法曹養成制度検討会議,司法試験の年間合格者数3,000人程度との数値目標を掲げることは現実性を欠く
「今後の法曹人口の在り方」については,以下の結論を示しました.
「○ 社会がより多様化,複雑化する中,法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され,このような社会の要請に応えるべく,質・量ともに豊かな法曹を養成するとの理念の下,全体としての法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない。
○ 現在の法曹養成制度を取り巻く状況に鑑みれば,現時点において,司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは,現実性を欠く。現状においては,司法試験の年間合格者数の数値目標は設けないものとすることが相当である。
○ 今後の法曹人口の在り方については,法曹としての質を維持することに留意しつつ,法曹有資格者の活動領域の拡大状況,法曹に対する需要,司法アクセスの進展状況,法曹養成制度の整備状況等を勘案しながら,その都度検討を行う必要がある。」
その理由とするところは,以下のとおりです.
「・司法制度改革においては,法曹が社会において果たすべき役割がますます大きくなることから,法曹人口の増大を図る必要があるとされ,閣議決定において,「法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年ころには司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す。」との目標が定められた。なお,もとより,実際の司法試験合格者は,司法試験委員会において,法曹となろうとする者に必要な学識・能力を有しているかどうかという観点から,適正に判定されるものである。
・司法制度改革後の日本社会を取り巻く環境は変化を続けており,より多様化,複雑化する中,法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想され,このような社会の要請に応えるべく,質・量ともに豊かな法曹を養成するとの理念の下,全体としての法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない。
他方で,「プロセス」としての法曹養成制度が多くの課題を抱える中,司法試験の合格者数は,平成22年以降も2,000人から2,100人程度にとどまり,閣議決定された司法試験の合格者数は達成されていない。また,近年,過払金返還請求訴訟事件を除く民事訴訟事件数や法律相談件数はさほど増えておらず,法曹の法廷以外の新たな分野への進出も現時点では限定的といわざるを得ない状況にある。さらに,ここ数年,司法修習終了者の終了直後の弁護士未登録者数が増加する傾向にあり,法律事務所への就職が困難な状況が生じていることがうかがわれることからすれば,現時点においても司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは,現実性を欠くものといわざるを得ない。
・上記数値目標は,法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題であったことから,早期に達成すべきものとして掲げられた目標であり,このことを含めた司法制度改革によって,弁護士が1人もいない地域がなくなり,国民が法的サービスにアクセスしやすくなったこと,法曹が自治体,企業及び海外展開等においても広く活動する足掛かりとなったことなど,成果が認められる。もっとも,現状においては,司法試験の年間合格者数の数値目標を掲げることによって,大幅な法曹人口増加を早期に図ることが必要な状況ではなくなっているため,今後も新たな数値目標を設けるべきとの考えもあるものの,当面,このような数値目標を立てることはせず,引き続き,社会の要請に応えるべく,質・量ともに豊かな法曹を養成するとの理念の下,法曹としての質を維持することに留意しつつ,法科大学院の改善策(後記第3の2で検討する。)を進めながら,全体としての法曹人口を増加させることを目指すものとすることが相当である。
・その上で,将来,司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすべきことについて再び現実性が出てくることがあり得ることは否定しないものの,いずれにせよ,今後の法曹人口の在り方については,法曹有資格者の活動領域の拡大状況,法曹に対する需要,司法アクセスの進展状況,法曹養成制度の整備状況等を勘案しながら,その都度検討を行う必要があるものと考えられる。」
なお,法曹有資格者の活動領域の拡大状況,法曹に対する需要,司法アクセスの進展状況,法曹養成制度の整備状況等を勘案することなく,非現実的な数値目標を掲げ混乱を招いた者の責任については,言及しておりません.責任の所在を明らかにすることが必要ではないでしょうか.
谷直樹
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