弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

「琉球新報」に掲載された投稿「かっこいいお兄さん」をめぐって

「琉球新報」の「僕の主張・私の主張」に,「かっこいいお兄さん」という題で,祖父のためにタバコを買ったという自称小学校1年生の女の子の投稿が,2013年1月31日掲載されました.

投稿者である小学校1年生の女の子は,おじいちゃんがお年玉をくれたのでなにかプレゼントをしようと思い,おじいちゃんは「タバコが大好き」なので,近所のコンビニに行き,店員に「タバコをください」と言います.

「種類がいっぱいあってわからないから、こっそり(家から)おじいちゃんのタバコ一つ持っていきました。『おじいちゃんにあげたいので、これと同じものをください』。そういって、おじいちゃんにもらったお年玉袋を出しました。
お兄さんはお年玉袋の中を見て、「いくつ欲しいの?」と聞きました。私がいっぱいと答えると、このお金だと本当にたくさん買えるね。でもおじいちゃんは1個でじゅうぶん喜んでくれるよ」と言って、タバコの1個と、お釣りを入れたお年玉袋をくれました。
「優しいおじょうちゃんだね」。そう言ってお兄さんが頭をなでてくれるから、私は恥ずかしかったです。とってもかっこいいお兄さんでした。」


アピタル編集部記者錦光山雅子さんは,2013年2月7日「こんな形でタバコは忍び寄る」で以下のとおり書きました.

「この投稿、あなたはどう読みますか。「ほほえましい光景」と読みましたか。「問題のある光景」と読みましたか。

県内の公衆衛生の研究者や医師らで作る「沖縄県ニコチン依存症研究会」のメンバーで、医師の清水隆裕さんは「問題のある内容だ」と思い、会の仲間に知らせました。

何が問題なのか。清水さんはこう指摘します。

「小学校1年生という明らかな未成年者が『おじいちゃんにあげたい』というだけでタバコを買えてしまうこと自体が大きな問題」
「しかも、この子の家では、子どもが簡単にタバコを持ち出せているわけですから、家庭内のタバコ管理の問題も小さくない。さらにはおそらく、子どもの前でもタバコを吸っている。(タバコを吸わない人が、家や職場でタバコの煙にさらされる)受動喫煙もありそうだと予想されます」


同じくメンバーで医師の又吉哲太郎さんは、投稿が紙面に載った日、この投稿をfacebookで紹介しました。「何もめくじらたてなくても」「そんな世知辛い世の中、いいわけでもないでしょう」という反応が、医師をしている知人たちから出ました。

投稿が載った日、女の子の名前と一緒に載った小学校も、この投稿のおかしさに気づきました。

そもそも投書を寄せた名前の子は、その小学校にはいないのです。校長先生によると、掲載された日のうちに琉球新報に連絡を入れたそうです。

2月6日付の琉球新報に「おわび」が掲載されました。この投稿について「第三者による学校名・氏名を偽った投稿でした。内容も不適切でした。投稿を削除して関係者におわび致します」とあります。つまり、偽の名前をかたった投稿だったのです。
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私も琉球新報に事実確認と、「お詫び」で触れている不適切な内容がどこかを電話で尋ねました。ですが、「おわび記事に書いている以上のことはお話できません」と言われました。

研究会のメンバーも、投稿が掲載された後、内容に問題があると琉球新報に指摘したそうです。
メンバーによると、琉球新報からは、女の子の父親を名乗る人物からメールで投稿が送られてきた、と連絡があったそうです。指摘を受けた後、琉球新報が父親に連絡を取ったところ、怖かったので学校名や名前は偽ってしまったと明かした――という説明があったそうです。

研究会の清水さんは、今回の投稿をめぐる一件についてこう指摘します。「子供が1人で店に行き、タバコを買うことをよしとする内容の投稿が何の疑問も持たれずに流される。そしてそれを読んだ医療従事者でさえ疑問を持たない。ここに問題の根深さが隠されていると思います」

