大学病院,血液浄化装置取り違え患者死亡事故の再発防止として臨床工学技士の増員
NHK「透析死亡事故 原因は“技士不足”」(2011年1月7日)は,次のとおり報じています.
「京都大学附属病院で、去年、人工透析を受けていた50代の男性が死亡した医療事故は、専門の技士が行っている透析の装置の部品交換を技士がいない夜間に医師と看護師だけで行ったことが原因とみられることが分かり、関係者は全国の医療現場における技士不足が背景にあると指摘しています。
去年11月、京都大学附属病院で、透析装置の血液中の老廃物を取り除く部品と誤って、血液の成分を取り除く部品が取り付けられ、人工透析を受けていた50代の男性患者が死亡しました。2つの部品は、よく似ていて、ふだんは専門知識を持った「臨床工学技士」が部品の交換をしていましたが、技士がいなかった夜間に医療事故が起きたということです。京大病院は、医師と看護師だけで高度な医療機器を操作したことが事故の原因だった疑いが強く、技士の数が十分でないことが背景にあるとして、臨床工学技士が24時間の対応ができるようことし4月から人員を増やし、正規の職員としても採用する方針を固めました。京大病院の一山智副院長は「医師が医療機器を扱うことに不慣れな場合もある。安全を確保するうえで、臨床工学技士の役割は極めて重要と考え、人数を増やす努力はしてきたが、すべての時間帯をカバーできていなかった」と話しています。
臨床工学技士は透析装置や呼吸器など生命を維持するための医療機器についての専門知識を持つ技士で、医療機器の操作や管理に高度な専門知識が必要になるなか、昭和62年に国家資格となりました。厚生労働省によりますと、臨床工学技士は全国で2万7000人余りで、病院への配置も法律で義務づけられていません。京都府臨床工学技士会の仲田昌司会長は「医療機器はどんどん高度化しているが、臨床工学技士は足りていない。技士が常にいるという状況にないため、医療機器のトラブルへの対処が遅れたり、適切にできなかったりするケースがある。医師や看護師が機能や特徴を熟知していない医療機器を扱うのは危険で、国は病院の役割や規模に応じて臨床工学技士の配置を義務づけるなど、改善を図ることが必要だ」と指摘しています。」
臨床工学技士法第2条1項は,「この法律で「生命維持管理装置」とは、人の呼吸、循環又は代謝の機能の一部を代替し、又は補助することが目的とされている装置をいう。」とし,第2項は,「 この法律で「臨床工学技士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、臨床工学技士の名称を用いて、医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作(生命維持管理装置の先端部の身体への接続又は身体からの除去であつて政令で定めるものを含む。以下同じ。)及び保守点検を行うことを業とする者をいう。」としています.
さらに,同法第38条で「臨床工学技士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生労働省令で定める生命維持管理装置の操作を行つてはならない。」とされています.
臨床工学技士は,このように,医師の指示を受けて生命維持管理装置の操作及び保守点検を行うのですが,医師が,高度の医療機器について臨床工学技士以上に熟知して取り扱えるわけではありません.
本件事故については,色も形も違うのにどうして間違えたのか,また疑問に思ったのにどうして確認しなかったのか,など個別の問題もありますが,根本的な再発防止策として,臨床工学技士が必ず対応する体制に変更することは,実態に即した合理的なものと思います.
【追記】
日本経済新聞「安全より効率優先」 京大医療事故で報告書 」(2012年9月26日)は,次のとおり報じました.
「京都大病院で昨年11月、脳死肝移植を受けた50代の男性患者が医療器具の装着ミスで死亡した事故で、京大の調査委員会は26日までに報告書をまとめた。事故の背景には「安全より診療科の縦割り体制と診療の効率性が優先される未成熟な組織文化があった」として、病院の体質を批判した。
委員会は外部の専門家らを交えて構成。医師の教育不足や物品管理体制の不備、過去の医療事故の教訓が生かされていない点のほか、医師と看護師の確認不足も原因と指摘した。
病院によると、男性は昨年11月5日に移植手術を受けた。12日夜に透析器具を交換した際、医師が間違って、血液ろ過器ではなく、血漿(けっしょう)分離器を装着。交換ミスに気付かないまま、男性は約15時間後に死亡した。器具は医師の依頼を受けた看護師が用意した。
報告書によると、当時、形が似ている血液ろ過器と血漿分離器が棚に並び、内容が一見して分かるラベルもなかった。
看護師は棚にはろ過器しかないと認識、装着した当直の医師2人は、器具の扱いの知識や経験が不足し、3人の間で確認作業も一切なかった。
夜間や休日は、臨床工学技士ではなく医師が器具を扱うが、事故があった肝胆膵(すい)・移植外科の医師31人中、確実に扱えたのは7人だけだった。
京大病院では2000年、精製水とエタノールを取り違え患者が死亡する事故が発生。報告書は「当時の原因分析や再発防止策が不十分で、病院の体質が変わらず、今回の事故に影響した可能性を否めない」とした。
京大は、手術自体に問題がなかったとして、移植を続けたが、報告書は「一時的に移植を中止し、体制の問題を解決してから再開すべきだった」と指摘した。〔共同〕」
谷直樹
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