薬害対策弁護士連絡会,薬害イレッサ訴訟東京高裁判決についての声明

薬害対策弁護士連絡会(代表鈴木利廣)は,2011年11月16日,「薬害イレッサ訴訟東京高裁判決についての声明」を発表しました.
内容は以下のとおりです.
2011年11月15日,薬害イレッサ訴訟について,東京高等裁判所は、3月23日の東京地方裁判所の判決を取り消し、国とアストラゼネカの責任を否定する不当判決を言い渡した。
同判決では,イレッサ承認前の副作用報告の評価について,行政上,「因果関係がある可能性ないし疑いがある副作用」も「副作用」として捉えているとしても,民事損害賠償訴訟においてはこのような概念はないとして,「因果関係がある」か否かという評価をした上で,必ずしも「因果関係がある」と言い得ない副作用報告については,その程度のものとして評価した上で,製薬企業や国の安全対策の当否を判断するものとしている。
そして,イレッサについては,承認前に報告されていた間質性肺炎による死亡報告について,その全てが「因果関係がある」とは言い得ないとして,そのことも根拠の一つとして,国とアストラゼネカの責任を否定している。
しかしながら,こうした判断手法は,我が国におけるこれまでの薬害事件の教訓であり,医薬品安全対策の大原則である予防原則を根底から否定する判断と言わざるを得ない。
医薬品安全対策においては,医薬品の危険性に対する十全な対策が要求されるのであり,「因果関係がある可能性ないし疑いがある」副作用に対してこそ十全な安全対策が求められており,これが繰り返された薬害の教訓としての予防原則である。
この意味で,同判決は,我が国で繰り返されてきた薬害事件から導き出された教訓を根底から否定するものに他ならない。
のみならず,同判決は,薬害訴訟における国,製薬企業の医薬品安全確保義務を全く見誤るものである。
国,製薬企業は,薬事法上,上記の予防原則に則った安全対策が求められており,これは民事損害賠償訴訟上も国,製薬企業に課せられた医薬品安全確保義務となっている。
これまでの薬害訴訟では,いずれもこうした前提で国,製薬企業の責任が判断されている。
しかしながら,東京高裁判決の判断では,薬事法に基づく国,製薬企業の義務が民事損害賠償訴訟上の義務となることはないと判断していることとなるのであり,これまでこのような判断をした判決はない。
次に,東京高裁判決は,イレッサの第1版添付文書でも,抗がん剤の専門医または抗がん剤治療の経験を有する医師であれば,イレッサの副作用である間質性肺炎が致死的となることも認識し得たとして,これも国,アストラゼネカの責任を否定する根拠としている。
しかし,そうであれば,イレッサ承認直後に生じた多くの副作用死を説明することはできず,また,2002年10月15日に緊急安全性情報を発出する必要性もなかったことになる。
イレッサ承認時点において,イレッサは分子標的治療薬として副作用が少ない特徴を有するという情報が広く行き渡っていたのであって,経口薬であることとも相まって,危険な副作用に対して無警戒に広く安易に使用される危険性があった。
医薬品安全対策は,こうした具体的な医療現場の認識を前提とした安全対策が求められており,それはソリブジン事件の重要な教訓であった。しかしながら,東京高裁判決の論理では,こうした具体的な医療現場の認識を捨象し,抽象的,理想的な医師像を前提に安全対策の当否を判断しているに過ぎず,これでは実際に薬害を防止できないのである。
のみならず,この判断はイレッサによる被害は医師が第1版添付文書の記載で危険性を感得し得なかったために生じたものであるとしているに等しく,被害の責任を現場医師に押しつけている点でも極めて不当である。
こうした東京高裁判決の論理によれば,もはや薬害を防止することはできず,我が国で幾多繰り返された薬害事件の教訓を無に帰す判決であり,前代未聞の重大な誤りを犯していると言わざるを得ない。
当薬害弁連は,これまでの薬害事件によって培われた教訓を踏みにじる東京高裁判決に断固抗議するものである。
谷直樹
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