同じく又吉さんは、この投稿が、タバコ関連の業界の関係者がかかわった「ステルスマーケティング」(ステマ)なのではないか、と見ています。
ステルスマーケティングというのは、従来の宣伝・広告の形をとらない宣伝・広告のことです。新聞への投稿ですから、だれもこれが「宣伝」とは思いません。

しかし、この投稿を注意深く読むと、小学校1年生がまだ習っていない漢字があちこちで使われている上に、本来なら未成年の喫煙につながるからと子供には売らない店でも、こういうやり方、言い方をすれば売ってくれる、という詳しい手口を、タバコがほしい子供たちに「宣伝」するためのメッセージではないかとも読めます。

「『プレゼントやおつかいと言ったら、子供にタバコを売ってくれる店がありますよ』と。実際に何が起こるかと言えば、年長組または中高生の喫煙者が1~2年生の後輩に命令して買いに行かせるといったことです」と又吉さん。

タバコ規制が進む米国では、国の機関「米疾病管理予防センター」(CDC)がタバコに関する詳しい情報を載せています。
そのなかで、若者たちの喫煙予防として、親向けにメッセージを載せています。その中から、いくつか紹介します。

・If you use tobacco, you can still make a difference. Your best move, of course, is to try to quit. Meanwhile, don't use tobacco in your children's presence, don't offer it to them, and don't leave it where they can easily get it.
(もしあなたがタバコを吸うのなら、まだ変えられます。一番いいのはやめることですが、子供のいる前で吸うのはやめましょう。勧めたり、手を伸ばしやすい場所におかないでください)

・Start the dialog about tobacco use at age 5 or 6 and continue through their high school years. Many kids start using tobacco by age 11, and many are addicted by age 14.
(子供が5、6歳のときから高校生くらいの年齢までタバコについて話をしておきましょう。多くの子供は11歳までにタバコを吸い始め、その多くが14歳までに依存症になります)

・Discuss with kids the false glamorization of tobacco on billboards and in other media, such as movies, TV, and magazines.
(屋外広告や映画、テレビ、雑誌などのメディアに出てくるタバコのイメージがいかに間違った形で美化されているか、子供と話をしましょう)

・Support businesses that don't sell tobacco to kids. Frequent restaurants and other places that are tobacco-free.
(タバコを子供に売らない店を支援しましょう。禁煙になっているレストランや場所に出かけましょう)


研究会のメンバーに寄せられた「何もめくじらたてなくても」という反応は、まだ日本という社会に住む少なくない人が、タバコを吸うのは個人の責任であり、個人の決定だという思いを持っているからだと思います。

しかし、CDCのメッセージをみると、親自身の喫煙行為だけでなく、一見自分に影響が及ばないような周りの環境にも敏感であれ、という警告が伝わってきます。

CDCが広告や映画、テレビなどに気をつけろというのは、たとえば映画で美男美女が素敵な部屋でタバコをくゆらす姿だけをみても、「タバコ=かっこいい」というイメージが形作られてしまう。商品名を語らずとも、子どもたちにたばこへの誤ったイメージを与える、立派な「宣伝」です。

それだけ気をつけていないと、無意識の間に、子供は周りにあふれるタバコへの「よいイメージ」を受け入れてしまい、自分の喫煙につながってしまいかねないのです。

子どもがタバコを吸うことの危険性に異議を唱える人はほとんどいないと思います。では、さらに一歩すすめて、子どもがタバコに手を出すきっかけが、環境で左右されることについて、思いをめぐらしてみませんか。

そして、身の回りにあふれているタバコに関するさまざまな情報が、本当はどういう意味を持っているのか、一つ一つ吟味してみませんか。

琉球新報に載った投稿は、そういう教訓を私たちに与えてくれていると思います。」



(1)投書を寄せた名前の子はその小学校にはいないこと,(2)小学校1年生がまだ習っていない漢字があちこちで使われていること,(3)内容が不自然で子どもがタバコを買って贈ることが良いこととされていること(少なくともそれが問題があることとされていないこと)などから,ステマの可能性が高いと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2013-02-12 01:47