弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大学病院,急性薬物中毒死に至った患者を検査せず帰宅させたとして提訴される

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msn産経 「処置怠り薬物中毒死と提訴 両親、産業医科大病院を」(2012年4月2日)は,次のとおり報じています.

「北九州市小倉北区の高校2年の女子生徒=当時(18)=が薬物中毒で死亡したのは、搬送先の産業医科大学病院(同市八幡西区)が処置を怠ったためだとして、生徒の両親が2日までに、大学などに計約1億円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁小倉支部に起こした。

 大学側は「医療ミスはなかった」としている。

 訴状によると、生徒はうつ病などを患っており、2009年4月19日夜、両親に薬を大量に服用したと告げ、意識もうろうとなった。両親は車で生徒を大学病院に運んだが、神経・精神科の医師は、眠っている生徒を車外から見ただけで検査せず、生徒を帰宅させた。翌日も容体が回復しないため、両親が数回、診察を希望したが、医師は電話で「必要ない」などと回答した。生徒は21日朝に死亡。死因は急性薬物中毒とされた。」


診療契約の相手方(本件では産業医科大学)に対する損害賠償請求権については10年の消滅時効に,契約の相手方以外の者(例えば医師個人)に対する損害賠償請求権については3年の消滅時効に,それぞれかかります.
本件は,3年の消滅時効を意識して提訴したのでしょう.

産業医科大学病院は,「週刊ダイヤモンド」の「頼れる病院」ランキングで,2009年から2011年まで連続で,福岡県第1位に選ばれています.
このようなことは普通はないはずなのですが...
ともあれ,裁判所の判断に注目したいと思います.

【追記】

読売新聞「産業医科大病院、治療怠り女子高生死亡」(2013年4月11日)は,次のとおり報じました.
 
「2009年4月、睡眠導入剤などを大量に服用して運ばれた女子高生(当時18歳)を治療せずに帰宅させて死亡させたとして、福岡県警は、産業医科大病院(北九州市八幡西区)の神経精神科に勤務していた男性医師(30歳代)を業務上過失致死容疑で近く福岡地検小倉支部に書類送検する方針を固めた。

 捜査関係者などによると、女子高生は03年頃から、うつ病を患って通院しており、医師は主治医だった。09年4月19日夜、女子高生は北九州市小倉北区の自宅で処方されていた睡眠導入剤などを大量に服用して意識がもうろうとなり、両親が車で搬送した。

 同日午後11時半頃、当直勤務だった医師は病院の駐車場で車の外から、車中で寝ている女子高生を見て、「そのまま連れて帰って大丈夫」などと話し、両親が治療を求めたにもかかわらず、これに応じなかった。」


【再追記】

毎日新聞「業務上過失致死:容疑で医師書類送検 具体的措置説明せず」(2013年5月10日)は,次のとおり報じました.

「処方された睡眠鎮静剤を過量に服用した高校2年の少女(当時18歳)に対し、具体的な措置を説明せずに死亡させたとして、福岡県警は10日、業務上過失致死容疑で産業医科大病院(北九州市八幡西区)の神経精神科に勤務していた男性医師(37)を福岡地検小倉支部に書類送検した。

 送検容疑は、2009年4月19日深夜、少女が処方された薬を過量に服用し、家族が車で同院に運んだが、入院治療の必要はないと判断してそのまま帰宅させたとしている。翌20日午前10時半過ぎになっても少女が目覚めないことに不安を感じた家族が電話したが、医師は「そのうち目が覚めるから異常があれば知らせてください」などと告げ、具体的な措置を説明せず過失があったとしている。少女は翌21日早朝に薬物中毒による呼吸不全で死亡した。県警によると、医師は県警の聴取に対し「家族からどれだけ飲んだか詳細な量が告げられず、予見できなかった」と話しているという。【川上珠実】」


家族からどれだけ飲んだか詳細な量が告げられなかったとしても,それだけで予見可能性がなかったということにはならないでしょう.

【再々々追記】

産経新聞「病院の賠償責任認めず 高校生が薬物中毒死 福岡地裁小倉支部」(2015年9月24日)は,次のとおり報じました.

「北九州市で平成21年、高校2年の女子生徒=当時(18)=が急性薬物中毒で死亡したのは医師が処置を怠ったためとして、両親が産業医科大病院(同市八幡西区)と主治医に計約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁小倉支部は24日、請求を棄却した。

 原告側は「生徒の部屋から空になった薬の包装が約60錠分見つかり、主治医に大量服用した可能性を伝えた」と主張したが、野々垣隆樹裁判長は判決で「大量服用を示す記載が診療録や日誌にない。主治医が得ていた情報だけでは、服用の可能性を予測して処置することはできなかった」と指摘した。

 判決によると、21年4月19日夜、生徒の様子に異常を感じた両親が、薬を3、4錠多く服用したようだと主治医に電話で伝えた。女子生徒は病院に搬送されたが、医師は処置の必要はないとして、自宅へ連れて帰るよう指示した。生徒は21日に急性薬物中毒で死亡した。」


言った,言わないの立証は,難しいですが,「生徒の部屋から空になった薬の包装が約60錠分見つかり、主治医に大量服用した可能性を伝えた」という事実は認定されなかったのでしょう.
判決は,「薬を3、4錠多く服用したようだと主治医に電話で伝えた」という事実を認定し,それ以上に大量服薬の可能性を示唆する情報を伝えられたとは認定していないようです.


谷直樹
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by medical-law | 2012-04-02 20:19 | 医療事故・医療裁判