弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

福岡拘置所の医師法違反問題

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福岡拘置所が収容者に対し医師の診察のないまま薬を与えていたそうです。

医師法第20条は,次のとおり,定めています.

「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

このように,医師が診察をしないで,治療等を行うことは禁止されています.
なお,家族が患者本人に代わって受診し,投薬指示を受け,処方箋をもらうことは,実際に行われていますが,これは医師法違反ではありません.

本件で看護師を家族と同様に考えることはできませんし,看護師は医師の診療を補助する立場にありますから,「看護師から相談を受けた医師が、直接診察することなく薬を処方していた」というのが事実であれば,医師法20条に違反します.

医師法第33条の2は,
「次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金に処する。
1.第6条第3項、第18条、第20条から第22条まで又は第24条の規定に違反した者
(以下略)」
と定めていますので,
無診察で薬を処方した医師は,50万円以下の罰金となります.

刑法第65条1項は,「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」と定めています.

医師という身分のない者も,医師という身分のある者を介して犯罪結果に影響を与えた者は共犯として罰することを規定したものです.
したがって,拘置所の職員,看護師などは,医師法第20条違反の行為の共犯者として犯罪が成立します.

医師法違反という認識がなかったとしても,法の不知は抗弁とはなりません.
刑法第38条3項は,「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。」と定めています.

起訴するか否かは検察の判断となりますが,実定法上は上記のとおり犯罪が成立すると考えられます.

谷直樹
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by medical-law | 2012-02-05 02:24 | 医療