弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

山形地裁米沢支部で,カルテの保存期間を誤解し廃棄したと答弁した医療法人

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読売新聞「保存必要なカルテ廃棄 医療法人「勘違い」(2012年4月18日)は,次のとおり報じています.

「南陽市の70歳代の女性患者が、「自分の病気のカルテ(診療録)を見ることができない」として、同市で診療所を経営する医療法人を相手取って、カルテの開示と慰謝料など50万円の損害賠償を求めた民事訴訟の第1回口頭弁論が17日、山形地裁米沢支部(上原卓也裁判官)であり、被告側は争う姿勢を見せた。訴訟の中で、医療法人側が、本来は保存が必要なカルテを廃棄していたことが判明した。

 医師法は、患者の初診から診療が完了するまでのカルテについて医療機関が完了時から5年間保存するように定めているが、被告は直近5年間のカルテしか残していなかったという。このため、県置賜保健所から昨年2月に改善を求める行政指導を受けた。

 行政指導について、被告は答弁書で、「カルテの保存期間は、さかのぼって5年間であると勘違いしていた」と説明。同保健所などによると、この医療法人の管理者は昨年3月、「今後はカルテを5年以上保存する」という改善報告書を提出したという。

 訴状によると、原告は1995年10月が初診で、2009年1月まで被告の診療所で高血圧症の治療を受けたが、95年以降のカルテの開示請求に対し、05年以降の分しか開示されなかったという。このため、「医療記録を知る権利を侵害された」などと訴えている。

 一方、被告は「04年以前のものは廃棄処分した。存在する全てのカルテは開示しており、理不尽な開示拒否 一方、被告は「ではない」などと主張。被告側代理人の弁護士は取材に対し、「主張は答弁書の通り」とコメントした。」


上記記事は診療の完結から5年の根拠として医師法をあげていますが,療担規則第9条をあげるのが適切と思います.

保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和三十二年四月三十日厚生省令第十五号)第九条は「保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあつては、その完結の日から五年間とする。」と定めています.

保険医療機関である被告がカルテの保存期間についての保険医療機関及び保険医療養担当規則第九条を誤解し,同規則に違反して,カルテを破棄したために,原告が医療記録を知る権利を侵害されたのですから,要件はすべて充たしており,被告は損害賠償責任を負うはずです.
04年以前のものは廃棄処分したという主張は,カルテ開示請求に対する抗弁になります(カ04年以前のカルテの開示は不可能ですから,開示義務はありません)が,損害賠償請求に対する抗弁にはなりません.

谷直樹
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by medical-law | 2012-04-19 04:21 | 医療事故・医療裁判