弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

石巻市の病院,昨年8月心嚢に刺した針を抜き忘れ死亡させる医療事故(報道)

毎日新聞「○○病院:刺した針を抜き忘れ 女性患者が死亡」(2012年9月4日)は,次のとおり報じています.

「宮城県石巻市の○○病院は4日、昨年8月に救急搬送された50代女性の救命措置の際、刺した針を抜き忘れたため死亡させる医療過誤があった、と発表した。病院側は女性の遺族に謝罪し、慰謝料などについて話し合いを進めている。

 病院によると、女性は末期がんの患者で昨年8月13日午前8時半ごろ、呼吸困難を訴えて救命救急センターに搬送され、20代の男性医師が心臓を覆う心嚢(しんのう)にたまった液体を抜き取ろうと長さ7〜8センチの針を刺した。女性は翌14日午前5時ごろに呼吸が停止し、約90分後に死亡が確認された。

 別の医師が心嚢に残された針を見つけたが、死亡報告書では死因をがんと記載した。その後、病院側が依頼した東北大病院による病理解剖の結果、男性医師が抜き忘れた針が心臓に刺さったため死亡したことが判明。これを受け病院側は同17日、女性が医療行為で死亡したと県警石巻署に報告した。

 記者会見した院長は「医療事故がなければもっと生きられる人の命を奪ってしまい、大変申し訳ない」と謝罪した。男性医師は今年8月末で依願退職した。【須藤唯哉】」



読売新聞「抜き忘れた針、心臓に刺さり女性患者死亡…石巻」(2012年9月4日)は,次のとおりじています.

「宮城県石巻市の○○病院は4日、昨年8月に救急搬送された同県美里町の女性(当時53歳)の救命処置で、20歳代の男性医師が心臓を包む心嚢(しんのう)に刺した針を抜き忘れ、死亡させる医療事故が起きたと発表した。

 病院側は遺族に謝罪し、石巻署に女性の死亡を届け出ている。同署は業務上過失致死の疑いもあるとみて調べている。

 同病院の発表によると、昨年8月13日、末期がんだった女性が救急搬送され、間もなく心肺停止状態となったが、蘇生措置で心臓は再び動き出した。その後、担当医師が心嚢に長さ約7~8センチの針を刺し、たまった液体を抜き取る処置をしたが、翌14日午前5時頃、呼吸が停止し、死亡が確認された。

 遺体を検案した別の医師が心嚢に針が残っていたことを発見。担当医師が院長らに報告し、依頼を受けた東北大病院が病理解剖した結果、抜き忘れた針が心臓に刺さったのが死因と判明したという。担当医師は「なぜ抜き忘れたか覚えていない」と説明。今年8月に退職したという。

 通常の処置では、ビニール製の筒に入れた状態で針を刺した後、針を抜き、筒から液体を出すという。」


河北日報「○○病院医療ミス 昨年8月、針抜き忘れ女性死亡」(2012年9月4日)は,次のとおり報じています.
 
「宮城県石巻市の○○病院救命救急センターで昨年8月、宮城県美里町の女性=当時(53)=の救命処置で、担当医師が心臓を覆う心嚢(のう)に刺した針を抜き忘れ、死亡させる医療ミスを起こしていたことが3日、病院への取材で分かった。病院側はミスを認めた上で「あってはならないこと。遺族の方には大変申し訳ない」と話している。
 石巻署などは業務上過失致死の疑いもあるとみて、医師や看護師らから事情を聴き、捜査している。
 病院によると、女性は末期がんを患い、昨年8月13日午前8時半ごろ、救急搬送された。間もなく心肺停止状態となり、蘇生処置でいったんは心臓が動きだした。
 循環器科の20代男性医師が心嚢に針を刺し、たまった液体を抜き取る処置をしたが、翌14日午前5時ごろ、呼吸が停止し、その後、死亡が確認された。
 遺体を検案した別の医師は心嚢に残された針を発見したが、検案書に死因はがんと記載した。針の件は担当の男性医師が院長らに報告した。
 病院側は東北大病院に病理解剖を依頼。解剖の結果、残された針が心臓に刺さったために死亡したことが分かったという。
 病院側の説明では、針は長さ約7~8センチ。本来はビニール製の筒に入れた状態で心嚢に刺した後、針を抜き取り、筒を通して液体を取り出す。男性医師は「なぜ抜き忘れたか覚えていない」と話しているという。
 病院側は遺族に謝罪するとともに、石巻署に医療行為によって女性が死亡したと届けた。
 院長は「東日本大震災の影響で救急患者が倍増し、医師や職員が疲弊していた時期だったが、大変申し訳ないことをした。今後は処置後にエックス線写真を撮るなどして再発防止に努めたい」と話した。
 女性の遺族は「もっと長生きさせたかった。病院側に誠意が見られず、きちんと責任を取ってほしい」と訴えている。」


たしかに実際疲弊していたと思いますが,ガーゼ残置の点検も厳しく行われている時代に,針を抜き忘れていることに誰も気づかないものなのでしょうか.

