弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日弁連,「国会及び政府の事故調査報告書についての会長声明」

日本弁護士連合会(日弁連)は,2012年7月27日,国会及び政府の事故調査報告書についての会長声明」を発表しました.

7月5日の「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(国会事故調)の報告書と,7月23日の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(政府事故調)の最終報告書について,次のとおり述べています.

「二つの報告書が一致して認定している点は、東京電力と国による事前の津波対策とシビアアクシデント対策が不適切であり、本件事故が東京電力と国による人災であるという点である。二つの公的な事故調査報告書の結論がこの点で一致したことは、今後の事故を巡る法的な責任を考える上でも決定的に重要な事実である。とりわけ国会事故調の報告書は、東京電力について「規制された以上の安全対策を行わず、常により高い安全を目指す姿勢に欠け」、「原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈し、規制機関に対しては、「規制当局が事業者の虜(とりこ)となり、規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで、事業者の利益を図り、同時に自らは直接的責任を回避してきた」とし、「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた」として、何度も事前に対策を講じる機会があったことに鑑み、「今回の事故は『自然災害』ではなくあきらかに『人災』である」と断定している。当連合会も、この認識を共有するものである。

次に、二つの報告書が結論において食い違いを見せている二つの点についてコメントする。第1点は事故原因に津波だけでなく地震が関連しているかどうかである。国会事故調報告書の基本的な考えは、事故の推移と直接関係する重要な機器・配管類のほとんどが、この先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査、検証することのできない原子炉格納容器内部にあることから、原因の特定が困難であるとしつつ、事故の主因を津波のみに限定すべきでないとして、具体的な根拠を挙げ、「特に1号機の地震による損傷の可能性は否定できない」としている。これに対して、政府事故調は最終報告書において、1号機について「地震発生直後から津波到達までの間、その閉じ込め機能を損なうような損傷を生じた可能性は否定される」としたが、「注」の中で、「閉じ込め機能を喪失するような損傷に至らないような軽微な亀裂、ひび割れ等が生じた可能性まで否定するものではない」として、国会事故調の見解を否定するものではないことを示した。国会事故調は津波に原因を限局していた昨年12月の中間報告における政府事故調の立場について「既設炉への影響を最小化しようという考えが東電の経営を支配してきたのであって、ここでもまた同じ動機が存在しているようにも見える」と厳しく指摘していたところであり、政府事故調が軽微とはいえ損傷を否定しなかったことには重大な意味がある。

もう一つの点は「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」(SPEEDI)の情報公開の遅れをどのように評価するかについてである。本件事故では、原子炉が炉心溶融を起こしており、放射性物質が広範にまき散らされる危険性を持っているという基本的事実が秘密にされた。そして文部科学省などはSPEEDIにより、大気中の放射性物質の拡散予測を行っており、米軍には3日後に報告されていたが、これらは市民には速やかに公表されず、2011年3月23日に枝野官房長官が国会質問に答えて計算例を紹介し、原子力安全委員会も試算結果を公表した。この点について、国会事故調は原子炉の状況を予測する「緊急時対策支援システム」(ERSS)とSPEEDI は、「基本的に一定の計算モデルをもとに将来の事象の予測計算を行うシステムであり、特にERSS から放出源情報が得られない場合のSPEEDIの計算結果は、それ単独で避難区域の設定の根拠とすることができる正確性はなく、事象の進展が急速な本事故では、初動の避難指示に活用することは困難であった」としている。これに対して、政府事故調は放射性物質がサイトから北西方向に広がった2011年3月15日から16日にかけて計算結果が公表されていれば、住民は放射能濃度の濃い北西方向に逃げないで済み、被ばくは最小限に抑えられたと評価している。国会事故調の指摘するとおり、個別の地点での正確な被ばく量を積算できるだけのデータがもたらされなかったことは事実であるが、どの方角に逃げれば被ばくを低減できたかが問題となっていることからすれば、政府事故調の結論の方が放射性物質の降り注ぐ中を逃げまどった住民の疑問に正面から答えていると評価できる。

これら二つの報告書の公表に先立つ6月20日、原子力規制委員会設置法が成立し、既設炉に新たな審査基準を適用していくバックフィット制度が導入され、新たな基準に適合しなければ運転は認められないこととなった。国会事故調の調査を踏まえれば、新たに設置される原子力規制委員会において地震を含む事故原因に即した新たな安全審査基準を策定し、この基準に照らして安全性が確実に確保できるかどうかを真に独立した専門家の下で判断するという手続が最低限必要である。現在、大飯原発と志賀原発1、2号炉の敷地内に活断層が存在する疑いが指摘され、大飯原発3、4号機は既に政治判断によって運転が再開されているが、万が一にも深刻な事故を起こさせないという原発の安全審査の趣旨に照らせば、活断層調査は原子炉を停止させた上で実施することが正しい判断である。よって、政府はこの観点からも、大飯原発3、4号機の運転を停止し、原子力規制委員会が策定する新たな安全審査基準の下で審査を行うべきである。

最後に、国会事故調も政府事故調も事故原因の未解明な点についての調査の継続を求めている。国会事故調は、国会に原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として「原子力臨時調査委員会(仮称)」を設置することなどを提言し、政府事故調は、「人間の被害」の全容について、総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ、被害者の救済・支援復興事業が十分かどうかを検証することを求めている。このような作業に着手することを、当連合会は国会と政府に強く求めるものである。」


同感です.

谷直樹

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by medical-law | 2012-07-27 18:51 | 弁護士会