大学病院の医師が患者の勤務先の総合病院にHIV検査結果を漏示し,患者(看護師)が退職させられた事案,提訴

msn産経「HIV感染、無断で勤務先に通知 看護師が病院提訴」(2012年1月13日)は,次のとおり報じています.
「訴状によると、看護師は福岡県内の総合病院に勤務していた昨年6月、目に異常を感じて複数の病院を受診。8月に同県内の大学病院でのHIV検査で陽性反応が出て、医師から「患者への感染リスクは小さく、上司に報告する必要もない」と言われた。ところが、原告側が両病院に情報開示を求めた資料によると、大学病院の別の医師が看護師に無断で、勤務先の病院の医師にメールで検査結果を知らせていた。
看護師はその後、上司から「患者に感染させるリスクがあるので休んでほしい」と告げられ、休職後、11月末に退職した。」
◆ 提訴
この看護師は,2012年1月11日,両病院を経営する2法人を被告に慰謝料など計約1100万円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁久留米支部に起こしました.
西日本新聞によれば「看護師の代理人の小林洋二弁護士は「診療内容は特に保護を要する個人情報なので、守秘義務違反に当たる。HIVを理由に休職を求めることは合理的な理由がなく違法だ」と主張。」しています.
◆ 感想
大学病院の医師の守秘義務違反は明らかです.
医師が業務上取り扱ったことで知った情報を漏示したのであれば,刑法第百三十四条「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」の秘密漏示罪にあたりますので,刑事責任も問題になります.
勤務先の総合病院の上司が,看護師に求職を求めたのは,「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」に反し,違法です.医療従事者であっても,HIV感染を理由に不利益に扱うことは許されません.
なお,原告代理人弁護士は,「小説医療裁判 ある野球少年の熱中症事件」(法学書院)の著者の小林洋二先生です.
石川順子先生と私が編集した「患者のための医療法律相談」(法学書院)にも執筆いただいております.
【追記】
毎日新聞「HIV:看護師と検査病院和解 勤務先に感染通告」(2013年4月19日)は,次のとおり報じました.
「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の検査をした大学病院が、陽性結果を無断で勤務先の病院に伝え退職を余儀なくされたとして、看護師が両病院を経営する2法人に慰謝料など計1100万円の損害賠償を求めた訴訟で、看護師とHIV検査をした大学病院との和解が19日、福岡県内の地裁支部で成立した。実質、原告勝訴の内容。看護師と勤務先の病院との訴訟は継続している。
原告側代理人によると、和解で大学病院側は「検査結果を紹介元(勤務先の病院)に提供するにあたり、原告の意思確認が不十分だったことを認め、真摯(しんし)に謝罪する」としたうえで、「診療情報を紹介元に提供する際は、患者本人の意思確認を徹底することを約束する」との再発防止策も盛り込んだ。大学病院は和解金100万円を原告側に支払う。
訴状によると、看護師は総合病院に勤めていた11年8月、勤務先の紹介で受診した大学病院でHIV感染が判明。大学病院の担当医師からは「患者へ感染させるリスクは小さく、上司に報告する必要もない」と言われ出勤した。だが、勤務先の病院には大学病院から検査結果が伝わっており、勤務先の幹部から「感染のリスクがあるので休んでほしい」などと言われ休職。同年11月退職した。
原告側代理人は「大学病院が再発防止についても言及したことを評価したい」と話している。
一方、看護師が勤務していた病院側は「退職を強要したわけではない。患者への感染リスクはある」などとして、請求棄却を求めている。【金秀蓮】」
谷直樹
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