弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

討論会『産科医療補償制度の本質を議論する』

NPO法人医療制度研究会が主催する,討論会『産科医療補償制度の本質を議論する』が,2012年7月22日,北里大学薬学部で開かれました.

キャリアブレイン「産科補償、原因分析の在り方めぐり討論会- 訴訟リスクなどが論点に」(2012年7月23日)は,次のとおり報じています.

「討論会では、開業医の立場から.池下レディースチャイルドクリニック(東京都江戸川区)の池下久弥院長が、原因分析報告書で医療行為が「誤っている」「劣っている」などの言葉で表現されることで、医療従事者が精神的に追い詰められたり、刑事責任を追及されたりするとの懸念を示した。
 また、原因分析報告書の分析内容について、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会の診療ガイドラインを守らなければ「有責」と判断される「ガイドライン至上主義」だと批判。「医師は一瞬、一瞬の判断を求められる。その判断がベストと思っても、予想外のことが起こることがあるのが医療行為であり、医師を責められない」と訴えた。さらに、原因分析委員会が医師以外も含めて構成されることに疑問を呈した。

 これに対し岡井氏は、昨年末までに原因分析報告書を送付した87例のうち、送付後に損害賠償が請求されたのは2例だけだと説明。「(脳性まひを発症すれば)かつては、半分くらいは何らかの行動が取られていた印象。これを下回ることは確実だ」と述べた。減少の理由については、原因分析委員会が医師に肩入れせずに原因を分析していることが、原因を知りたいと考える保護者の納得につながっているとの見方を示した。
 また、診療ガイドラインについて、「学会・医会の会員が、みんなで検討して『これは守りましょう』と自分たちが決めたこと。守っていないと指摘を受けるのは仕方ない」と述べた。原因分析委員会が医師以外も含めて構成されることについては、「一般の人が入っていることが、信頼を得る上で非常に大事」と強調した。【高崎慎也】」


過失があり真に回避できた被害については賠償されるべきです.そのような事案について訴訟リスクを回避しようとすれば,訴訟前の交渉の過程で相応の賠償に応じるべきでしょう.
例えば,その医師がそのとき主観的にベストと思って,分娩監視装置を装着せずに陣痛促進剤を投与し,その後医師にとって予想外のことが起きたとしたら,本当にその診療行為について責任を問われるのはおかしいのでしょうか.
池下氏の主張は,訴訟が過失がなく回避することも不可能な事案について起こされている(濫訴)という,誤った認識を前提にしているのではないでしょうか.

小林洋二先生は,「原因分析報告書で紛争が誘発され、裁判が頻発するという危惧には何の根拠もないことが明らかになりました。」と述べています.(「九州合同法律事務所のブログ」参照,「九州・山口医療問題研究会福岡県弁護団のブログ」ご参照)


谷直樹

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by medical-law | 2012-07-23 15:54 | 医療事故・医療裁判