障害者自立支援法社説,京都新聞,東京新聞・中日新聞,神奈川新聞vs毎日新聞


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「今回示された厚生労働省案は、障害者自立支援法の名称を見直すことを検討するものの、その廃止を明確にしておらず、かつ、保護の客体から権利の主体への転換を図り地域での自立した生活を営む権利を保障するという重要な規定を設けないなど、骨格提言の主要な改革点についても法制度上の手当を予定しない対応としており、骨格提言に基づく新たな法制度を規定する法案が準備されているのか、重大な疑義を生じさせるものとなっている。また、もし、法案が厚生労働省案のような内容であれば、国が基本合意文書及び訴訟上の和解において確約した内容とは相容れないものであり、誠に遺憾といわざるを得ない。
当連合会は、国が、上記「基本合意文書」に基づき、障害者自立支援法を確実に廃止し、骨格提言を尊重した総合的な福祉法案を上程するよう、強く求めるものである。」
その翌日,京都新聞の社説が掲載されました.
◆ 京都新聞社説
京都新聞「障害者自立支援 見当たらぬ政治の反省」(2012年2月9日掲載)は,次のとおり述べています.
「障害者自立支援法に代わる新たな障害者福祉制度について、厚生労働省が改革案を民主党側に示した。政権交代の時、民主党が掲げた「自立支援法の廃止」は見送られ、これでは法律の看板取り替えになりかねない。
障害者自立支援法は、2006年に施行された。身体、知的、精神の障害ごとに分かれていたサービスを一元化したものの、受けたサービス量に応じて原則1割を負担する「応益負担」になったため、障害の重い人ほど負担が増える制度設計だった。
半数以上の人で授産施設から得る賃金が実質負担額を下回り、9割近い人の負担額が増えたことから、憲法25条が保障する生存権に反するとして、全国14地裁で違憲訴訟が起こされた。自立支援法が障害者の「自己責任」の色合いが濃いことも批判の対象になった。
当時の長妻昭厚労相は自立支援法の廃止と新制度策定を言明し、「拙速な制度の実施で障害者の尊厳を深く傷付けた」と原告代表に謝罪した。これを受け、すべての訴訟で10年4月までに和解が成立し、法の「廃止と新法の制定」が合意文書に盛り込まれた。政府は同年6月、障害者総合福祉法(仮称)の提出を閣議決定し、今の国会での成立をめざしている。
厚労省が示した改革案は、自立支援法の改正案とされ、法の廃止ではない。法を廃止した場合、約6万あるサービス事業者を指定し直す必要が生じ、自治体や事業者の負担が増すうえ、新法の制定に野党の協力が得られないためという。厚労省は「事実上の法廃止」というが、法の不当性を訴えて国と和解した元原告の理解は到底得られないだろう。
改正案では、現行では障害者手帳のない人は対象外だった難病患者も給付対象とされる。パーキンソン病など130の疾患を介護サービスの対象とする方向だ。谷間のない制度と支援の実現であり、この点には異論はない。
ただ、政府が検討した自己負担の原則無料化は見送り、6段階ある障害程度区分は施行後5年後をめどに見直すとし、支給区分の見直しは先送りされた。程度区分がしゃくし定規に行われ、個人の意向が反映されない欠陥の是正は急ぐ必要がある。
厚労省は、雇用施策の対象となる障害者だけで、全国で約350万人いると見ている。この点で、障害者福祉の在り方は政府が進める社会保障と税の一体改革の大きな論点でもある。改革案は時間切れを防ぐ取りつくろいに過ぎない。
「完全参加と平等」「障害の有無にかかわらず、人格を認め合う共生社会の実現」を言葉だけに終わらせず、法案決定に政治の責任と決断を見せてもらいたい。」
◆ 毎日新聞社説
毎日新聞社説「新障害者制度 凍土の中に芽を見よう」(2012年2月12日掲載)は,次のとおり述べています.
