弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

鹿沼署,インスリン投与不足で留置中の糖尿病患者死亡,その責任は?

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◆ 事案

下野新聞の報道からすると,事案は,以下のとおりです.

被疑者は,2011年12月26日夜,現行犯逮捕され,鹿沼署に勾留されました.

警察医は,同月27日,診察し,1日1回のインスリン注射を指示しました.

被疑者は,警察官に,「処方されたインスリンでは足りない」「自分の車の中にあるインスリンを使いたい」と述べました.
その警察官は,警察医に詳しい病状を伝えず,被疑者の主治医への確認も怠りました.

被疑者は,体調を崩し,異常に水をほしがりました.
警察官は,被疑者が体調を崩していることに気づきながらも,対応しませんでした.

被疑者は,同月30日朝,心肺停止状態で発見され,同日午後に搬送先の病院で死亡が確認されました.

◆ コメント

上記報道の件は私が担当したものではありません.
これは,インスリン投与不足による死亡ですから,警察医の処方ミスにはちがいありません.
しかし,警察官が警察医に詳しい病状を伝えていれば,被疑者の主治医への確認を怠らなければ,死亡結果は回避できたでしょうから,警察医より,むしろこの警察官の行為(義務違反)が問題でしょう.

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◆ 報道

下野新聞「留置男性死亡で告訴へ 栃木県警、署員ら聴取」(2012年3月7日)
 
「栃木県警鹿沼署で昨年末、建造物侵入容疑で逮捕され勾留中に糖尿病で死亡した中国人男性=当時(30)=の遺族が「適切な措置が取られなかったのが死因」として業務上過失致死容疑で署員や警察医らを宇都宮地検に告訴する方針を決めたことが6日、遺族関係者への取材で分かった。

 県警は刑事部を中心に検証チームを設置。主治医に病状や薬の処方状況を聞いておらず、対応に問題があった可能性があるとみて関与した署員らから聴取するなどして捜査を進めている。県警によると、男性と兄(34)は昨年12月26日、鹿沼市内の空き店舗に侵入、建造物侵入容疑で現行犯逮捕され鹿沼署に留置された。」


下野新聞「警察医処方ミス認める 鹿沼署の留置男性死亡」(2012年3月8日)

「鹿沼署が2011年末、建造物侵入容疑で逮捕したさいたま市岩槻区、中国人男性=当時(30)=が糖尿病で急死した問題で、逮捕後に男性を診察した警察医(64)が7日、下野新聞社の取材に「糖尿病の型などに関する情報がなく、結果的に必要な治療薬の投与量よりも少なく男性に処方してしまった」などとミスを認めた。また警察医は「男性の容体の変化は死亡後に県警から聞いた」などとも説明しており、容疑者の留置管理をめぐる同署の対応が問われている。

 警察医は逮捕翌日の11年12月27日に男性を診察。男性から糖尿病と聞き、翌日に血液検査したが型までは判明しなかった。警察医は「生活習慣が関係することが多い型の糖尿病」と判断し、長時間持続する1日1回の注射を指示したという。

 ところが男性は、一般に1日複数回のインスリン注射が必要な血糖値の上下動が激しいタイプの糖尿病を患っており、同30日に容体が悪化し搬送先の病院で死亡した。男性は勾留中、異常に水をほしがるなど体調を崩したという。

 警察医は「情報があれば違う処方をしたが、責任は自分にもある」などとして、1月上旬に警察医を辞職している。約20年警察医を務めてきたベテランだという。

 県警によると、逮捕勾留の際には身体検査のほか持病や服薬の有無を聞き取り、主治医にも確認するのが一般的とされる。しかし今回は「理由や経緯は調査中だが、男性の主治医に確認はしていない」(留置管理課)という。

 一方、遺族側は早ければ3月中にも業務上過失致死容疑などで刑事告訴するほか、県などに対し損害賠償請求する方針も明らかにした。刑事告訴の対象は「留置に関わった署員や警察医など複数となる見込み」としている。」


下野新聞「異変認識も未対応 鹿沼署留置男性死亡」(2012年3月9日)
 
「鹿沼署が2011年末、建造物侵入容疑で逮捕したさいたま市岩槻区、中国人男性=当時(30)=が糖尿病で急死した問題で、逮捕翌日に男性が警察医の診察を受けた後、担当の署員らが男性が体調を崩している兆候に気づきながらも、死亡当日まで警察医の再診や病院搬送などの対応をとらなかったことが8日、捜査関係者への取材で分かった。男性は重篤な糖尿病患者で、早期に対応していれば死亡を防げた可能性があったとみられる。

 県警によると、男性は11年12月26日夜、鹿沼市内の空き店舗に侵入した疑いで現行犯逮捕され同署に勾留された。同30日朝、心肺停止状態で見つかり、同日午後に搬送先の病院で死亡が確認された。

 捜査関係者によると、男性は逮捕翌日に警察医の診察を受けた後、署員に「処方されたインスリンでは足りない」などと病状を説明し、「自分の車の中にあるインスリンを使いたい」などとも申し出ていたという。

 しかし対応した署員は警察医に詳しい病状を伝えず、男性の主治医にも病状を確認しなかったという。」


【追記】

時事通信「勾留中病死で警官ら書類送検=連絡怠った疑い-栃木県警」(2013年7月26日)は,次のとおり報じました.


 「栃木県警鹿沼署の留置場で2011年、勾留中の中国人男性=当時(30)=が糖尿病で死亡した問題で、県警は26日、必要な措置を取らなかったとして、同署の元留置管理課長の警部(57)と元管理係長の警部補(57)、元警察医(65)の3人を業務上過失致死容疑で書類送検した。県警は警部と警部補を減給などの懲戒処分とし、元署長ら7人を本部長訓戒などとした。
 送検容疑では、警部らは11年12月26~30日、男性が体調不良を訴えたのに、主治医に照会するなど必要な措置を取らず、元警察医は十分検査せずに薬の量を変化させ、男性を死なせた疑い。
 県警監察課によると、男性は同26日に建造物侵入容疑で現行犯逮捕された。元警察医は27日に男性を診察したが、逮捕前に服用していた薬とは別の種類の薬を処方。男性は28日ごろから腹痛などを訴えたが、警部らは主治医への照会や元警察医への連絡をしなかった。男性は30日に留置場内で意識を失い、搬送先の病院で死亡した。」


【追記】

産経新聞「警察勾留中の中国人死亡 栃木県、3800万円支払いで遺族と和解」(2014年10月21日)は,次のとおり報じました.

「栃木県警鹿沼署で平成23年12月、勾留されていた中国籍の劉忠勝さん=当時(30)=が死亡したのは適切な医療を受けられなかったためとして、遺族が県に約1億円の損害賠償を求めた訴訟が21日、宇都宮地裁(岩坪朗彦裁判長)で和解した。県は遺族に和解金3800万円を支払う。

 遺族代理人の米山健也弁護士は「金額的には納得いかないが、県警に責任がある和解だと認識している。今後、留置管理体制の見直しを考えてほしい」と話した。県警の小林充首席監察官は「今後とも留置施設の厳正な運用に努めたい」とコメントした。

 訴状によると、劉さんは23年12月26日、建造物侵入の現行犯で逮捕され鹿沼署の留置場に勾留された。持病の糖尿病のため、主治医に2種類の薬を処方されていたが、同署留置管理課員らが主治医への確認を怠り、警察医の診断に基づいて薬を1種類しか処方せず、4日後に死亡させたとしている。」


谷直樹
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by medical-law | 2012-03-11 07:36 | 医療事故・医療裁判