弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日本産科婦人科学会,日本医師会,日本医学会等5団体が新出生前診断について共同声明

毎日新聞「新型出生前診断:4月にも臨床研究、約20機関が準備」(2013年3月9日)は,次のとおり報じました.

「日本産科婦人科学会(日産婦)は9日、妊婦の血液から高精度で胎児の染色体異常が分かる新型出生前診断について、実施指針を決定した。導入を検討する病院は、日本医学会内に新たに設置した部会で審査を受け、早ければ4月から臨床研究として検査が始まる見通し。約20の医療機関が準備を進めているという。

 検査結果と中絶の関係について、指針は「簡便さを理由に広く普及すると、出生の排除や生命の否定につながりかねない」との懸念を指摘。「十分なカウンセリングのできる施設で限定的に行われるにとどめるべきだ」などとして、染色体異常の診療経験がある産婦人科医と小児科医が常駐することなどを求めた。

 昨年12月に公表された原案は対象妊婦の条件の一つとして「35歳以上」と明記していたが、「目安であって、厳密に記載するのは現実的ではない」として「高齢妊娠」に変更した。

 同日、日本医学会は日産婦と共同で声明を発表。新型出生前診断について「検査には倫理的に考慮されるべき点がある」として、実施はまず臨床研究として慎重に開始すべきだとした。また、全ての医師や医療機関、検査会社に対しても、日産婦が提示した指針を尊重するよう呼びかけた。

 臨床研究を計画している医師らでつくる「NIPTコンソーシアム」によると、昭和大など約20の大学病院などが現在、検査開始の準備を進めており、検査価格は、18万〜21万円程度になる見込み。どの病院で可能かは今後ホームページで公表する方針。【斎藤広子、久野華代】

 ◇具体対応が明記されず
 玉井邦夫・日本ダウン症協会理事長の話 指針は、染色体異常についてカウンセラーが妊婦や家族にどう情報提供するかなど、具体的なことが明記されていない。今後論議してほしい。診断技術が進歩しすれば、近い将来、胎児の染色体異常だけでなく寿命、身体能力まで分かるようになるだろう。自分が望まない子なら妊娠をやめることもできるようになる。ダウン症の子どもを産むかどうかだけの判断に限られる問題ではない。そんな時代につながることを考えてほしい。」



日本テレビ 「新出生前診断 日本産科婦人科学会が指針」(2013年3月9日)は,次のとおり報じました.
   
「妊婦の血液検査だけで、ダウン症など3つの染色体の異常が高い確率でわかる新しい出生前診断について、9日、医師の学会が実施の指針を発表した。検査は、「臨床研究」という限定した形で4月にも始まる見込み。

 日本産科婦人科学会・小西郁夫理事長「本検査には、倫理的に考慮されるべき点のあることから、まず臨床研究として、認定・登録された施設において慎重に開始されるべきである」

 日本産科婦人科学会・落合和徳医師「(意見公募で)検査について『絶対に反対する』『導入すべきでない』という方から、『制限なくやるべきだ』『誰でも受けてもいい』という、非常に幅の広いコメントが寄せられました」

 新しい出生前診断をめぐっては、妊婦の血液検査だけという簡単な方法だけに、体制が整備されない中で検査が広く行われる可能性があるが、障害者に関する情報不足のために安易な中絶が増えると指摘する声もある。

 そこで、9日、日本産科婦人科学会が発表した指針では、新しい出生前診断は、当面は「臨床研究」として対象や実施する医療機関を限定した形で行うこととした。対象となる妊婦は、超音波検査などで胎児の染色体異常の可能性がある場合や、ダウン症の子供を妊娠した経験がある、または高齢妊娠の場合とした。「高齢」が何歳かは明記せず、医療機関の判断で対象を決めるという。

 検査を行う病院は、独立機関による「認定制」とし、染色体異常や障害者の支援体制にも詳しい産婦人科医と小児科医師が常勤であることや、そのどちらかが臨床遺伝専門医の資格を持つこと、遺伝などの説明・相談を妊婦が検査を受ける前後に十分に行うことなどが条件となる。約20か所の病院が申請予定で、4月以降、認定された病院で「臨床研究」として検査が始まる予定。

 民間の会社がビジネスとして同様の検査の仲介を始める動きを受けて、9日に出された日本医学会や日本産科婦人科学会の共同声明では「学会の会員以外の医療機関、仲介会社などにも、指針を尊重するよう呼びかける」と明記したが、拘束力はないのが実情。

 一方、ダウン症の患者や家族で作る日本ダウン症協会の玉井邦夫理事長は「検査の仕組みと同時に、妊婦の相談に乗る遺伝カウンセラーなど、人の育成が重要だ。どういう情報が妊婦に提供されてどういう結果が導き出されたのか、できる限りオープンに議論してほしい」と話している。」



フジテレビ「日本医師会や日本産科婦人科学会などが新出生前診断について指針」(2013年3月9日)は,次のとおり報じました.

「日本医師会や日本産科婦人科学会などは9日、妊婦の血液を使ってダウン症などの染色体異常の有無を判断する新たな出生前診断について、指針を示した。現段階では、「広く一般産婦人科臨床に導入すべきではない」などとしている。

日本産科婦人科学会の小西郁生理事長は「実施はまず、臨床研究として認定・登録された施設において、慎重に開始されるべき」と述べた。

新たな出生前診断は、ダウン症などの染色体異常がないことが99.9%の確率でわかるもの。
9日に示された指針では、専門医による遺伝カウンセリングが適切に行われる態勢が整うまで、「広く一般産婦人科臨床に導入すべきではない」とされた。

また、新しい診断を行う際には、「十分な遺伝カウンセリングの提供が可能な、限られた施設において限定的に行われるにとどめるべき」との考えが示された。

対象となる妊婦は、染色体の異常がある子どもを妊娠したことがある場合や、高齢妊娠などに限定された。
検査を行うことができる施設は、3月中に認定され、4月から臨床研究として、新たな診断が行われる予定となっている。」


会見している方は,全員が男性でした.


