弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

尊厳死法案への疑問

「尊厳死法制化を考える議員連盟」は,終末期の患者に対する延命措置の不開始を免責する案と,さらに延命措置の中止も免責する案について,検討しています.
同議員連盟が,2012年7月12日,障害者団体からのヒアリングを行ったところ,「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」(尊厳死法案)そのものに反対の意見が述べられました.

キャリアブレイン「尊厳死法案、「仕切り直し、一から議論を」- 障害者団体、終末期の定義を問題視」(2012年7月12日)は,次のとおり報じています.

「DPI日本会議」の尾上浩二事務局長は、「終末期の定義が非常に不鮮明なところに根本的な問題がある」と指摘。「仕切り直して、一から改めて医療や福祉を必要とする人たちと議論をして、考えてほしい」などと述べ、法案の撤回を求めた。

また、「人工呼吸器をつけた子の親の会『バクバクの会』」の大塚孝司会長も、「わたしたちの子どもはかなり重篤な状態で生まれてきたが、30歳近くになっても人工呼吸器をつけて暮らしている。終末期を定義できないことは、わたしたちの子どもが証明している」と述べた上で、「尊厳死の法制化には強く反対する」と強調した。」

「尾上事務局長は「『死期が間近』と規定しているが、どのような状態を指すのか」などと疑問を投げ掛けた。また、6日に東京都内で開かれた尊厳死法案をテーマにした公開討論会で、日本尊厳死協会の長尾和宏副理事長が、終末期を定義することは困難との見方を示したことを引き合いに出し、「確実な判定は可能と考えているのか」とただした。
 これに対し、長尾副理事長は改めて「終末期を定義するのは困難」としながらも、「2人の医師による判断は非常に重く、この方法は十分あり得ることだと思う」と述べた。」


患者は,十分な情報提供と分かりやすい説明を受けて,自由な意思に基づき自己の受ける医療を選択する権利があります.
真に患者本人の自由な意思に基づく自己決定であることを制度的に保証するため法的整備が必要です.

日弁連会長声明(2012年4月4日)は,次のとおり指摘します.

「当連合会は、2007年8月に、「『臨死状態における延命措置の中止等に関する法律案要綱(案)』に関する意見書」において、「尊厳死」の法制化を検討する前に、①適切な医療を受ける権利やインフォームド・コンセント原則などの患者の権利を保障する法律を制定し、現在の医療・福祉・介護の諸制度の不備や問題点を改善して、真に患者のための医療が実現されるよう制度と環境が確保されること、②緩和医療、在宅医療・介護、救急医療等が充実されることが必要であるとしたところであるが、現在もなお、①、②のいずれについても全く改善されていない。

そのため、当連合会は、2011年10月の第54回人権擁護大会において「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」を採択し、国に対して、患者を医療の客体ではなく主体とし、その権利を擁護する視点に立って医療政策が実施され、医療提供体制や医療保険制度などを構築し、整備するための基本理念として、人間の尊厳の不可侵、安全で質の高い医療を平等に受ける権利、患者の自己決定権の実質的保障などを定めた患者の権利に関する法律の早期制定を求めたものである。

本法律案は、以上のように、「尊厳死」の法制化の制度設計に先立って実施されるべき制度整備が全くなされていない現状において提案されたものであり、いまだ法制化を検討する基盤がないというべきである。」


まさしくそのとおりで,患者の権利法が制定されていない段階で,医師の免責を定める法律を制定することは,患者の真に自由な意思に決定に基づく終末期医療を妨げることになる危険があります.

谷直樹

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by medical-law | 2012-07-14 05:12 | 医療