弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

総務省,医療安全対策に関する行政評価・監視<結果に基づく勧告>,事故情報収集等事業の実施状況

総務省が抽出調査した結果,29医療機関(報告義務対象医療機関17機関,参加登録申請医療機関12機関)では,発生した医療事故8,570件のうち319件しか日本医療評価機構に報告していないこと(報告率3.7%)が明らかになりました.全く報告していないのは4医療機関で,全て報告しているのは12医療機関でした.

なお,日本医療評価機構は,2013年8月28日,「医療事故情報収集等事業平成2 4 年年報」を発表し,その医療事故の件数は最多でしたが,きわめて低い報告率が多少上向いた結果とみるべきでしょう.

日本医療評価機構の医療事故情報収集等事業が実効的に機能するためには,事故報告義務を課せられている医療機関の独自の解釈を許さないよう,報告範囲を周知徹底する必要があります.

医療安全対策に関する行政評価・監視<結果に基づく勧告>」の医療事故情報収集等事業の実効性の確保についての調査結果と所見は,次のとおりです.

「【調査結果】

今回、事故情報収集等事業の実施状況等について、厚生労働省本省、評価機構及び143医療機関を調査した結果、次のような状況がみられた。
143医療機関のうち、事故情報収集等事業に参加しているのは45機関(報告義務対象医療機関26機関、参加登録申請医療機関19機関)ある。それら45医療機関による平成23年度の評価機構への報告状況をみると、
ⅰ) 当該医療機関で発生した医療事故に相当する事案を全て報告しているものが12機関(報告義務対象医療機関9機関、参加登録申請医療機関3機関)、
ⅱ) 当該医療機関で発生した医療事故に相当する事案のうち、当該医療機関の医療安全管理委員会等での審議を経て、その一部のみを報告しているものが29機関(報告義務対象医療機関17機関、参加登録申請医療機関12機関)、
ⅲ) 業務多忙による失念等により全く報告していないのが4機関(いずれも参加登録申請医療機関) となっており、評価機構では医療事故の発生状況が十分に収集・把握できていない状況となっている。

また、上記ⅱ)に該当する29医療機関では、発生した医療事故8,570件のうち、319件しか評価機構に報告しておらず、その理由として、
ⅰ)評価機構が求める基準のうち「医療機関内における事故の発生の予防及び再発の防止に資する事例」のみが報告対象であると解していたため(1機関)、
ⅱ)医療事故の内容が高度(又は初歩的)であるものは、他の医療機関における発生予防や再発防止につながらないとして報告から除外していたため(2機関)などとしている。

このように、一部の医療機関には、法令等で定める事故等事案の内容が十分に浸透しているとは言えない状況となっている。

さらに、厚生労働省は、「特に報告を求める事例」については、医療機関からの照会を踏まえて修正している一方で、事故等事案の内容を具体化したものとして示した「報告範囲の考え方」及び「事故報告範囲具体例」については、平成16年度の事故情報収集等事業開始の際に、各都道府県等を通じて医療機関に周知し、それ以降見直しを行っていない。
しかし、調査した医療機関からは、ⅰ)具体的にどのような事例を報告すべきか判断に苦慮している(1機関)、ⅱ)報告すべき事案について、より具体的な内容の提示をしてほしい(2機関)といった報告範囲の具体化についての意見が聴かれた。
このため、事故情報収集等事業による事例の蓄積を踏まえて、報告が必要なものの新たな具体例の提示も含めた報告範囲の医療機関への周知徹底に引き続き取り組んでいくことが重要である。

【所見】

したがって、厚生労働省は、事故情報収集等事業の実効性を確保する観点から、医療機関に対し、それぞれの機関によって判断が異なることがないように法令等で定める事故等事案の内容を注意喚起するとともに、事故等事案の報告範囲について、事故情報収集等事業による事例の蓄積を踏まえた新たな具体例の提示を行うなど、その周知徹底に引き続き取り組む必要がある。 」


谷直樹

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by medical-law | 2013-08-31 05:51 | 医療事故・医療裁判