日弁連,患者の権利に関する法律の制定を求める決議
日弁連は,平成23年10月7日,「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」を行いました.
「本年3月11日に発生した東日本大震災は、多くの人の生命を奪い、多くの人を生命の危機にさらし、我々の社会と生活を大きく揺さぶった。この大災害により、我々は、医療が我々の生命、健康、社会を支える最も重要な基盤の一つであることを改めて強く認識した。安全で質の高い医療は、健康で文化的な生活を営み、幸せに生きるために必要不可欠である。
しかし、今日、医療は多くの重要な課題を抱え、患者の権利が十分に保障されていない状況にある。
第一に、医療従事者の不足が、時に安全な医療を受けることを困難にし、地域・時間帯や診療科目などの事情によっては、医療を受けることすらできない事態を招いている。また、昨今の厳しい経済情勢の中、貧困等の経済的理由によって医療を受けること自体ができない患者も増加している。こうした状況を克服し、誰もが安全で質の高い医療を受けられるようにしなければならない。
第二に、インフォームド・コンセント原則が十分に実践され患者の自己決定権が実質的に保障されなければならない。高齢者、障がいのある人、子ども、外国人などが必要な支援を得ることによって、医療を受けるに当たり自らが説明を受けて決定でき、あるいはその意思決定能力に応じて決定に参加できるようにしなければならない。他方で、自ら自己決定権を行使することができない患者について、同意ができないことを理由として、必要な医療を受けられない事態が生じないような制度整備も必要である。
第三に、患者は、可能な限り通常の社会生活に参加し、私生活を営むことを保障されなければならない。成長発達の過程にある子どもの患者、長期間にわたって治療を必要とする患者、あるいは強制入院を始めとする施設収容が行われがちな精神疾患の患者などが受けている様々な制約は、その必要性の有無と制約の程度に関しての合理性を十分に吟味して、可能な限り取り除かれなければならない。
第四に、刑事収容施設の被収容者が安全で質の高い医療を適時に受けられない状態が半ば放置されている深刻な事態は一刻も早く解消されなければならない。
こうした課題の解決には、患者を医療の客体ではなく主体とし、その権利を擁護する視点に立って医療政策が実施され、医療提供体制や医療保険制度などを構築し、整備することが必要であり、そのためには、その大前提として、基本理念となる患者の諸権利が明文法によって確認されなければならない。
さらに、患者の権利について考えるとき、我々は、医療の名の下に患者のあらゆる人権を奪い、その尊厳を踏みにじったハンセン病問題を忘れてはならない。ハンセン病患者は、絶対隔離政策の下で強制的に療養所に収容され、収容後は外出を許されず、十分な治療もないまま劣悪な環境下におかれ、断種、堕胎を強制されるなどの重大な人権侵害を受け、多くの入所者が今なお療養所からの退去もかなわぬまま、相次いで人生の終わりを迎えている。
このような未曽有の人権侵害を二度と起こさないためには、患者の権利を法によって保障しなければならない。今もなお、HIV感染者を始めとする感染症患者や精神疾患を有する患者らに対しても、差別偏見や医学的合理性を欠いた過度の制約が行われがちである。ハンセン病問題は、現在、将来にわたる教訓として、生かし続けなければならない。
「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会報告書」(2009年4月)は、「患者の権利に関する体系」を取りまとめ、患者の権利擁護の観点を中心とした医療関係諸法規の整備と医療の基本法の法制化を求めた。
今年は、国のハンセン病絶対隔離政策を違憲とする判決が下されてから、ちょうど10年になる。
当連合会も、長年にわたり、患者の権利の重要性を訴え、その法制化を求めてきた。患者の権利を明文法によって確認する機は既に熟している。
よって、当連合会は、すべての人に対する以下の権利の保障を中核とした「患者の権利に関する法律」を速やかに制定することを求める。
1 常に人間の尊厳を侵されないこと。
2 安全で質の高い医療を平等に受ける権利を有すること。
3 疾病又は障がいを理由として差別されないこと。
4 インフォームド・コンセント原則が十分に実践され,患者の自己決定権が実質的に保障されること。
5 可能な限り,通常の社会生活に参加し,通常の私生活を営む権利を有すること。
6 国及び地方公共団体は,上記の患者の権利を保障するための施策を実施する責務を負うこと。
以上のとおり決議する。」
谷直樹
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