バルサルタンを用いた大規模臨床試験に関する諸問題に対する日本高血圧学会の対応の経緯説明
「ARB・ディオバン(一般名:バルサルタン)の臨床研究をめぐり、2014年に予定される高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)の改訂に影響する可能性が出てきた。日本高血圧学会は、7月26日付で、「バルサルタンを用いた大規模臨床試験に関する諸問題に対する日本高血圧学会の対応の経緯説明」と題する文書を学会会員に公表した。
現行ガイドラインであるJSH2009では、Jikei Heart Study(東京慈恵会医科大学)の結果が引用されている。一方で、その後実施された、「VART(千葉大学)」、「Kyoto Heart Study(京都府立医科大学)」、「SMART(滋賀医科大学)」、「Nagoya Heart Study(名古屋大学)」の4研究は引用されていない。
経緯説明では、日本高血圧学会は2012年12月の理事会で、疑義が指摘された論文に関して、“ガイドラインで引用可能な論文かどうか”については理事会で検討することとし、審査対象や資料、判定する基準を明確にしていると説明。「Kyoto Heart Study(京都府立大)」について、「2012年12月の理事会で、疑義を指摘された論文への対処の原則が決定され、Kyoto Heart Studyはその段階で基準をクリアできていない」とした。
一方、ほかの4試験については「第三者機関による検証と高血圧学会の判断により採用の可否を決めること」をJSH2014策定の方針としているとした。
◎VART 解析データセットと原資料の詳細調査も進行中
Jikei Heart Studyについては、同試験の「引用もARB選択に強い影響を持っているものではなく、高血圧学会として、あるいは、ガイドラインにおいて、一部の研究成果だけを基にARBを推奨することも、特にバルサルタンを推奨することもしていない」とした。
Kyoto Heart Studyについては、「学会役員などがKyoto Heart Studyの論評をしたことによって企業の宣伝活動に関与したとする指摘があるが、学会として論文内容を論評したことはない」と説明。「権威ある学会誌に掲載された研究発表の内容については、称賛することも批判することもあるのが学問の世界であり、その都度、個人の考えを述べているものと認識している」とした。
一方、VARTについては、すでに第三者委員会が外部機関に委託し、血圧値およびエンドポイントの数は同じであることが分かっている。さらに、「詳細な検証のための解析データセットと原資料(カルテやイベント報告書、イベント評価委員会資料など)との照合については高血圧学会から千葉大学に調査を依頼し、現在調整中であるとの報告を受けている」とした。
そのほか、ガイドライン作成委員の利益相反(COI)についても、▽作成委員全員にCOI提出を求め、2013年1月10日に日本高血圧学会COI委員会が内容を審査、問題がないことを確認▽ガイドラインにおけるCOIは公開予定▽引用される各臨床研究に対し、エビデンスレベルをつけ、147名の作成委員の判断で総合的に推奨を決定している――としている。
なお、理事会で決定された“ガイドラインで引用可能な論文かどうか”の審査対象は、①英文誌においてpeer review を受けて発表された論文やLetterなどのコメントにおいて疑義が指摘された論文②高血圧学会学会誌のHypertension Researchに掲載された論文――のうち、高血圧学会理事会、JSH2013ガイドライン作成委員会に審議依頼があった論文。
判定は、審議過程の開示を求められた場合に開示に足るかどうかを考慮して行う。統計解析に基づく指摘では、論文著者や使用薬剤の製薬企業と利益相反のない統計専門家の意見や解析を参考に審議することが望ましいとしている。検討の資料としては、学会誌や商業誌などに掲載された論文、総説、letterなど、公に公開されたものを原則とした。ただし、相当する資料がない場合、学会から疑義の提示されている論文の責任者に意見を求めることとしている。」
現行ガイドラインであるJSH2009に引用されている東京慈恵会医科大学の「JIKEI Heart Study」 (JHS)でもデータの操作が行われていたにもかからわず、「引用もARB選択に強い影響を持っているものではなく、高血圧学会として、あるいは、ガイドラインにおいて、一部の研究成果だけを基にARBを推奨することも、特にバルサルタンを推奨することもしていない」としていますが、データ操作が行われた研究を引用すること自体、いかがなものでしょうか.
日本高血圧学会の動向が注目されます.
谷直樹
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