薬剤イレッサ,東京新聞社説,医薬品の安全性を高める責任は免れない
「肺の抗がん剤「イレッサ」の副作用死をめぐる訴訟で大阪高裁は、被告の国と製薬会社の責任を認めなかった。東京高裁判決に続く原告敗訴だ。だが、医薬品の安全性を高める責任は免れない。
イレッサは、肺がん患者の「最後の命綱」として二〇〇二年、日本で最初に販売が始まった。治療の有効性から今も使われている。
当時、使用が広まると副作用の間質性肺炎による死亡例が続いた。副作用死の可能性は八百人を超え、患者・遺族が国と製薬会社に損害賠償請求訴訟を起こした。
主な争点は、死亡するような副作用の情報を医療機関向けの添付文書に目立つように表示するなど注意喚起を十分にしたかどうか。
一審の東京地裁は国、製薬会社双方の、大阪地裁は製薬会社の責任を認めた。ところが昨年十一月に東京高裁は一転、注意喚起に「欠陥があったとはいえない」と原告敗訴の判決を出した。
今回の大阪高裁判決も、専門の医師には添付文書の記載方法で欠陥はなかったと結論付けた。
だが疑問は残る。厚生労働省の指示で製薬会社は販売開始から三カ月後に緊急情報を出し、添付文書も副作用情報が目立つよう改訂した。その後に死亡者は減った。
もっと被害を抑える記載方法があったのではないか。患者や遺族には納得できない判決だろう。
国や製薬会社は判決で「責任なし」となっても、患者が薬を安全に使用し治療に専念できる十分な策をとる責務はある。
イレッサ副作用被害を受け厚労省は、添付文書のチェックを法的に位置付け監視を強める方針だ。関連法改正案を今国会に出す予定だが遅れている。
〇八年には、薬害肝炎訴訟の原告らと薬事行政を監視する第三者組織の設置で合意した。薬による健康被害の発生や拡大を防ぐ手だてとして期待されている。今国会で法改正する約束だが、動きは鈍い。早急に実現すべきだ。
患者の救済策も足踏み状態だ。副作用による健康被害の救済制度を抗がん剤にも適用するよう厚労省の有識者会議が検討しているが、慎重な姿勢のままだ。専門家は知恵を絞ってほしい。
医療現場もマイナス情報を患者にしっかり理解してもらっていたか再点検を忘れるべきではない。
薬の安全性を高める対策や患者の救済策が実現しないのでは、健康被害に苦しむ患者や家族は二重に救われない。」
谷直樹
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