弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京地裁平成24年5月9日判決(タオル残置事案)報道を読んで

時事通信「体内にタオル25年=医療ミスで賠償命令-東京地裁」(2012年5月9日)は,次のとおり報じています.

「手術時のミスで25年間にわたり体内にタオルを残され、脾臓(ひぞう)の摘出を強いられたとして、千葉県香取市の男性(53)が、病院を運営する同県旭市に約1億2300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(森冨義明裁判長)は9日、医療ミスを認め約1100万円の支払いを命じた。
 判決によると、男性は1983年、国保旭中央病院で胃の切除手術を受けた。2008年に別の病院で診察を受けた際、腹部に長さ約36センチのタオルがあることが判明。既に複数の臓器と癒着しており、脾臓を摘出せざるをえなかった。」


脾臓を摘出すると,感染防御機能力が低下したり,疲れやすくなる,ので,8級相当程度の賠償が認められます.森冨義明判事は,常識的な判決を下す判事で,本件も常識的な判決です.
それにしても,約36センチのタオルを残置するとは,驚きます。

【追記】
2006(平成18)年4月1日以降の事故からは,脾臓の摘出は13級11号となっています.本件事故は1983年なので旧基準という考え方が自然ですが,脾臓の摘出が2008年なので新基準という考え方もありえないではないです.ただ,いずれにしも,逸失利益の評価等で,裁判所は結論的にほぼ同じ常識的な金額を導くことができます.

なお,請求額をどのようにするかは原告の判断ですが,高額の請求をしますと印紙代が高くなります.
私は,ご依頼者様に160万円の一部請求を奨めています.
160万円の一部請求ですと1万3000円の印紙代ですむからです.
裁判上の和解は請求額に限定されることはありませんし,判決になるときは予想される判決にそって請求を拡張すればよいのです.時効にさえ気をつければ,一部請求は印紙代を節約でき,合理的な方法です.

【追記】

読売新聞「手術後、体内にタオル置き忘れ25年…和解成立」(2012年10月30日)は,次のとおり報じました.

「千葉県旭市の国保旭中央病院で手術を受け、約25年にわたって体内にタオルを置き忘れられた香取市の男性(53)が、病院を運営する同市を相手取り、慰謝料などを求めた訴訟は29日、東京高裁(高世三郎裁判長)で和解が成立した。

 和解内容などは明らかになっていない。病院は「取材にはお答えできない」としている。

 1審・東京地裁は今年5月、医師らの注意義務違反を認め、市側に計約1100万円の支払いを命じる判決を言い渡していた。」


谷直樹
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by medical-law | 2012-05-09 20:23 | 医療事故・医療裁判