弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

最高裁,弁護人の人数超過許可請求却下決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告を認め,原決定を取り消す

最高裁判所第三小法廷(裁判長裁判官大橋正春,裁判官田原睦夫, 裁判官岡部喜代子, 裁判官大谷剛彦, 裁判官寺田逸郎)は,平成24年5月10日,弁護人の人数超過許可請求却下決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告を認め,「原決定を取り消す。本件を高松高等裁判所に差し戻す。」との決定を下しました.  
理由は,以下のとおりです.

「本件抗告の趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
所論に鑑み,職権で判断する。

本件は,会社の代表取締役である申立人が,共犯者らと共謀の上,同社の業務に関し,法人税合計3600万円余りを免れたとされる被疑事実について,刑訴規則27条に基づき,弁護人の数を3人を超えて6人とすることの許可を求める旨の請求がされたところ,原々審がこれを却下する決定をし,申立人の抗告申立てに対し,原審が抗告棄却決定をしたので,特別抗告がされた事案である。

刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情については,被疑者弁護の意義を踏まえると,事案が複雑で,頻繁な接見の必要性が認められるなど,広範な弁護活動が求められ,3人を超える数の弁護人を選任する必要があり,かつ,それに伴う支障が想定されない場合には,これがあるものと解されるところ,本件においては,税務申告書に架空の減価償却費用を計上するなどして多額の所得を秘匿したという事件につき,犯意,共謀等を争っている複雑な事案であること,申立人は被疑事件につき接見禁止中であり,弁護人による頻繁な接見の必要性があること,会社の従業員,税理士事務所職員ら多数の関係者が存在し,これらの者と弁護人が接触するなどの弁護活動も必要とされることなどの事情が認められ,上記のような支障も想定されないから,刑訴規則27条1項ただし書に定める特別の事情があるものというべきである。

そうすると,原決定は,特別の事情があるとは認められないとして上記請求を却下した原々決定を是認したものであるから,刑訴規則27条1項ただし書の解釈適用を誤った違法があると言わざるを得ない。そして,3人を超えて何人の弁護人を許可するのが相当であるか改めて検討する必要がある。

よって,刑訴法411条1号,434条,426条2項により,原決定を取り消した上,本件を原裁判所に差し戻すこととし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。」


刑訴規則27条1項は,「被疑者の弁護人の数は、各被疑者について三人を超えることができない。但し、当該被疑事件を取り扱う検察官又は司法警察員の所属の官公署の所在地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所が特別の事情があるものと認めて許可をした場合は、この限りでない。」と定めています.
本決定は,この「特別の事情」について,最高裁の判断を示したものです.

私は,刑事事件はもう長いこと担当していませんが,至極適切な決定と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2012-05-16 02:01 | 司法