弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

新潟地裁平成24年10月30日判決,大腸癌の検査義務違反で病院に賠償命じる(報道)

毎日新聞「がん死亡損賠訴訟:病院側過失認め、遺族勝訴−−地裁判決 /新潟」(2012年10月30日)は,次のとおり報じています.

 「妻が大腸がんで死亡したのは、通院していた○○病院(新潟市東区)の検査や措置が不十分でがんの発見が遅れたためとして同区の男性と家族が、同病院を運営する△△に約5300万円の慰謝料などを求めた訴訟の判決が29日、新潟地裁(三浦隆志裁判長)であった。三浦裁判長は病院側の過失を認め、計約2100万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性の妻はめまい、頭痛などの症状を訴え、同病院に通院し、08年7月の血液検査で異常値が認められたが、超音波検査しか行われず、09年9月に別の病院でCT検査などを受けたところ、大腸がんと全身への転移が見つかった。妻は10年7月、大腸がんのため死亡した。

 三浦裁判長は判決で「(病院側は)疾患を疑い腫瘍マーカー検査を実施するほか、他の適切な医療機関に転院させるべきだった」などとして、病院側の過失を認めた。

 △△は「判決文をよく読んで顧問弁護士と相談したい」としている。【塚本恒】」


一般に,リスク・主訴・症状→検査→診断→治療,という手順,流れで診療が行われますが,本件は「リスク・主訴・症状→検査」の部分に過誤を認めた裁判例です.

裁判所は「重大な疾患について優先的にその該当の有無が鑑別されるべきであり,主な争点として,①診療当時既に,客観的に,当該疾患を発症していたか,②当該疾患を疑うにたる主訴,症候等があったか否か,③当該疾患を疑った場合に求められる具体的な危険の選択,手順が検討される。」(秋吉仁美編『医療訴訟』279頁)という考え方に立っています.
なお,「当該疾患を疑うにたる主訴,症候」とは,当該疾患に特異的な主訴,症候のことをいうのではありません。
そもそも症状がない時点で早期発見,早期治療すべき,として健診が推奨されているような疾患では,リスクのある人にわずかでも当該疾患を疑わせる主訴,症候があれば,検査に結びつける必要があるでしょう.
早期の大腸がんの場合,自覚症状はほとんどありません。

検査にも求められる手順があり,医療過誤が問題になります.
本件は,「③当該疾患を疑った場合に求められる具体的な危険の選択,手順」の場面ですが,残念ながら「血液検査で異常値が認められたが、超音波検査しか行われず」としか報じられていませんので,判決をみないと経緯がよくわかりません.

谷直樹

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by medical-law | 2012-10-31 02:01 | 医療事故・医療裁判