「障害者自立支援法に代わる新法の概要がまとまった。名称や法の理念を改め、難病患者も福祉サービスの支給対象に加えることなどが盛り込まれた。だが、障害者からは現行法の一部修正に過ぎないとの批判が起きている。満開の春を期待していたのに裏切られたという思いはわかる。その矛先はどこに向けられるべきなのか。批判するだけでいいのか。障害者福祉の行方を大局観に立って考えてはどうだろう。
「自立支援法廃止」は民主党のマニフェストの目玉の一つだった。政権交代後は自立支援法違憲訴訟の原告団と和解し、内閣府に障がい者制度改革推進会議を設置、障害者を中心にした55人による部会で議論してきた。個々の福祉サービスから支給決定の仕組みまで抜本改正する提言がまとまった。これを受けて厚生労働省が示したのが新法の概要だ。
障害者中心の制度作りは、06年に障害者差別をなくす条例が制定された千葉県でも試みられた。この時は堂本暁子知事(当時)による政治主導が最後までぶれず、条例原案の作成から議会の説得まであらゆる場面で県庁職員と民間委員が協働し、日本初の障害者差別禁止条例を誕生させた。障害者同士の現実的な議論が外部の人々へも理解の輪を広げた。
民主党政権はどうか。政治主導どころか、政権交代後、担当大臣が7人代わった。厚労省では「(官僚は)会議室の予約とコピー取りだけしていればいいと言われた」との声が聞かれる。官僚を排除して壮大な内容の提言をまとめても、それを法案にするのは官僚なのである。
政権交代後、ムダの削減だけでは必要な財源が得られないことがはっきりし、民主党は税と社会保障の一体改革にかじを切った。子育て支援や雇用政策も意欲的に取り組むようになった。障害者施策は自立支援法で財源が義務的経費になったことで毎年10%前後も予算が伸び続け、この10年で予算規模は2倍になった。
制度も改善が重ねられ、自立支援法はずいぶん様変わりした。4月から施行される改正自立支援法でさらにサービスは拡充するだろう。そうした流れから隔絶した所で部会の議論は行われてきたのではないか。関心を持って見守っていた民主党幹部がどこにいたのだろう。
それでも、部会の議論から法案化への過程では、推進会議の中心メンバーは難しい説得や交渉を重ね、民主党の若手議員も批判を浴びながら取りまとめに奔走した。厚労省は今春から適用される障害福祉サービスの報酬単価を決める議論の過程を公開した。これまで密室で決められていたものをである。まだ小さいが、凍土の中に芽が見えないだろうか。」
これは,大変違和感を覚える論説です.
◆ 東京新聞社説,中日新聞社説
東京新聞社説と中日新聞社説は,同じです.
「障害者の新法 現場の声を忘れるな」(2012年2月16日掲載)は次のとおり述べています.