【追記】
NHK「針抜き忘れた医師書類送検へ 石巻」(2012年9月20日)は次のとおり報じています.

「去年8月、宮城県石巻市の○○病院で、呼吸困難に陥った女性の治療に当たった元医師が胸に刺した針を抜き忘れて女性が死亡した事故で、警察は、針が残っていないかどうかを確認する義務を怠ったなどとして、20日、元医師を業務上過失致死の疑いで書類送検する方針です。

去年8月、○○病院で当時循環器科に勤めていた20代の男の元医師が、呼吸困難に陥った宮城県美里町の当時53歳の女性に対して救命措置をした際、胸に刺した針を抜き忘れ、女性はその後、死亡しました。
病院では当初、死因を「乳がん」としていましたが、その後、抜き忘れた針が心臓を傷つけていた可能性が高いことが分かり、警察が業務上過失致死の疑いで捜査を進めてきました。
その結果、心臓を覆う「心のう」と呼ばれる膜の中に針を刺したまま抜き忘れたことが女性の死亡につながったとして、警察は、20日、元医師を業務上過失致死の疑いで書類送検する方針です。
また、女性が医療事故で死亡した可能性が高いことが分かったあとの警察への届け出が遅れたとして、担当の別の医師を医師法違反の疑いで書類送検することにしています。」


【再追記】

河北新報「○○病院針抜き忘れ女性死亡 当時の医師2人不起訴」(2013年1月26日)は,次のとおり報じました.
 
「宮城県石巻市の○○病院救命救急センターで2011年8月、宮城県美里町の無職女性=当時(53)=が救命処置後に医療ミスで死亡した事故で、仙台地検は25日までに、業務上過失致死(医療過誤)の疑いで書類送検された当時医師の男性(31)ら2人を不起訴処分とした。
 ほかに不起訴処分としたのは、医師法(異状死の届け出義務)違反容疑で書類送検された当時医師の女性(28)。
 地検は「処分の理由は明らかにできない」としている。
 送検容疑は、男性医師は11年8月13日午前9時5分ごろ、女性の心臓を覆う心嚢(のう)に針を刺し、心嚢液を抜き取る処置をした際に内針を抜き忘れ、14日早朝に心臓からの出血による心タンポナーデと急性循環不全で死亡させた疑い。
 女性医師は14日早朝、遺体を検案した際、抜かれているはずの内針が残っているのを見つけ、医療過誤の疑いがあると認識しながら、警察に届け出なかった疑い。
 病院によると、末期がんだった女性は13日午前8時半ごろ、救急搬送された。多量の心嚢液がたまっていたことから、男性医師は心嚢に針を刺して液を抜き取ったが、14日午前5時に呼吸停止となり、その後、死亡が確認された。」



【再々追記】

河北新報「「医療ミスで死亡」遺族が提訴 石巻」(2013年7月5日)は,次のとおり報じました.

「宮城県石巻市の○○病院で2011年8月、宮城県美里町の無職の女性=当時(53)=が医療ミスで死亡した事故で、女性の長女が5日、「担当医が針で心臓を刺した過失で死亡した」として、○○と担当医に計3300万円の損害賠償を求める訴えを仙台地裁に起こした。

 訴えによると、女性は呼吸困難となり、11年8月13日朝、病院に救急搬送された。担当医は心膜内にたまった液を出すため、心臓を覆う心嚢(しんのう)に針を突き刺す施術をし、女性は翌14日朝、死亡した。
 長女らの要請で同16日、東北大病院が病理解剖をした結果、心臓の右心室に針が貫通し、出血があったことが判明。死因は心臓の周囲に血液がたまって圧迫される「心タンポナーデ」とされた。
 ○○病院の14日付の死体検案書は死因が「乳がん」と記されたが、16日付で「心タンポナーデ」に訂正されたという。
 遺族側は「担当医は画像で確認するなどして慎重に針を刺して液を出すべき注意義務を怠り、外傷性の心タンポナーデで死亡させた。亡くなった原因を医学的、科学的な根拠に基づいて検証したい」と主張している。石巻赤十字病院は「訴状が届き次第、対応を検討する」との談話を出した。
 女性の死亡をめぐっては、○○病院が昨年9月に記者会見した。病院は当時、担当医が針で心嚢から液を抜き取った後、針を取り出さなかったことから女性が死亡し、遺体を検案した別の医師が心嚢に残された針を確認した-などと説明した。
 宮城県警は昨年9月、業務上過失致死の疑いで、担当医を書類送検。仙台地検が今年1月、不起訴処分としている。担当医は昨年8月、依願退職している。」



毎日新聞「石巻の医療過誤:死亡女性遺族、3300万円賠償提訴 日赤と担当医」(2013年7月6日)は,次のとおり報じました.

