弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

宝塚市の病院,誤って気管チューブ本体の横から出ている空気漏れ防止のためのチューブを切断,事故調査へ

宝塚市立病院は,2012年8月16日,以下のとおり「-宝塚市立病院:医療事故の概要-」を発表しました.

「1.患者様の初期情報
50 代女性。甲状腺機能亢進症(甲状腺クリーゼ状態)の既往歴がありました。7月末に心肺停止状態で当院に救急搬送され、心肺蘇生により心拍は回復しましたが、低酸素脳症で意識の回復はなく、多臓器不全を伴っており当院に入院され治療中でした。患者様は自発呼吸のない状態で気管挿管の上、人工呼吸器での呼吸管理をおこなっていました。また、心機能補助のため大動脈内バルンパンピングも行っていました。

2.事故の内容
平成24年8月1日午後2時30 分 看護師が気管チューブを固定していたテープの取り替えのため、テープをハサミで切ったところ、誤って気管チューブ本体の横から出ている空気漏れ防止のためのカフの内腔1㎜程度のチューブを切断してしまいました。

3.患者様の容体カフチューブの切断により、気管チューブ自体の交換が必要となり、直後に気管チューブの交換を実施しましたが、交換までに時間を要しその間に血圧、脈拍などの循環動態が悪化し、緊急的に経皮的心肺補助装置を装着しました。
8月7日、患者様は血圧、頻脈が回復し、このときに装着した経皮的心肺補助装置は離脱し、8月9日、大動脈内バルンパンピングも離脱し、事故前とほぼ同じ状態となりました。
その後、治療を継続しておりましたが、8月13日午後2時35分、多臓器不全のため亡くなられました。

4.事故後の対応
以上の事実につきましては患者様のご家族に説明し、謝罪を行いました。
また、所轄の宝塚警察署、宝塚市健康福祉事務所には報告いたしました。

5.原因究明と再発防止
事故調査委員会により、事故原因の検証と再発防止策を取りまとめます。」


妙中信之病院長は「事故と死亡に因果関係はないが、心肺補助装置をつける状態にしてしまったことに責任を感じている。補償については家族と相談したい」と話した,とのことです(毎日新聞「医療事故:人工呼吸器チューブ誤って切断、女性死亡 宝塚」(2012年08月16日))

事故調査委員会の調査により,事故原因が解明され,実効的な再発防止策がとられることを期待いたします.

医療事故のうち,(1)過失(注意義務違反),(2)損害,(3)過失(注意義務違反)と損害との間の因果関係が3つとも認められるものだけが医療過誤として損害賠償を求めることができます.単に,医療事故があった,医療ミスがあった,というだけでは,医療過誤とは言えません.

過失(注意義務違反)によりチューブを切断したことと,本件患者の死亡との因果関係がなければ,死亡についての損害賠償責任は生じません.過失(注意義務違反)によりチューブを切断したことと,心肺補助装置をつける状態にしてしまったこととの間に因果関係があれば,その限度(慰謝料,心肺補助装置の費用等)での損害賠償責任を負うことになります.
しかし,ご遺族の方は,損害賠償より,なぜこのようなこと(チューブの切断)が生じたのか,その原因,経緯について本当のことを知りたい,というお気持ちになることが多いように思います.
その意味で,事故調査に期待いたします.

【追記】

宝塚市立病院は,2013年2月27日,そのホームページに次のとおり事故調査の概要を掲載しました.

平成24(2012)年8月1日発生の医療事故について(報告)
1 はじめに

本院は、平成24(2012)年8月1日に発生した気管チューブカフ送気用チューブの切断による医療事故に関し、同年10月4日に2名の外部有識者を含む医療事故調査委員会を設置し、以降4回の委員会を開催して事故原因の検証、再発防止策について、検討を行ってまいりました。

  12月10日開催の第4回委員会を終え、報告書全般にわたる文章表現の微調整作業は残るものの、同日、事故調査報告書として提出がありました。

本年1月中旬、事故調査報告書の取りまとめが完了しましたので、この報告書を踏まえ、今回の医療事故に関し、次のとおり本院の考え方を明らかにするとともに、報告書の公表を行います。


