弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

総務省が厚労省に勧告,「医薬品等の普及・安全に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」

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総務省は,2013年3月22日,「医薬品等の普及・安全に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」を公表しました.

総務省の行政評価・監視は,医薬品等の供給の迅速化の推進,後発医薬品の普及促進及び医薬品等の安全性の確保の観点から,医薬品等の承認審査の実施状況、治験実施体制の整備状況,後発医薬品の普及施策の実施状況、医薬品等の副作用等報告の実施状況等を調査したものですが,とくに「適切な副作用等報告の徹底」について,厚労省に改善を求めた部分は注目されます.

「厚生労働省は、医薬品又は医療機器の副作用等による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止する観点から、以下の措置を講ずる必要がある。

① 医療機関に対し、厚生労働大臣への安全性情報報告が励行されるよう当該報告制度の趣旨の周知徹底を図るとともに、引き続き、医薬品等製造販売業者が行う情報収集活動への協力を促すこと。

② 地方厚生局に対し、病棟薬剤業務実施加算の対象となる副作用の判断基準を示した上で、適時調査の際には同加算の届出を行った医療機関における一元管理等の加算要件の適合状況を確認し、適合しない場合は当該医療機関への指導を徹底させること。

③ 意識障害等の副作用報告がある医薬品の全ての添付文書を点検し、使用上の注意に意識障害等の副作用が発現する旨の記載のみで、自動車運転等の禁止等の記載がないものに対して、自動車運転等による事故を未然に防ぐため、当該医薬品の服用と自動車事故との因果関係が明確でない場合であっても、自動車運転等の禁止等の記載を検討し、記載が必要なものについては速やかに各添付文書の改訂を指示すること。
また、添付文書の使用上の注意に自動車運転等の禁止等の記載がある医薬品を処方又は調剤する際は、医師又は薬剤師からの患者に対する注意喚起の説明を徹底させること。」


総務省の勧告の前提となった調査結果は,次のとおりです.

「安全性情報報告の実施状況」について,次のとおり指摘しています.

「調査した23 医療機関における平成20 年4月から23 年11 月までの安全性情報報告の実施状況についてみたところ、収集した副作用等の情報を厚生労働大臣に報告していない機関が5機関みられた。当該5機関では、いずれも保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認める場合は直接厚生労働大臣へ報告する必要があることは、制度として承知しているとしている。

しかし、当該5機関では、副作用等を知った場合に厚生労働大臣へ報告義務がある医薬品等製造販売業者に対し情報提供すれば、当該業者からPMDAを経由して報告がなされるはずであるため、収集した副作用等の情報の多くを自ら直接報告は行わず、医薬品等製造販売業者へ情報提供していた。
さらに、前述の5医療機関のうち2機関では、収集した副作用等の情報について、一部の情報は、厚生労働大臣への報告及び医薬品等製造販売業者への情報提供のどちらも行っていなかった。



「 医療機関における安全性情報の管理体制の整備状況」について,次のとおり指摘しています.

「調査した23 医療機関のうち20 機関で、医薬品安全性情報等管理体制加算の届出がなされていたが、このうち2機関においては、医師、薬剤師、看護師等が把握した副作用情報等が、医薬品情報管理室へ報告されていない場合があり、当該加算の要件となっている副作用情報等の一元管理等が適切に実施されていないと考えられる状況がみられた。

また、厚生労働省は、地方厚生局が行う当該加算の適時調査において、適合状況を確認する際の一元管理等の対象となる副作用については、安全性情報報告を行った副作用としているものの、地方厚生局にはこの内容を示していない。」


「添付文書の使用上の注意の記載状況等」について,次のとおり指摘しています.

「医薬品の副作用は、皮膚障害、神経系障害、肝胆道系障害等服用者に直接被害をもたらすものであり、場合によっては重篤な症状を引き起こすものもある。このような副作用のうち、神経系障害等の中には、意識レベルの低下、意識消失、意識変容状態、失神、突発的睡眠(以下これらを総称して「意識障害等」という。)が報告されている。当該医薬品を服用することにより、自動車の運転、機械の操作、高所作業等危険を伴う作業(以下「自動車運転等」という。)に従事している最中に意識障害等が発現し事故が発生した場合は、第三者へ危害を及ぼす危険性があることから、このような医薬品の使用に当たっては、特段の注意が必要であると考えられる。

PMDAに対する意識障害等及び事故関連の副作用報告(以下「意識障害等の副作用報告」という。)について、平成15 年11 月から24 年6月までの状況をみたところ、一般用医薬品37 成分を含む751 成分において計6,205 件報告されている。また、意識障害等の副作用報告が多かった上位50 成分のうち、販売中止となったものや過量投与等による意識障害等を除いた46 成分中21 成分で計110 件の医薬品服用による自動車事故が報告されている。

当省において、当該46 成分の添付文書についてみたところ、24 成分については、使用上の注意に意識障害等の副作用が発現する旨の記載があり、かつ、発現状況に応じ自動車運転等の禁止又は自動車運転等の際は注意が必要とする旨(以下「自動車運転等の禁止等」という。)が記載されている。

