態が改善しないときは誤挿入の可能性も含めて確認行為が行われ,誤挿入しても,確認行為後に正しく挿入され直されるから誤挿入自体は注意義務違反ではない」という主張があるとすれば,その主張は誤解を招きかねません.確認までの一連の行為が挿管ですから誤挿入だけをとりだすのは意味がありません.
また,診療契約は準委任契約で,結果を約するものではないから,誤挿入しない,という注意義務がない,という主張があるとすれば,これも謬論でしょう.チューブを挿入するとき注意して気管に入れるという義務があるはずです.気管内挿管で,注意してチューブを気管にいれる注意義務がないとは,私にはとうてい考えられません.
谷直樹
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by medical-law
| 2011-09-05 11:36
| 医療事故・医療裁判