【追記】

msn産経 「厚労省が学会指針尊重呼びかけへ 新型出生前診断 遺伝カウンセリングの必要性など」(201年.3月10日)は,次のとおり報じました.

「新型の「出生前診断」について、日本産科婦人科学会(産科学会)が実施指針をまとめたことを受け、厚生労働省が医療機関や妊婦に指針を尊重するよう呼びかける方針であることが9日、分かった。近く文書を出すほか、田村憲久厚労相も会見で説明する。厚労省が新型出生前診断について見解を示すのは初めて。

 指針は、第三者機関の認定を受けた施設で臨床研究として行われることとしたが、新型出生前診断は採血のみで精度の高い診断ができることから、認定外の施設に広がる恐れがある。また、診断の対象となる染色体疾患の子供が生まれる確率は1%以下だが、診断が広まればいたずらに妊婦の不安をあおりかねない。

 そのため、厚労省は妊婦へ正しい知識を伝える「遺伝カウンセリング」の必要性を重視。実施機関にも慎重な対応を促す。」


msn産経「」陽性だとどうなる? 課題は? 現状は? 新型出生前診断Q&A」(2013年3月10日)は,次のとおり伝えています.
 
「新型の出生前診断が限定された医療機関で4月に始まる見通しになった。新型出生前診断の現状、課題をQ&A形式でまとめた。(三宅陽子、道丸摩耶)

 Q 新型出生前診断とはどういうものか

 A 妊婦の血液に含まれる胎児のDNAを解析し、ダウン症など3種類の染色体異常を調べる。タンパク質を検出する母体血清マーカー検査や羊水中の細胞を分析する羊水検査など従来の出生前診断より早い妊娠10週から検査でき、約2週間で結果が出る。陽性だった場合の的中率は80~95%程度、陰性の的中率は99%以上。米シーケノム社が2011年に実用化し、費用は自己負担で約21万円だ。

 Q 1回の検査で染色体の異常が確定できるか

 A 産科学会の指針は、新型診断で陽性と出ても、確定には羊水検査を行う必要があるとしている。ただ、羊水検査は300分の1の確率で流産が起きる可能性があり、指針では事前にそうしたリスクも説明することとしている。

 Q 羊水検査で陽性となるとどうなる

 A 日本では胎児に異常があることを理由とした人工妊娠中絶は認められていない。だが、実際には母体の健康を害するなどという理由で中絶するケースは多く、妊婦の判断に委ねられているのが現状だ。そのため、ダウン症の患者団体などから、「新型診断は、命の選別につながる」という不安の声も出ている。

 Q 認定施設以外ではできないのか

 A 日本には血液を分析する検査会社がない。そのため指針は、日本医学会の部会が認定した施設で、臨床研究として行うことにした。しかし、指針に法的拘束力はなく、罰則もない。2月には民間企業が米国の医療機関での検査の仲介を開始。担当者は「自身の体の状況を知る権利はすべての人にあるはず」と話し、国内の複数医院で採血できるよう提携準備を進めている。提携施設が指針の要件を満たすかは不明だ。

 Q 検査希望者は多いか

 A 新型診断の実施を計画している医療機関への問い合わせは多く、妊婦の関心は高い。ただ、世論は二分している。産科学会が指針決定前に募集したパブリックコメントは200件以上寄せられ、新型診断の対象をもっと広げるよう求める声も、診断そのものに反対する声もあった。

 Q 今後の課題は

 A 技術進歩により、あらゆる疾患が出生前に分かる検査ができる可能性がある。そうなれば、どの疾患なら検査すべきなのか、線引きが難しくなる。また、「命の選別」が進むことも懸念される。中絶を選んだ妊婦は心に大きな傷を抱えるとされ、カウンセリング体制の充実も課題だ。」


母体保護法は,次のとおり定めています.

「第十四条  都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一  妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの 二  暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの
2  前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなつたときには本人の同意だけで足りる。」

このように母体保護法は,障害をもった子が産まれる可能性があることを,人工妊娠中絶の事由としていません.
そこで,障害をもった子が産まれる可能性がある場合の人工妊娠中絶について,母体保護法を離れて,親の自己決定権を考慮し,一般的な違法性の判定において違法ではないとされているとして,「ダウン症など3つの染色体の異常が高い場合」に親の自己決定権を考慮し,一般的な違法性の判定において違法ではないとされるのか,という問題があり,違法ではないとした場合,さらにすすんで親は「ダウン症など3つの染色体の異常が高い場合であるか否かを知る権利」があるのか,という問題があります.
人工妊娠中絶が違法とされない場合が広く,この検査を受けられる場合が狭い,というのは,矛盾があります.
リスクが高い妊婦に限ってこの検査を受けられるというシステムは,法的観点から合理的理由を見いだしがたいものではないでしょうか.
このシステムは,リスクが高い妊婦に対しこの検査を受けて陽性であれば人工妊娠中絶を選択するよう無言の圧力をかけることになりはしないか,懸念されます.


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-09 22:25 | 医療