東京地裁平成24年1月26日判決,総合病院国保旭中央病院で気管切開への切り替えが遅れた事案で請求認容

◆ 事案
顔のまひの治療で平成16年11月に総合病院に入院していた患者(女性,当時76歳)が,平成16年12月首への麻酔注射を受けたところ血管が傷つき,血腫により気道が圧迫されて呼吸困難になりました.
担当医らは気道確保のため,鼻や口から管を挿入しようとしましたが失敗し,気管切開に切り替えましたが,患者は低酸素脳症により意識不明の状態が続き,現在も同病院に入院しています.
◆ 判決
東京地方裁判所(民事30部)は,平成24年1月26日「気道を確保するために,もう少し早くのどの切開手術を行うべきだった」「気管切開への切り替えが7,8分早ければ、後遺症を残さずに回復した」と指摘し,同病院の開設者である市に5800万円余りの賠償を命じました.
◆ 感想
民事の損害賠償責任が認められるためには,①注意義務違反,②相当因果関係(注意義務違反と損害との相当因果関係),③損害を立証することが必要です.
注意義務違反がいくつあっても,損害と相当因果関係のある注意義務違反だけが問題になります.
そこで,まず結果発生に近い時点の注意義務違反から検討し,それが否定された場合は順次遡って他の注意義務違反を検討することになります.
本件の場合,気管切開への切り替えが7,8分早ければ,後遺症を残さずに回復したということですから,まず,気管切開への切り替えの遅れについて,注意義務違反の有無を検討することになります.
気管切開への切り替えの遅れについては注意義務違反を肯定した判例,否定した判例があり,それぞれ事案により判断が異なります.
本件の具体的な事実が報じられていませんが,本裁判所は,もう少し早くのどの切開手術を行うべきだったと注意義務違反を認定しています.
首への麻酔注射で血管を傷つけ,血腫による気道圧迫で呼吸困難を生じ,気道挿管に失敗し,気管切開への切り替えが遅れた事案では,どこかに相当因果関係のある注意義務違反があると思われるので,普通は,裁判前に解決ができるように思います.
市が本件で賠償責任を認めず裁判とし判決を求めたのは,かなり強気という印象を受けました.
谷直樹
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