弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

愛知県の病院,気管カニューレが外れた事故の外部の医師らの報告書(報道)

msn産経「危機意識の共有に課題」 脳性まひ男児死亡事故で報告書」(2012年8月10日)は,次のとおり報じています.

「愛知県春日井市の県心身障害者コロニー中央病院で1月、のどを切開して気管に気道確保のための器具を挿入した9カ月の男児が死亡した事故について、外部の医師らによる事故調査委員会は10日までに「治療対応に過誤はなかったが、危機意識の共有に課題があった」とする報告書をまとめた。

 県によると、男児は脳性まひのため自力呼吸が困難で、のどの切開手術を受けて「気管カニューレ」と呼ばれる器具を装着していたが、1月22日夜、体を硬直させて反り返らせる症状を見せた後、低酸素状態になり、翌23日に死亡した。

 報告書では、器具が外れたことが原因で男児が亡くなったと断定。気管カニューレを装着する治療法については「標準的な術式で問題なかった」としたが、器具が外れる恐れがあることを考え、体を反り返らせる症状を緩和させる治療を同時に行うことも検討すべきだったとした。」


心身障害者コロニー中央病院医療事故調査委員会報告(概要)は,以下のとおり,事故の再発防止及び改善策を提言しています.

「(1)患者情報の十分な収集と情報共有についての提言
① 転院等で治療方針が変更になった場合は、前医からの情報提供を共有し、治療方針についての認識の統一、意思決定の確認をする必要がある。
② 有用な情報共有のためには、これから何をするのかについて足並みを揃えること(ブリーフィング)や、処置後に全員で手を止めて検証すること(ディブリーフィング)の併用が有用とされる。今後はこのような情報共有の工程を意識し、関係診療科や職種間の連携を促進しながら、NICU後方支援病床受け入れ体制の整備を病院として整える必要がある。

(2)危機意識の共有についての提言
① コミュニケーションを向上させ、伝達事項の均一化が必要であり、また、報告文化の成熟に向けてチームでウイークポイントをサポートしていく必要がある。
② 「コミュニケーション不足」や「情報伝達の精度の低さ」を防止するために開発されたツールのひとつにSBARがある。SBARは報告行動の標準化を意図したものであり、SはSituation(状況)、BはBackground(背景)、AはAssessment(評価)、RはRequest and Recommendation(提案)を意味する。今後は、このような教育ツールを職員研修などに取り入れ、危機意識を医療者間で共有するシステムを構築する事が重要である。

(3)家族へのインフォームドコンセントの徹底と文面化について
① 患者家族の理解および同意とチーム医療を実践するために、医師の治療法の選択理由や、治療成績、安全性及び危険性について十分な説明と文面化を徹底する必要がある。
② 今後の在り方として、適切な時期に個別の症例に見合った内容のインフォームドコンセントを実施し、その内容をより具体的にカルテに記載する事が望まれる。手術に関する説明においては、特に術中から術後における重大な合併症や、御家族からの質問の有無、それに対する回答なども記載されるべきである。

(4)術後管理における医師のバックアップ体制、マニュアル化について
① ハイリスク患者の術後管理においては、それに伴う合併症に対応できる医師の常駐や、当直医に対する具体的な申し送り及び考えられる事態に対する対応についてのマニュアル化が必要である。

(5)医療安全管理システムの改善について
① 過失の有無や届け出の必要性については、まずは院内の第3者的立場である医療安全管理室に報告し、客観的な検証の下で病院として判断されるべきものである。今後は医療安全管理室への報告や、警察および保健所への届出、あるいは調査分析モデル事業などへの届け出の判断がスムーズにできるように、医療事故防止対策指針を早急に改定することが必要である。」


外部委員は,長尾能雅先生(名古屋大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部教授),鈴木達也先生(藤田保健衛生大学医学部小児外科教授),柴田義朗先生(弁護士 柴田・羽賀法律事務所)です.
このようにしっかりした外部の医師・弁護士を含めて調査すると,事故原因・背景事情が解明され,しっかりした提言がなされるのですね.

谷直樹

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by medical-law | 2012-08-10 16:41 | 医療事故・医療裁判