2 今回の医療事故に関する本院の考え方について

(1)事故原因について

 今回の医療事故については、「事故調査報告書」の中で 1)CCU看護師の支援体制、2)気管チューブ固定法などの指導・教育体制、3)人工呼吸器管理中の気管チューブトラブルの知識と対応、4)院内緊急事態発生時の応援要請システムの運用、5)医療用監視モニターの操作とデータ保全の5点について、職員教育やその習熟、及び院内における徹底ができていなかったとの指摘がありました。この点については真摯に受け止め、本院としてこのような事故が再び起こらないよう、再発防止に向けて懸命に取り組んでいく所存です。

(2)「事故調査報告書」の指摘に対する本院の対応について

ア 医療安全意識の向上に対する教育の充実

看護師の教育の機会と内容を見直し、院内で開催されている蘇生講習会、呼吸療法講習会の内容を再確認し、看護師間での教育内容に反映します。また、本件事案や疑似事案を題材に、危険予知トレーニングを毎年実施してまいります。

イ 気道管理に関する職員の再教育

気道管理の重要性を再認識し、院内で開催されている蘇生講習会や呼吸療法講習会の指導内容を見直しました。

今後、院内における各講習会においては、この見直し内容を活かして指導してまいります。また、主に医師を対象として、気管挿管の院内標準手順を周知徹底し、麻酔科医師を講師とした気管挿管研修会を開催し、気管挿管の最新情報や本件事故を踏まえたトラブル対応についても徹底をしてまいります。

  ウ 気道管理におけるトラブル発生時の応援態勢の再構築

院内の緊急事態発生時に行う従来の“ドクターハート”コールに加え、気道管理におけるトラブル発生時には気道管理に精通した医師が駆けつける“エアウェイ” コールを新たに設けました。

エ 医療機器の整備

院内で使用されている医療用監視モニターは数種類あり、各機器の操作に精通できていないことが見受けられました。このため、今後、各医療用監視モニターの操作に精通し緊急時のデータ保全が確実に行えるよう周知徹底してまいります。

また、併せて医療用監視モニターについては、機種を統一し標準化を進めてまいります。さらに、困難な気管挿管事案を想定し、これに対応できる各種気管挿管用具を整備し“エアウェイ” コールの現場では、これらの用具一式が活用できるようにしてまいります。


3 今回の医療事故が患者様の生命予後に与えた影響について

患者様につきましては、既に本院に救急搬送された時点で心肺停止の状態であり、救急外来で蘇生が成功し心拍は再開したものの、これ以降臨床的には「脳死」に近い状態が続いておりました。したがいまして、本件事故発生当時においても、患者様は、ほぼ脳死状態が継続し、救命することが不可能な状況にありましたので、本件事故が患者様の生命予後に影響を与えたとは考えておりません。


4 おわりに

今回の医療事故につきましては、看護師が気管チューブカフ送気用チューブを切断したことに端を発したものですが、主治医が救急搬送時から患者様家族の意向に応えようと懸命に治療を行った中で、事故調査報告書に掲げられた「事故の背景にあると考えられること」のため、気管チューブの再挿管に困難を極める事態に至ったもので、主治医を含めた担当診療科の医師の手技に起因するものとは考えておりません。

  今回の事故調査報告書を踏まえ、病院組織を挙げて、医療事故の再発防止に取り組むとともに、更に職員の医療安全管理意識を徹底させ、市民の皆様が安心して治療を受けられる医療環境を目指してまいります。」

【追記】
msn産経「医療事故300万円で示談へ 宝塚市立病院 人工呼吸器の管切断」(2014年5月23日)は,次のとおり報じました.

「宝塚市立病院(兵庫県宝塚市小浜)で平成24年8月、50代の女性入院患者の人工呼吸器の管を看護師が誤って切断し、死亡した医療事故で、同病院は22日、300万円を支払うことで示談すると発表した。23日開会の同市の6月定例議会で、議決を経て正式に決定する。

 病院によると、女性は甲状腺の病気を患っており、同年7月末に心肺停止状態で救急搬送され、心肺蘇生(そせい)処置を受け、入院した。同8月1日、看護師が女性の口に差し込まれている人工呼吸器の管を固定していたテープを貼り替えようとした際、誤って管の一部をはさみで切断。女性は同月13日、多臓器不全のため死亡した。

 病院が設置した事故調査委員会は、固定テープを切断する際、はさみを使用しないという指導が行われなかったうえ、担当医師への連絡が迅速に行われなかったなどトラブル発生時の対応が不十分だったと病院側の過失を指摘した。これを受け、病院と女性の遺族の代理人の間で示談交渉が行われていた。」



谷直樹

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by medical-law | 2012-08-16 19:48 | 医療事故・医療裁判