「民主党政権は公約の「障害者自立支援法の廃止」を反故(ほご)にするのか。障害者が十分な支援を得られない欠陥を残したまま厚生労働省は法律を温存する構えだ。なぜ変節したのか、説明責任を果たせ。
二〇〇六年に施行された自立支援法は身体、知的、精神の障害ごとにばらばらだった福祉サービスを一元化し、効率化を図った。だが、出足から評判が悪かった。
サービス利用料の原則一割を支払うルールを取り入れたため、収入の低い人や障害の重い人ほど負担が急増した。授産施設では工賃が負担を下回るという逆転現象さえ生じ、サービスの利用を我慢する人が相次いだ。
人権侵害だとして全国各地で違憲訴訟が一斉に起きた。この国の障害福祉行政は一体どこを向いて仕事をしているのだろうか。
民主党政権もそんな自立支援法を問題視したからこそ原告団と和解し、法の廃止と新法の制定を約束したのではなかったのか。そして現場を熟知する障害者や家族らの知恵を借りようと、新法の枠組みづくりを委ねたはずだ。
その現場の声は昨年八月に骨格提言として集約された。閣議決定通り今国会に向けて法案化されると信じたのに、新法案と称して厚労省が示したのは現行法の仕組みを維持した案にすぎなかった。
提言内容はことごとくないがしろにされた。とりわけ問題なのは障害程度区分と呼ばれるシステムが残ることだろう。障害が軽いか重いかで障害者を六つのランクに分ける物差しだ。
心身の機能や能力についてコンピューターを使ったり、専門家が話し合ったりして調べる。そして本人のいないところでそのランク、つまりサービス内容を一方的に決めてしまうのである。
全国一律の客観的な物差しを使い、自治体によってサービスにばらつきが出ないようにするのが建前だ。裏を返せば、障害者がどんな暮らしを望み、どんな支援を求めたいのかという肝心要のニーズには応えないシステムだ。
食事や排泄(はいせつ)、移動、コミュニケーションといった身の回りの支援は、障害者にとって命綱である。障害者が健常者と同じように社会生活を送るための必要最小限の手段だ。売り買いを目的とした商品ではない。
いくら「障害者と健常者の共生社会の実現」と理念を掲げ、法律の名前を変えても、中身がそのままなら世界の六割が加盟する障害者権利条約の批准も危うい。」
◆ 神奈川新聞社説
「障害者総合福祉法 提言の無視は許されぬ」 (2012年2月16日)
「現行の障害者自立支援法を廃止し、2013年8月までに施行する目標の「障害者総合福祉法」(仮称)について、内閣府の諮問機関「障がい者制度改革推進会議」の総合福祉部会に厚生労働省案が示された。
法案の方向性を示す概要だが、昨夏に同部会がまとめた骨格提言をほとんど無視した内容ともいえよう。部会の委員や障害者団体は強く反発しており、徹底した再検討が必要だ。
厚労省案は、わずか4ページの簡略な中身だ。例えばサービス支給について、骨格提言は障害程度区分に代わる新たな支給決定の仕組みを求めた。これに対し、同省案は「法の施行後5年を目途に、障害程度区分の在り方について検討を行い、必要な措置を講じることとする規定を設ける」とした。現行の障害程度区分を維持したまま、部分修正のみ検討するという姿勢だ。
新法制定ではなく、障害者自立支援法の一部改正にとどめようとする同省の姿勢が表れている。
佐藤久夫部会長の整理では、骨格提言の内容60項目のうち、同省案で全く触れられていない事項が48項目にも上った。検討されているが、その内容が不明確なのは9項目。不十分ながら骨格提言を取り入れている事項は3項目にすぎなかった。
委員からは「骨格提言を無視した内容であり、到底認めることはできない」「(国と障害者自立支援法訴訟原告との間で結ばれた)基本合意に反する。国は詐欺を働くのか」などの激しい反発の声が上がったという。
骨格提言は、障害者、関係団体の代表らが一堂に会し、18回もの会合を重ねた末に一定の共通見解に達した歴史的な文書だ。
障害者の地位を保護の客体から権利の主体へと転換し、障害者権利条約の精神を実現させるものだ。提言に基づく新法は、障害者福祉を大きく前進させるものとして期待されていた。
厳しい財政状況下で、具体的なサービス支給には柔軟な対応もやむを得ないだろう。しかし、骨格提言が示した障害者の権利の在り方、制度の骨組みの具体化を法案で目指さなければ、部会を設置した意味がなくなる。
障害者らは裏切られた思いだろう。深刻な不信感、政治・行政との亀裂は、今後に禍根を残す。政府与党は骨格提言に基づく制度づくり、工程表作成に真剣に取り組むべきだ。」
◆ 感想
毎日新聞社説だけが,基本合意,骨格提案を無視した変節を容認する内容となっていますが,甚だ疑問です.厚労省案からは新たな芽を見ることはできないでしょう.
谷直樹
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