弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

新潟県立十日町病院,4か月間骨髄炎として診療を続けた悪性腫瘍患者について和解(報道)

MSN産経「十日町病院の女性医療事故死 1千万円賠償で遺族と和解へ」(2013年2月8日)は,次のとおり報じました.

 
「新潟県は8日、平成19年2月に県立十日町病院(十日町市)で起きた医療事故で死亡した女性(当時10代)の遺族に、1千万円の損害賠償を支払い、和解することを決めた、と発表した。2月県議会に賠償額を提案する。

 女性は16年4月に同病院で骨髄炎と診断され、治療を続けたが症状が改善せず、同8月に別の病院に転院。転院先で、比較的まれな悪性腫(しゅ)瘍(よう)と分かり、治療を続けたが、19年2月に亡くなった。

 遺族は21年7月に「専門病院に転院させ、早期に化学治療が行われていれば死亡に至ることはなかった」として同病院に損害賠償を請求していた。」


秋吉仁美編著「医療訴訟」では,裁判例を分析した結果,転医義務の発生要件は次のとおりとされています.

(a)重大で緊急性が高く,進行すれば予後不良であるなど,これに対する診療が必要な疾患が存在すること
(b)医師が上記(a)(病名は特定できなくともよい)を現に認識し又は認識し得ること
(c)患者の疾患が医師の専門外又はその疑いがあるか,当該医療機関では人的・物的設備が十分でなく,当該患者に求められる診療が困難であること
(d)患者の疾患について,より適切な診療が存在し,それが医療水準に照らして是認されること
(e)転医先が時間的・場所的に搬送可能な場所に存在すること
(f)転医先が患者の受入れを許諾していること
なお,裁判例においては必ずしも言及されていませんが,次の点も考慮すべきとされています.
(g)患者が転医のための搬送に耐え得ること
(h)転医することによって患者に重大な結果の回避可能性があること

悪性腫瘍は,「(a)重大で緊急性が高く,進行すれば予後不良であるなど,これに対する診療が必要な疾患が存在すること」に該当します.
(c)以下の要件は,本件ではさしたる問題にならなかったものと思われます.
そこで,具体的な病名までは認識しなくても,重大で緊急性が高く,進行すれば予後不良であるなど,これに対する診療が必要な疾患であることの認識可能性があれば,転医義務が生じることになります.
転医義務判断の局面では,結果の回避可能性は或る程度の可能性が認められれば十分ですが,因果関係判断の局面では結果回避について高度の蓋然性をもって立証することが求められます.
転院が早ければ死亡に至ることはなかったかどうかは仮定の話ですので非常に難しい問題ですが,その化学療法を早期に行った場合の生存率等をもとに判断することになるでしょう,
本件は,とくに因果関係の立証のハードルについて十分検討した結果の和解でしょう.

谷直樹

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by medical-law | 2013-02-08 21:32 | 医療事故・医療裁判