「石巻市の○○病院で2011年8月、女性(当時53歳)の体内に治療で置き忘れた針が心臓に刺さって死亡したとされる医療過誤問題で、女性の長女が5日、同病院を運営する○○と当時の男性担当医を相手取り、3300万円の損害賠償を求め、仙台地裁に提訴した。

 訴状によると、女性は11年8月13日、同病院で、心臓を覆う心嚢(しんのう)にたまった液体を針で排出する治療を受けたが、翌日に死亡した。同月16日に東北大病院で病理解剖され、針が心嚢を突き抜け心室まで貫通していたことが判明した、としている。

 ○○病院は昨年9月、この医療過誤問題を公表。「抜き忘れた針が心臓に刺さったため死亡させた」と説明していたが、長女側代理人の弁護士は「抜き忘れた針が刺さったのではなく、施術で針を心室まで貫通させたためだ」と主張している。

 同病院は「訴状が届いておらず訴えの内容はわからないが、真摯(しんし)に対応したい」としている。

 県警は、当時の男性担当医師を業務上過失致死容疑で、死亡診断書を作成した女性医師を医師法違反容疑で書類送検したが、仙台地検はいずれも不起訴処分としていた。【竹田直人】」


過失の内容に争いがあるようです.

【再々々追記】

共同通信「医療ミス、880万円支払い命令 死亡原因と認定、仙台地裁」(2014年12月18日)は,次のとおり報じました.

「宮城県の○○病院で、県内の女性=当時(53)=が死亡したのは、救命措置の際の医療ミスが原因だとして、長女が病院側に3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は18日、880万円の支払いを命じた。

 市川多美子裁判長は判決理由で、心臓を覆う2層の膜の間にたまった体液を抜く救命措置のため、医師が注射針を刺したが置き忘れ、それが心臓に約1ミリの穴をあけて死亡につながったと認定。「初歩的で極めて危険な過誤だ。残された貴重な時間を突然奪われた女性の苦しみは重大」と指摘した。」


産経新聞「心臓に注射針を置き忘れ… ○○病院の医療過誤を認定 「初歩的で極めて危険」と仙台地裁」(2014年12月18日)は,次のとおり報じました.

「宮城県石巻市の○○病院で、県内の女性=当時(53)=が死亡したのは、救命措置の際の医療ミスが原因だとして、長女が病院側に3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は18日、880万円の支払いを命じた。

 市川多美子裁判長は判決理由で、心臓を覆う2層の膜の間にたまった体液を抜く救命措置のため、医師が注射針を刺したが置き忘れ、それが心臓に約1ミリの穴をあけて死亡につながったと認定。「初歩的で極めて危険な過誤だ。残された貴重な時間を突然奪われた女性の苦しみは重大」と指摘した。一方、女性が末期がんで余命が限られていたため「慰謝料の算定は、長期間の生存が可能な患者の場合と同様にはできない」とした。」


心臓に注射針を置き忘れ… ○○病院の医療過誤を認定 「初歩的で極めて危険」と仙台地裁

 宮城県石巻市の○○病院で、県内の女性=当時(53)=が死亡したのは、救命措置の際の医療ミスが原因だとして、長女が病院側に3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は18日、880万円の支払いを命じた。

 市川多美子裁判長は判決理由で、心臓を覆う2層の膜の間にたまった体液を抜く救命措置のため、医師が注射針を刺したが置き忘れ、それが心臓に約1ミリの穴をあけて死亡につながったと認定。「初歩的で極めて危険な過誤だ。残された貴重な時間を突然奪われた女性の苦しみは重大」と指摘した。一方、女性が末期がんで余命が限られていたため「慰謝料の算定は、長期間の生存が可能な患者の場合と同様にはできない」とした。」

 判決によると、平成23年8月、女性は呼吸困難になり、病院に搬送された。救命措置を受けたが、翌日死亡した。


 判決によると、平成23年8月、女性は呼吸困難になり、病院に搬送された。救命措置を受けたが、翌日死亡した。さすがにこの事案では,病院側が責任を逃れることはできなかったのでしょう.
賠償額の認定では余命の点をかなり考慮した減額になっている点は一考の余地があるように思います.

谷直樹

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by medical-law | 2012-09-05 04:19 | 医療事故・医療裁判