弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

福岡高裁平成24年7月12日判決,個人情報漏洩で病院の責任を認める(報道)

毎日新聞「患者情報漏えい:病院責任、2審は認定」(2012年07月13日)は,次のとおり報じています。

「難病の少女の病状を看護師から他人に漏らされて精神的苦痛を受けたとして、大分市の母親が同市内の整形外科病院の院長に、慰謝料など330万円の支払いを求めた訴訟で、福岡高裁(犬飼眞二裁判長)は12日、請求を棄却した1審・大分地裁判決を変更し、病院側に110万円の支払いを命じた。

 判決によると、母親は同市内で飲食店を経営。娘が難病のユーイング肉腫で病院に入院していた08年夏、店の男性客から突然「娘さん、あと半年の命なんやろ」と言われた。母親からの苦情を受け、病院側が調査した結果、この客は少女の担当看護師の夫で、看護師が病状を漏らしたことが分かった。少女は同年12月、19歳で亡くなった。

 大分地裁は、病院が個人情報の管理規程を作り、看護師に守秘義務に従うよう誓約書を提出させていたことから「病院に過失はない」と請求を退けたが、福岡高裁は「看護師が夫に患者の個人情報を漏らしていたのは今回だけではなく、病院側の指導や注意喚起が不十分だった」と判断した。【遠藤孝康】」


看護師は,患者情報の漏洩について不法行為責任(民法709条)を負い,病院は使用者としての責任(民法715条1項)が問題になります。

民法715条1項は,「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」と定めています。

(1)使用者(病院)が被用者(看護師)の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたか,(2)相当の注意をしても損害が生ずべき場合でであったか,が問題になります。これらの立証責任は使用者(病院)側にあります。
例えば,病院が,個人情報保護法に従って内規を設けていても,それだけでは,相当の注意をしたことにはなりません。
誓約書だけで監督について相当の注意をしたという大分地裁の判断は,使用者責任についての裁判判に照らし,相当ではありません。福岡高裁の判断が適切です。

なお,最高裁平成14年7月11日判決(宇治市住民基本台帳漏洩事件)は,宇治市が乳幼児検診システムの開発を民間業者に委託したところ,再々委託先のアルバイト従業員が住民21万人分の台帳をコピーして名簿業者に渡した事案で,住民一人あたり1万円の損害賠償が認めました。
ちなみに,弁護士,裁判官は,家庭内で仕事の話をしません。NHKのドラマで,裁判官が妻に事件の内容を話す場面がありましたが,現実にはあり得ません。
法律事務所の事務局は,守秘義務を厳正に守る人というのが,採用の絶対必要条件です.

谷直樹

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by medical-law | 2012-07-13 11:33 | 医療