弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

前橋地裁平成24年5月18日判決,財団法人老年病研究所の医師の転医・相談義務違反を認める(報道)

毎日新聞「医療ミス訴訟:老年病研究所に220万円賠償命令−−前橋地裁判決」(2012年5月19日)は,次のとおり報じています.

「前橋赤十字病院に入院していた女性(当時77歳)が06年2月、脳腫瘍(しゅよう)で死亡したのは、同院の担当医が適切な時期にMRI検査などを行わず、経過観察中に診断した財団法人老年病研究所(前橋市)の担当医も適切な措置を取らなかったためだとして、遺族が両病院を相手取り計2200万円の損害賠償を求めた訴訟で、前橋地裁(西口元裁判長)は18日、同研究所に対し、計220万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。

 判決によると、同研究所の担当医は05年2月の診察で脳腫瘍を発見していたが、女性に対し早期に赤十字病院を受診するよう促さなかったと認定。前橋赤十字病院への請求は退けた。【塩田彩】」


前橋地裁は,医師が2005年2月の診察で脳腫瘍を発見しながら,早期に赤十字病院を受診するよう促さなかったことが,注意義務違反にあたるとしたわけです.

ちなみに,秋吉仁美編著「医療訴訟」は,転医・相談義務の具体的判断基準として以下の要素をあげています.
(a)重大で緊急性が高く,進行すれば予後不良であるなど,これに対する診療が必要な疾患が存在すること
(b)医師が上記(a)(病名は特定できなくともよい)を現に認識し又は認識し得るこ  と
(c)患者の疾患が医師の専門外又はその疑いがあるか,当該医療機関では人的・物的設備が十分でなく,当該患者に求められる診療が困難であること
(d)患者の疾患について,より適切な診療が存在し,それが医療水準に照らして是認されること
(e)転医先が時間的・場所的に搬送可能な場所に存在すること
(f)転医先が患者の受入れを許諾していること
(g)患者が転医のための搬送に耐え得ること
(h)転医することによって患者に重大な結果の回避可能性があること

本件は,私が担当した事件ではありませんので,上記報道からわかる範囲での判断になりますが,いずれも充たすと考えられます.

谷直樹
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by medical-law | 2012-05-25 19:44 | 医療事故・医療裁判