なお、当該24 成分中17 成分で計102 件の自動車事故が報告されており、残りの7成分については、報告されていない。

しかし、その他の22 成分の添付文書については、使用上の注意に意識障害等の副作用が発現する旨の記載があるものの、自動車運転等の禁止等が記載されておらず、また、当該22 成分中4成分で計8件の自動車事故が報告されている状況がみられた。

これに対しPMDAでは、意識障害等の副作用が報告されている医薬品については、当該医薬品によって同副作用が発現する状況が異なるため、一律に自動車運転等を制限することは社会的影響も大きく適切ではないが、医薬品ごとの発現状況に応じた自動車運転等の禁止等の記載の必要性は認識しており、医薬品の服用と自動車運転等による事故との因果関係が明確な場合は、自動車運転等の禁止等を記載するが、前述の4成分における計8件の自動車事故については、明確に因果関係があるとはいえないため、添付文書に自動車運転等の禁止等の記載は不要としている。

しかし、因果関係が明確でないため添付文書に自動車運転等の禁止等が記載されていない医薬品であっても、明らかに因果関係が認められない場合は別として、医薬品の服用との因果関係が明確でない場合であっても、自動車運転等による事故を未然に防ぐため、添付文書に意識障害等の副作用が記載されているものについては、意識障害等の発現状況に応じた注意喚起は必要であると考えられる。
現に、使用上の注意に意識障害等の副作用が発現する旨の記載があり、自動車運転等の禁止等が記載されている医薬品の中には、自動車運転等による事故が報告されていないものもある。

さらに、前述の46 成分のうち1成分において、使用上の注意に自動車運転等の禁止等を記載した添付文書に改訂されたものの、改訂後も10 件の自動車事故が発生しており、うち1件の発生例の場合について、PMDAでは、医師又は薬剤師から患者に対し、医薬品の服用に際し自動車運転等の禁止等の説明がなされていないと考えられるとしている。」


なお,神戸地裁平成14年6月21日判決は,上部消化管内視鏡検査の際にドルミカムを静注したのに,患者に数時間自動車運転が危険であることを説明しなかった事案で,説明義務違反を認定し607万549円の損害賠償を命じています.添付文書の記載如何では厚労省,製薬企業の責任が生じ得ますし,説明義務違反があれば医師の責任が生じ得ます.


【追記】

薬事日報「「全規格揃えの見直しを」後発品施策等で改善要求‐厚労省に勧告 総務省」(2013年3月25日)は,次のとおり報じました.
 
「総務省は22日、後発品を普及させるため全規格揃えを見直したり、病棟薬剤業務実施加算の算定要件となっている適切な副作用等報告を徹底するよう厚生労働省に勧告した。同省が行政評価を行うために実施した調査結果で、医薬品の安全対策や後発品使用促進の取り組みに改善の余地があると判断された。

調査は、2011年12月から今年3月まで、厚労省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)、都道府県、医療機関等を対象に実施されたもの。新薬の迅速な提供や安全対策、後発品使用促進が適切に進められているかどうか評価した。

その結果、後発品の使用促進に関しては、調査対象の医薬品製造販売業者13社から、全規格揃えについて「需要が少ない規格もあり、非効率的な生産になっている」と見直しを求める意見が聞かれ、医療機関や薬局からも、「在庫管理費の増大につながる」「ほとんど調剤機会がない」等の声が多かったことから、必要な医療の確保を前提に、全規格揃えの見直しを関係団体の意見を踏まえながら検討するよう厚労省に勧告した。

また、医療機関と薬局で後発品への「変更不可」処方箋の発行状況を見たところ、それぞれの割合は平均11・9%、22・8%だったが、1医療機関では64・0%、4薬局では50%以上だったことから、後発品への変更に差し支えがあると判断した場合を除き、医療機関は処方箋の「変更不可」欄にチェックしないよう周知することを厚労省に求めた。さらに、医師と患者に後発品の使用への理解が進むよう、さらなる施策の検討も促した。

病棟加算要件に不適切例‐副作用情報の管理徹底を

一方、安全性情報の一元管理に関して、届け出のあった2施設で医師、薬剤師等が把握した副作用情報が医薬品情報管理室に報告されておらず、病棟薬剤業務実施加算の要件となっている副作用情報の一元管理が適切に実施されていないことが判明。また、厚労省は、地方厚生局に加算の適合調査で対象となる副作用内
容を示していないことも明らかになった。

こうした状況を踏まえ、総務省は厚労省に対し、地方厚生局に加算対象となる副作用の判断基準を示した上で、要件となる届け出医療機関の一元管理状況を確認し、適合しない場合は指導を徹底するよう勧告した。

また、医薬品の副作用情報を厚労省に報告していない医療機関5施設が判明し、薬事法に定められた義務が果たされていない事態が発覚したことから、医療機関に対して厚労大臣への副作用報告を徹底するよう求めた。さらに、意識障害の副作用報告が多かった上位46成分中21成分で自動車事故が報告されているが、22成分の添付文書には、使用上の注意に自動車運転の禁止等が記載されていないことが判明。因果関係が明らかでない場合でも記載を検討し、記載が必要なものについては速やかに添付文書の改訂を指示するよう促した。」



谷直樹

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by medical-law | 2013-03-23 04:31 | 医療